事例紹介:パーソルキャリア株式会社様

社会にとって真に意義のある組織ビジョンを描写するために~パーソルキャリアの経営陣による“パーパス”(存在意義)の議論

パーソルキャリア株式会社では、「ZIBOON(ジブーン)」という活動に全社で取組んでいます。PFCは、月1回行われる経営陣によるロングミーティングのファシリテーションをご支援していますが、取組みの最初に行ったワークショップの一部をご紹介します。
戦略人事統括部・エグゼクティブマネジャーの加々美祐介さんにお話をお伺いし、取り組みの詳細についてはPFC代表の松村卓朗がまとめました。

 

(左から)乾宏輝氏・加々美祐介氏・三宅真梨子氏・沖津泰彦氏

加々美氏:
パーソルグループは「はたらいて、笑おう。」をブランドタグラインに掲げています。(今、このポスターを皆さんも駅などで目にする機会が多いと思います)
PERSOL(パーソル)とは“人”は仕事を通じて成長し(PERSON)社会の課題を“解決”していく(SOLUTION)という意味の造語です。
これには、どんなに人の働き方や組織のあり方が変わっても、「人は仕事を通じて成長する」ことだけは変わらないという想いがあります。
そうした社会を実現することに弊社は大いに貢献したいと思っていますが、そのためには、社会課題を自分ごととしてとらえ、その問題解決に向けて、自ら主体的に関わり、躍動していく社員で組織を溢れさせることが欠かせないと考えました。
そこで私達は「自分」から派生した「ZIBOON」という言葉で銘打った、カルチャーを含めた組織の器や人材の変革活動に取り組むことにしました。

「ZIBOON」の活動は、経営陣が定期的に集まり、向かう方向性や変革の道筋を議論することから始めましたが、PFCの松村さんに、ファシリテーターとして関与していただくことにしました。

以下、松村が取り組みの詳細についてご紹介します。

ビジョンの描写の前に、パーパス(存在意義)を考え抜く

リーダーにとって、組織のビジョンを掲げることの重要性は、今さらあらためて述べるまでもないだろう。
しかし、その重要性は誰もが分かっていても、実際に効果的なビジョンを策定し掲げることができている組織は多くはない。とりわけ、そのビジョンを聞いた皆がこの組織に属していることを誇りに思い、「是非実現したい」というモチベーションを引き出し、実現に向かうエネルギーが自然と生まれるようなビジョンを描くのは決して容易ではない。
私達もこれまで数多くの企業でリーダー達によるビジョン作りをご支援してきたが、将来像をなかなか効果的に描けずに苦労するリーダーの姿を目の当たりにしてきた。そのような皆さんに今回、ビジョンを考える前に“パーパス”(存在意義)を考え抜くことを通じて、将来構想をより効果的に描くヒントを紹介したい。社会における自組織の存在意義を考え抜くことで、何より、リーダー自身が自らの情熱を傾けることのできる要素を見出だすことができるはずだ。

未来を予想するのではなく方向性を見出し、未来を作る

パーソルキャリアでは、経営陣が集まり、将来構想の議論を始めていた。少子化や雇用の多様化が進む不安定で不確実な将来に向けて、新たな事業の方向性や組織や人材の確かな在り方を見出すことは経営の最重要課題だった。しかし、PFCがご支援するにあたって懸念したのは、将来を議論することの難しさだ。「AIが発達していて多くの仕事がなくなる」といった漠然とした内容に終始し、議論が深まらないことはよくある。数十年後の将来など、確かにあまりに遠い先の未来は、鮮明にイメージすることや詳細に議論することが難しいのは当然だ。
ただ、鮮明に未来を予想することがここでの目的ではない。重要なことは、経営陣が議論を深め、自分達が確信の持てる将来の方向性を見出すことだ。
そこで、私達が提案したのは、ビジョンを描くセッションではなく、その前に“パーパス”(=存在意義)を考え抜くセッションを行うことだった。

