はずみ車が回り始めた
PFC
ファシリテーション研修受講者の数も3年前の180名(本社人員は1300名)から490人まで増加。また、新幹線管理本部では、会議室にファシリテーショングッズが常備されているほど、社内でファシリテーションによる問題解決が浸透しつつある。
3年前のインタビューのときは、「道半ば」とおっしゃっていたこの取り組みですが、現在はいかがですか?
松井氏
前回のインタビューの際も、ファシリテーションはある程度社内で認知されて、軌道に乗りつつある状況ではあったと思うのですが、身につけたファシリテーション・スキルを組織としてどう活用するかという課題がまだありました。しかし、現在では、ファシリテーション・スキルを使って、現場起点での一人ひとりの考動をチームとして結集し、それが中期経営計画の推進、目標の実現までつながるというひとつの道筋ができつつあるところまで来ました。現在行われている「自分ゴト化ミーティング」でもディスカッションの場で、PFCの養成講座を受けた社内ファシリテーターが大活躍しています。
トップの理解が導入を進め、地道な働きかけによる賛同者が現場に広げる
PFC
ファシリテーションが社内で共通言語、共通ツールになることを目指す組織は少なくありませんが、JR西日本でここまでファシリテーションが拡がったのは何故だと思いますか?
松井氏
三点あり、略してTTP(笑)。まず何と言ってもTop(トップ)の理解とバックアップだと思います。社長・副社長クラスの役員がこの取り組みを支持し、「中期計画を推進するためにファシリテーションを活用してみよう」であるとか「まずやってみろ」と言ってくれたのです。ファシリテーションという、根本的に組織の力を上げるための方法にアプローチすることの重要性をトップマネジメントが理解してくれていたのだと思います。
芦田氏
トップが認識している課題と、ファシリテーションがフィットしたときに導入が進むのではないかと思います。たとえばトップが「コミュニケーションが建前だけで終わっている」とか「隣の職場の課題を知らないことが問題だ」と感じていれば、ファシリテーションが単にポストイットの使い方を学ぶものではなく、部署間に落ちる課題をすくいあげ、組織の課題の解決につながるものだとピンと来て、活用しようと思う。逆にトップのもつ問題意識とマッチしなければ、導入はもう少し後にしようというようになるかもしれないですよね。
松井氏
取り組みがうまく拡がった理由の二つめは、Target(目標)です。CSR考動推進室としてはあえて数値目標等を掲げなかったことがあります。全面的に展開しようという意図は持っていましたが、それは表には出さず、まずできるところから、少しずつ成果を出して行くというアプローチを取ることで、周囲から受け入れられやすかったということがあるかもしれません。前回のインタビューにもありましたが、「仕組み」から入れようとすると、社員は「もう新しい仕組みを入れないでくれ」とか「形から入るのはやめてほしい」といった反応になりがちだからです。 三つめは、Promotion(プロモーション)です。われわれ自ら、支社長なり人事課長なりに、直接働きかけました。その結果、「じゃあやってみようか」という方がぽつぽつ現れてきた。そして実際にやってみると、成果が出なかったというケースはなくて、「やってよかった」という声が必ず聞こえてきました。最初は自分たちが直接行ってファシリテーションを行うこともありましたが、自分たちでやりたい、やりかたを教えてほしいという部署には、その取り組みの目的をしっかりと受け止め、その部署に相応しい支援の仕方を一緒に考えて対応しました。その結果、すぐにわれわれの手を離れて自走しはじめた部署もありました。
効果を実感した社員が様々な問題解決会議で自主的に活用
PFC
そのひとつが新幹線管理本部だったわけですが、取り組みはどのようにして自発的に広まったのでしょうか?
