コラム

2024.04.20(土) コラム

■ なぜ管理職はエンゲージメント調査を受け止められないのか?~管理職巻き込みの落とし穴

前回の記では、エンゲージメント調査の結果を風土改革につなげるには「組織開発」の視点が重要なことや、管理職が自己と組織への影響を評価し、エンゲージメント向上と職場風土の改善に責任を持つべきといったことをお話ししました。今回の記事では、ではどうしたら管理職にエンゲージメント調査結果を自分ごと化してもらえるのか。管理職が傍観者側にまわってしまう「落とし穴」と、これに陥らないための処方箋をご紹介します。

エンゲージメント調査・管理職巻き込みの落とし穴①
「情報が古いから意味がない」

落とし穴のひとつめは、PFCがワークショップでよく出くわすもので、「タイムラグ」です。調査実施から調査結果の共有、もしくは結果に基づく管理職ワークショップの実施まで、時間が空けばあくほど、「あれから社長が変わった」「組織再編があった」「人が入れ替わった」などと変化要因が増えて、「調査結果はいまの実態とは違うよね」と片づけられがちになります。タイムラグがあるだけで、「調査結果に真剣に向き合おうにも、情報が古いから意味がない」という逃げ道ができてしまうのです。

結果共有までに時間がかかってしまう理由の一番は、「忙しい」つまり、繁忙期を避けるためです。忙しい時期が終わってからエンゲージメント調査結果ワークショップを実施するも、既に年度が変わっていたりすると、社員の声を反映したはずの結果レポートを「古いから」と管理職が脇に置いてしまうという、なんとももったいない場面に遭遇します。 ワークショップを企画するならば、鮮度があるうちに結果に向き合うための日程確保がクリティカル・タスクです。

エンゲージメント調査・管理職巻き込みの落とし穴②
「設問にある”マネージャー”って経営層のことでしょ」

タイムラグに続く落とし穴は、調査項目や結果の数値が具体論に結びつかないことです。特に項目の「設問(問い方)」は鬼門です。「この設問は一体何のことを指しているのか?」「皆は誰のことを指して回答しているのか?」などと設問自体を批判・批評しているうちに、自分ごと化からどんどん遠ざかってしまうのです。

ある管理職向けワークショップでは、「マネジメントは社員のロールモデルである」というスコアを大きく下げた設問について、ファシリテーターと管理職がこんなやりとりをしました。

参加者(管理職)「マネジメントとは誰のことを指しているのか?」

ファシリテーター「多くの企業では、一般社員からみると、上司である皆さんのことを指しますよ。」

参加者「いや、うちの場合はシニア・リーダーシップ・チーム、つまり経営層のことだろう。」

このワークショップでは、管理職は自分たちの部下の状況について具体的に論じることがほとんどありませんでした。管理職がプレイヤーとして多忙な組織では「自分はがんばっている」「自分は悪くない」という自己奉仕バイアスが働きがちで、自分以外の要因に目を向けるための説明がいとも簡単に生成されてしまいます。管理職の自分ごと化を阻むような設問がある場合、定性コメントの活用や調査後のインタビュー実施なども検討しておく必要があります。

エンゲージメント調査・管理職巻き込みの落とし穴③
「そこまで管理職に求められるの?」

最後の落とし穴は、管理職の風土改革への「微妙な」役割認識です。結果読み解きワークショップや職場での話し合いが後手に回りがちな理由は、物理的に忙しいからだけではありません。管理職が職場の風土改革に二の足をふむ理由はおそらく、組織開発への自信のなさにあります。風土改革には唯一絶対の解があるわけでなく、管理職が自分一人で解決策をあみ出したところで進むものではありません。つまり、「どうしたらいいのかわからない」のです。

いま、多くの管理職がプレイングマネージャーです。とりわけスピード感のあるフラットな組織では、経営層から提示される課題や戦略の実行力に長けた管理職が多くなりました。部下の側ではキャリア自立が推奨され転職・離職が当たり前になりつつあります。管理職のプレイヤーとしての重要性、そして負荷はますます高まる構造にあります。

いわば、Howの実行力、ともすれば個人力が強みである管理職に対して、エンゲージメント向上や職場風土改革に求められる組織開発アプローチは、全く別の能力を要求します。複雑な事象をシステムで捉え、自分の影響を内省し、職場メンバーにも自分ごと化してもらう。いわばWhatとWhyでチームを巻き込む力を発揮しなくてはなりません。ここにおける管理職の経験不足、それに伴う自信のなさと役割への抵抗感こそ、人事のみなさんが見逃すことなく寄り添うべき課題だと思います。

調査結果を風土改革に活かす処方箋

管理職に寄り添いながらエンゲージメント調査結果を活用する処方箋として、シンプルな3点を提言します。

  • いち早く結果共有
  • いち早く職場での話し合いを促す
  • 管理職のスキルアップを怠らない

管理職のスキルアップでは、「部下がいないマネージャーもいる中で、どのように管理職教育を進めたらよいのか」という相談をよく受けます。PFCでは、管理職に求められる能力を3段階に分けて教育することを推奨しています。

レベル1:1対1のマネジメント・コミュニケーション・スキル(部下がいなくても業務で活用できる。また、エンゲージメント関連の社員ヒアリングやメンタリングの場で発揮できる)

レベル2:1対多数のマネジメント・コミュニケーション・スキル(チームを統括する管理職の必須スキル)

レベル3:組織開発スキル(次のステップ、もしくは次世代経営リーダーへの準備となる思考法とコミュニケーション・スキル)

時に専門家の手を借りる

エンゲージメントのワークショップを実施すると、管理職が著しく疲弊していることが明らかになることがあります。管理職自身がエンゲージメント状態(「夢中で努力」)でなく、ワーカホリック(「我慢して努力」)や燃え尽き(バーンアウト)に近いことがあります。

人事のみなさんからみて管理職の役割認識やスキルが明らかに不十分である、部門トップや管理職が入れ替わったばかりである、チーム内の関係性がこじれている、といったケースでは、ぜひ外部の専門家に頼る選択肢も検討ください。弊社でも、多くのグローバル企業・日本企業で、第三者の組織開発コンサルタント/ファシリテーターとして、管理職や社員のヒアリング、グループ・インタビュー、そしてワークショップや研修の設計・実施をお手伝いしています。


【関連サービス】
● 部下のいない管理職も仕事で活用できる、”1対1”のマネジメントコミュニケーションスキル
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● “1対多数”のマネジメントコミュニケーションスキル
チームマネジメントチームリーダーシップファシリテーションスキルインクルーシブリーダーシップ等)
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山田 奈緒子(やまだ なおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役