将来の議論を行う際、次のような状況に陥ってしまうことが多くの企業でよく見られる。

1) 業績成長目標などの「自組織の“勝手”」が前面に出てしまう
2) 将来に向けた社会変化の考察が、単なる「未来“予想”」に終始してしまう
3) こうなったらよいと、あくまで「“都合のよい”将来」だけを考え議論が深まらない

こうした経験を踏まえ、“パーパス”(=存在意義)を考え抜くセッションでは、次のような視点での設計が重要だと考えた。

1) 「自組織の“勝手”」から考えるのではなく、あくまでも「社会の将来をまず考え、次に社会に自社・自組織がどう“貢献”できるか」を考える
2) 「未来予想」ではなく「将来構想」にするために、社会課題の変化の考察は、“自社の事業に関係する領域”のみに焦点をあてる
3) 「都合のよい将来」だけを考えるのではなく、「自社が社会にもたらしている“負”」にも目を向ける

1)「社会の将来をまず考え、次に自社・自組織がどう“貢献”できるか」を考える

以前、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんとビジョンの話をしていたときに、彼が「物理的に重いものは大きければ大きいほど動かせないけれど、人の心は大きければ大きい話ほど動かせる」と語っていた。彼は今、四国・愛媛の地で、FC今治というサッカーチームを立ち上げ、監督ではなくオーナー経営者としての挑戦を始めている。サッカーを通じて未来の社会を作り、未来の社会にFC今治が大きな貢献をするという挑戦だ。その挑戦を手伝いたいと、本当に多くの人が全国各地から集まってきてくれるということだが、人を動かしているのはその存在意義だ。
「たかがサッカーチーム」であるFC今治という組織の存在意義は、資本主義社会の在り方を変えることだと聞いた。今の資本主義社会には、何らかの行き詰まりやギスギスしたものを感じる。それは「目に見える数字で測れる価値」を重視し過ぎているからだ。その逆にある価値が“信頼”とか“感動”などで、重要だが経済活動ではなかなか表現できない。でも、スポーツなら作り上げることができる。そのような「目に見えない心を豊かにする価値」が大切にされる社会をつくっていかないとダメだという問題意識と志が、FC今治の成り立ちを支えているのだという。
こういったいくつかの事例を参考にしながら、パーソルキャリアの経営陣の皆さんは、将来どのような社会を作りたいのか、一人ひとりの考えと思いをじっくり共有しあった。そして、そうした社会づくりや社会課題の解決に、自事業はどのように貢献ができるのかに議論を移した。
社会づくりへの自社の貢献は、数十年後、成人した自分の息子や娘に「お父さん・お母さんが勤めていた会社はどんな会社か」と問われたときに、どのように答えるかを考えてもらった。事業やサービスの具体的内容ではなく、どんな思いを持った人が働いていて、どんな価値を提供していて、それが社会にとってどんな意味がある存在なのかを純粋に語る場となった。

2)「自社の事業に関係する領域のみに焦点をあて」社会課題を考察する

せっかく社会の将来を議論する機会をもっても、「未来予想」になってしまうことが多い。教科書的には、経営陣たるもの、政治・経済・技術等社会のあらゆる領域を視野に入れて検討すべきだ。しかし、“社会”という抽象的なことをそのまま対象に据え、また、自分達が普段接することのない領域も広く含めて検討しても、思いつきで色々と挙げるだけになってしまいがちだ。そこで今回は、自事業に関係する領域に絞って、社会課題の変化を考えた。その領域とは、パーソルキャリアの場合、当然“働く人と組織”だ。
領域を絞っても、それでもいきなり将来を考えるのは難しいことが想定されたので、60年前・30年前・現在と考えた上で、30年後を考える組み立てで進行した。
“働く人と組織”に関する社会課題に絞ったので、当然自分達が普段接している領域であり、議論はとても活発だった。年代(20歳代~60歳代)や男女など、さらに細かく分け、極めて具体的な問題意識が鮮明に抽出される議論となり、様々な発見がもたらされた。
例えば“働く人と組織”で60歳代の男性に関する社会課題としては、次のような議論になった。