北島氏
まず、平成25年度には、部署をこえて連携するクロスファンクショナル・ワーキンググループ(CW)を作り、取り組みのモデル箇所を3カ所設定して、課題の発掘から解決までのプロセスをモデル化し、実際に課題解決した事例を現場長に共有するということを行いました。具体的にはたとえば、管轄があいまいな箇所について、それを明確化するための整理の方法、進め方などを現場の人たちがファシリテートしながら進めて行く。必要に応じて、PFCにもファシリテーションをサポートしてもらったり、枠組みを提案してもらったりしながら、進めて行きました。26年度には、箇所毎に年間2件の課題解決件名を設定するようにも働きかけました。また、CWの取り組みを適切に進めるにはオーナーやリーダーの役割も重要なので、オーナー研修、リーダー研修も連動させ、スムーズな運営を心がけました。 当初は事務局からの呼びかけや提案が主だったのですが、実際に現場長がオーナー、現場の係長や助役がリーダー、一般社員がメンバーとなってファシリテーションを活用するうち、「これはいいね!」という声が現場からどんどん上がって来ました。部内の社内講師によるファシリテーション研修の受講者も現場長から始まってだんだんと一般社員に広まり、今では部門の3分の1にあたる970人が研修を受講しています。
まだ受講していない社員も、ミーティングなどで、受講者のファシリテーションに触れる機会があるので、本部内の共通言語、共通認識となっていると言えると思います。今では毎月行われる「安全ミーティング」など様々な会議で活用されています。
実際に会議の現場を見に行くと、「上長が話し手で、若手は聞き役」という状況から「若手が生き生きと話している」という状況に、現場が明らかに変化をしていました。オーナーである現場長もその場にはいるのですが、目的、動機付け、課題設定だけして、あとはなるべく発言せず見ている。あとで聞いたら「口を出したくなったけれど、適切な課題設定をしたらあとはなるべく見ていて下さい、とオーナー研修で言われたので我慢した」というような声も聞きました。いろいろな研修がうまく相乗効果を発揮したということだと思います。
PFC
設定する課題の内容も重要ですね。
北島氏
そうですね。月に1回のミーティングを3ヶ月から半年間行う中で解決するような課題を設定してもらっています。この課題の設定、課題の大きさも含めて意外と難しいようです。簡単すぎてもだめだし、大きすぎる問題で負担になるようでもいけない。
PFC
特に新幹線管理本部でファシリテーションが根付いたのは何故だと思われますか?
北島氏
成功体験をしてもらえた、そしてそれを共有したことが大きいと思います。当初は「また新しい取り組み?以前のQCみたいに、消えるんじゃないの?」という声もあったのですが、実際にファシリテーション・スキルを使って会議をやってみたら、長年の問題が解決して行く。また、成功事例を、現場の係長や助役などのリーダーの方に、自ら他の現場長などに共有して頂く、ということも積極的に行いました。共有する時は、結果そのものよりも、課題解決のプロセスにフォーカスするなどした結果、「ファシリテーションを学んで、課題解決に使いたい」と手を上げる部署や人がどんどん増えてきました。
立川氏
比較的新しい支社なので、他支社に比べて「まあ使ってみよう、やってみよう」という姿勢もあったかもしれません。ただ、昔からの支社でも、するっと入っていたところはありましたから、やはり取り組みを後押しする、トップの姿勢が推進力になるのかなとも思います。
役員会議を課長クラスがファシリテート
PFC
役員会でもファシリテーターが活躍されているそうですね。
松井氏
今から2年前のことですが、年に一度の持ち出し役員会の1日目に、グループワークをやりたいので協力してほしいとオーダーが入りました。そこで、1グループにひとり役員の中からリーダーを決め、われわれはそのサポートという形で、わざと「ファシリテーター」という言葉は使わずに入り、親和図を作ったりといった作業のサポートを行いました。その結果、議論が大いに活性化して成果物も得られ、会議の終わりには「今までの会議で一番良かった」という声も上がり、以来、持ち出し役員会の1日目はファシリテーターが入るようになりました。
PFC
今後はどのような取り組みを進めて行きたいとお考えですか?
執行氏
現在、新幹線管理本部での取り組みは私が北島から引き継いで行っているのですが、事務局が管理しなくても、それぞれの部署が自部門で自走して、同時進行で課題解決できるように、それぞれの部門で後継者を育成できるような方向で考えています。メンバーの主体的な参画もさらに促し、発言の多い人に押されて躊躇したりしないような工夫もして行きたいです。
松井氏
はずみ車を回すまで本当に大変でしたが、CSR考動推進室メンバーが心を一つにして取り組んだ賜物だと思います。ただ、はずみ車を回そうとして回したというより、カウンターパートを大切にして取組の輪が少しずつ広がった結果、振り返ってみるとはずみ車が回っていた、ということかもしれません。
芦田氏
これからはファシリテーションを広めるプロモーションもさることながら、事例共有や役員会での報告にも力を入れて行くことになると思います。そして味方、賛同者をコツコツと増やすことを続けて行きたいと思います。 ファシリテーション・スキルは土台になるものとしてこれからも広めて行きながら、それを使っての課題解決や、対話による改善をさらに支援し、各職場を強くするというところまで引き続き目指して行きます。