事例紹介:JR西日本様

-ファシリテーションを通じて考動する組織を実現する 〜スキルを身に付けた仲間の想いと行動が組織を変える

全社的な風土改革に取り組む西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)では、本社社員の約1割を超える百数十名がファシリテーターとして活躍しています。平成24年末には各支社まで広がり、その数は300名を超える予定で、その活躍は部署内のミーティングはもちろん、社内の重要会議にまで広がっています。総合企画本部考動推進室のメンバーは、全社的にファシリテーターの実践の場を広めるための働きかけを行い、自らも部門間連携や課題解決の場でのファシリテーションを実践し、風土改革に向けた大きな手ごたえを感じていらっしゃいます。case_jr1今回は、その考動推進室の井上敬章室長、長谷川勝洋副室長、松井元康課長、石飛雄高課長に、お話を伺いました。

 

 

 

写真<後列左から>上田政治氏、長谷川勝洋氏、井上敬章氏、松井元康氏
<前列左から>川本俊文氏、石飛雄高氏、西垣拓也氏

企業風土改革に腰を据えて根本から取り組む

―まず、考動推進室が生まれたきっかけ、背景を教えていただけますか?

井上氏: 「考動推進室」は総合企画本部内に平成22年12月に設けられました。前身は、社内の風通しの悪さなどの企業風土を改革するために、21年12月に設置された「企業再生推進本部」です。これは1年間の設置期限を終えて、22年11月末に発展的に解散し、「変革の推進にじっくりと腰を据えて根本から取り組む」ために「考動推進室」が発足しました。現在写真の7名のメンバーで取り組んでいます。

―風土改革はどのような考え方で進められたのですか?
松井氏:風土改革が根付くためには、目に見えやすい、仕組みや制度、組織などを変えるだけでは十分でなく、部門間連携のあり方や、意見が言いやすい職場の雰囲気、一体感、相互理解といった、目に見えにくい部分を変えていく必要があると考えました。これらの問題を、場当たり的にパーツごとに解決するのではなく、腰を据えて根本的に解決したいと考えて、そのための方法を探し始めました。 そんな時、たどりついたのがファシリテーションスキルでした。当初課題となっていたのは、無駄な手続きの簡素化、会議の効率的な運営、取り組みが有効に機能するための前提(心構え)の浸透、全体最適の観点からの系統間・組織間の連携、自由闊達なコミュニケーションなどです。課題は様々でしたが、多くのことに対して、ファシリテーションが解決のツールとして有効だと思いました。

最初は理解されなかった「ファシリテーション」

松井氏:すぐに、「風土改革を実行する為にこんなすばらしい効用・効果があるので導入したい」という話を推進室のメンバーにしました。ところが、ほとんどの人が「ファシリテーション」という言葉も知らない。自分自身もそんなに詳しい訳ではない。そんな中でまず23年2月にPFCさんが実施しているファシリテーション研修を受講しました。そして研修で教わったスキルを、すぐに推進室内のミーティングで使い始めたら、室長や他のメンバーもその良さをわかってくれて、それをきっかけとして、ファシリテーションを導入する取り組みが始まりました。
井上氏:ファシリテーションが部門内でのミーティングだけではなく、部門間連携に効果的で、風土改革につながる手法であることがすぐにわかってきました。そして、23年9月に日産自動車のV-upプログラムの事例なども参考にしながら、部門長からのオーダーを受けて行う課題解決の仕組み、部門間連携の仕組みを検討し、月1回開催している役員出席の考動推進会議で提案したのです。この仕組みがきっかけとなって、組織風土も変えていけるのではないかと考えました。 ところが当初は、私どもが、「オーナー」とか「リーダー」とか「ファシリテーター」とか複数の目新しい概念を出したことや、仕組みありきで唐突に提案したことが原因で、納得を得られず、正直戸惑いました。 そこで推進室内で改めて話し合い、かちっとした仕組みとして導入するよりも、まずは個人のスキルアップとして取り入れて、徐々に目指すところに向かっていく方がスムーズに受け入れられやすいのではないか、という結論に至りました。具体的ですぐ役立つスキルとして身に付けてもらうため、まずはファシリテーターを養成し、将来の課題解決につなげていこうと考えたのです。
―現在はどのくらいの方が受講されているのですか?
井上氏:今、本社で約180人です。本社の人員は約1,300人ですから、約1割を超えました。「メンバーの1割ぐらいがファシリテーションスキルを持てば、会議を通じて組織は変わっていく」と言われていますから、形としてはもうその段階に来ているわけですね。さらに、今年度からは支社社員も対象にしており、今年(24年)末で合わせて300数十人になる予定です。