・60年前の60歳代は戦争をくぐり抜けた世代で、60歳代まで生きることができてある意味恵まれているといった価値観があったか
・30年前は、相当平均寿命が延びて、定年を迎えた後、悠々自適に余生を楽しもうといった人が多かったのではないか
・現在の60歳代は、引退どころかまだまだ働かねばならないといった感覚か
・30年後はどうか

こうやって変遷を踏まえると、同じ60歳代でも大いに位置づけが変わってきていることが分かる。30年後の60歳代は、社会の中核を担う、今の40歳代のような認識のされ方に完全に変わっているのではないのか。ならばそのような社会を前提とすると、どのような課題が生じており、そして我々は事業を通じてどのような解決策をもたらすことができるかと、議論は白熱した。

3)「自社が社会にもたらしている“負”」にも目を向ける

将来の社会課題を考える際、そうした社会課題を自社が事業を通じて解決する、即ち“バラ色”の姿を、安易に想像してしまいがちだ。しかし、それでは、ただ“願望”を語り合っているだけで、決して議論は深まらない。
そこで、「自分達が頑張れば頑張るほど、実は社会に生み出してしまっている“負”」も同時に挙げてもらった。その“負”は自分達が生み出しているのだから、将来、何としてでも解決に向けた貢献をしなければならないはずだ。この議論を入れることで、社会課題が自分ゴト化するし、さらに、将来に向けて自分達がチャレンジすべき内容が一段難しくなる。よって議論も深まるし、知恵が生まれることを促すのだ。
パーソルキャリアでは、例えば次のような議論があった。


自分達は、転職を促進する事業をやっている。社会に流動性をもたらし、能力と将来性のある若い人達に、新たな可能性を提供している、という自負をこれまで当然持ってやってきた。しかし、あらためて自分達が生み出している“負”はないかと問われると、こうして転職市場を活発にすることで、実は多くの企業のミドルマネジメントを難しくしているのではないかと思うようになった。せっかく育てた部下が転職してしまう。新たに転職してきたばかりの部下を活用して、成果を生み出さないといけない。そんな大変な状況に多くの企業のミドルマネジメントを追い込んでしまっている張本人なのかもしれない。


ならば、こうした負も自分達で解かなければならない。負を解消することに大いに貢献する、あるいは、そもそも負を生み出さない将来像を描く必要があると口にし、そのために知恵を出さなければという思いに至っていた。

社会課題に目を向けることがビジョンを作る鍵になる

私達は、ビジョンの考え方を教えたり、その策定方法を指導したり、あるいはビジョン作りをご支援することはできても、ビジョンを描くことそのものは、当然のことながらリーダー達本人にしかできない。
だからこそ実は、ビジョンを描く前の時間が大切だ。将来の社会課題を考え、その社会課題解決にどう本業を通じて貢献するかを考える。それが、パーパス(=存在意義)の議論だ。
“社会貢献”と言うと、「利益を生んでいる余裕がある企業が考えること」「利益が出なくなったらやらない」などと思っている方もいるだろう。しかし、社会課題をしっかり見据え、その課題解決に資する社会貢献をきちんとやっている企業こそが、実はちゃんと利益を生み出しているという構造がある。
そのことをあらためて強く認識できたと、セッションの終わりに参加していた経営陣の方も語ってくれた。

PFCは、組織開発のパートナーとして、クライアント企業の経営陣が集まり将来の方向性や中期戦略を話し合う場のファシリテーションを行なっています。競合との差別化や、顧客ニーズへの対応と言ったことはもちろんですが、PFCでは、そのような検討だけでなく、その企業の社会における存在意義をとことん追求し、グローバルイシューを事業機会と捉える戦略の立案を支援しています。さらに詳しくお知りになりたい方は担当コーディネーターまたはpfc@peoplefocus.co.jpまでお気軽にお問い合わせください。