グループ会社や協力会社との連携への活用

―風土改革につなげるために、推進室では研修以外にも様々な取り組みをされていますね。
井上氏:はい。とにかく使ってもらうこと、そして使った成果を実感してもらうことが大切です。そのために、本社内の部室長や課長に、「研修受講者に、彼らが学んだファシリテーションスキルを使える場を与えてほしい」と営業活動に回ったり、われわれが実際にファシリテーションをして、部門をまたがる問題解決を支援したりすることも行っています。現場での一例で言うと、たとえば線路のメンテナンスには、弊社保線区・グループ会社・協力会社のように、様々な組織が関わります。今までは、作業プロセスのほとんどを保線区で決めてしまう結果、後になって手戻りや遅れが発生しがちでした。そこで、保線区・グループ会社・協力会社が一堂に会するミーティングを開催し、ファシリテーターの支援により、関係者全員で対策案を検討し、3者の連携メニュー作りを行いました。その結果、トータルとして工事の更なる安全性の向上やスピードのアップという大きな成果をあげることができました。こういう事例を目のあたりすることで、現業機関の社員にもファシリテーションの効果や、やり方を知ってもらえます。実際、ミーティング終了後のアンケート(9箇所、参加者合計131名)において、「今回のような取り組みや進行は、課題解決のために有効であると思いますか?」との問いに対しても、9割以上の参加者から「有効」という回答がありました。更には、「自分のところにも来てほしい」というオーダーが入ってきて、より一層ファシリテーションの裾野が広がるという効果も得られつつあります。
―受講者の方々も自主的に様々な取り組みをされているそうですね。
松井氏:はい。経営トップと本社の一般職社員との意見交換会や、年度方針策定時の部室内ミーティング、仕事の進め方の見直しについての部室内ミーティングなど、8割ぐらいの受講者が自主的に実践してくれています。研修効果を測定する実践度アンケートでも、ミーティングの方法は92%の人が“良くなった”、時間は52%の人が“削減した”、具体的なアウトプットの量は54%の人が“増えた”いう結果が出ており、これからが更に楽しみです。
井上氏:自主的なものも含めて、取り組みは確実に広まっている感はあります。グループ会社等に出向している管理者向けの研修を実施した時に「ファシリテーションという言葉の意味が分かる人?」と聞いたら、8割ぐらいの社員が手を挙げました。もっと少ないと思っていたので、感動しました。それだけ社内での認知度が高まっているということではないかと思います。 今年の3月の社内誌に掲載され、社内で広報されたのも大きかったと思います。
―どのように取り上げられたのですか?
井上氏:経営トップと本社各部室との意見交換会で、ファシリテーションを取り入れたことが掲載されました。駅業務部の課長がファシリテーターを務め、時間配分や内容を示した進行表を掲示し、出席者の意見を書いたポストイットを貼り出して“見える化”するなどして、活発な議論を促進しました。出席者からも、「納得感の高い議論ができた」という感想が得られました。

経営会議の進め方について研修受講者がフィードバック

―経営会議でも研修受講者を活用したとか?
井上氏:はい。担当役員からのリクエストで、ファシリテーション研修を受講した社員数名に、3回にわたって経営会議を傍聴してもらったことがあります。傍聴した社員からは「論点をより明確にすべきでは」「時間管理が不十分」などいろいろなフィードバックがありましたので、これらを踏まえて会議の進め方などの見直しを行う一方で、役員一人ひとりにフィードバックしました。また、役員自身にもPFCさんのファシリテーション研修を受講してもらったこともあって、それ以降は、事務局の努力もあって、論点の明確化や時間管理がきっちりと行われるようになり、より効率的でメリハリのある会議になりました。
―理解者が少ない状況からのスタートで、様々な成果を生み出すことができたのは、なぜだと思われますか?
長谷川氏:井上室長の話にもありましたが、「仕組み」から入れようとすると、社員は「もう新しい仕組みを入れないでくれ」とか「形から入るのはやめてほしい」といった反応になりがちです。ですので、既存の仕組みの中で、ファシリテーションのマインドやスキルを使って部門間の問題を解決していく。解決能力が高まり、解決しなければという意思を皆が持つようになっていく。協力的な上司も増えていく。「小さく入って大きく広げる」、これが良かったと思います。

職場ですぐに使えるスキルを追求したプログラム

―PFCのプログラムやコンサルタントについてはいかがでしょうか?
石飛氏:「スキルを伝達すれば良いでしょ」ではなく、常に「受講者がスキルを持ち帰って仕事にどう反映できるか」という観点から考えていただけるところが良いですね。受講者の顔ぶれや理解度、業務との関連性などを見ながら、その場で内容をカスタマイズしていただけるのも助かります。 また、研修の後は、われわれスタッフと振り返りをして、「次回からここはこういう風に変えましょうか」というような提案もいただけて、職場に戻った受講者が少しでも使いやすいようにと、毎回ブラッシュアップされていきます。また、今のメインの講師の足立さんは、もう百人を超える弊社の社員にお会いいただいていますから、気質や風土、組織間のつながりまで、かなり正確なイメージを持っていただいていますし、足立さん自身が事業会社での豊富な経験をお持ちなので、それを踏まえて、たとえば横文字をわかりやすい言葉に言い換えるとか、弊社に合う、ちょっと泥臭い内容にカスタマイズしていただけるのがとても良いです。受講者のぶっちゃけ話を参考にして、次の回から研修の内容が一部変わっていたりするんです。

JR西日本が今後目指していく姿は

―今後はどのように取り組みを進めていきたいとお考えですか?
井上氏:僕は、この取り組みは道半ばだと思っているんです。今はまだファシリテーターを養成できただけで、養成イコール成功とは思っていません。彼らが、ファシリテーションをもっともっと使って、もっともっと成果が出てくるのを期待しています。どうしても縦割りで物事を考えがちな風土の中で、皆がファシリテーションマインドを持って、部門を超えて、全体的な視点、お客様・現場起点で物事を考え、考動できるようになること。様々な課題を解決するツールとしてファシリテーションが使われ、課題が早く解決され、各職場での社員の考動によってお客様が喜んでくださり、結果として会社が成長し、ステークホルダーの皆様も喜ばれ、さらに社員のやりがいにつながる、というスパイラルが回るようになるといいですよね。
長谷川氏:ゴールのイメージは 「何割の人間がファシリテーション研修を受講したか」という数字ではなく、組織の「状態」だと思うんです。タコ壷に入ってこれは自分の仕事ではないからと他部署の問題に知らん顔をするとか、問題を放置しているという状態ではなく、間に落ちたボールでも取りに行く。部門間の課題を解決するために、必要なメンバーが集まって高い意識を持って解決していくことを通じて、ファシリテーションの広義の目的である「企業風土の変革」が実現されていく、組織が常にこの状態にあり続けることがゴールだと思います。