現在、多くの日本企業が、成長戦略の一環として積極的に海外企業を買収するようになりましたが、買収が思うような成果を生まず、多額の減損処理に迫られる事例もこれに比例して増えています。日本企業が海外企業買収に失敗する原因は2つあるといわれています。1つは、対象企業の”due diligence”(事前の査定)が不十分で、高値で買ってしまうこと、もう1つは、”post-merger integration”(買収後の統合)でつまずき、想定していた業績があげられなくなることです。 今回ご紹介する東京海上ホールディングスは、海外企業の買収や提携等により海外のポートフォリオが約5割にまで伸長し、買収後の経営統合を効果的に進めていることでも知られています。現地の経営を買収先の企業に任せきりにするのでもなく、過剰に管理するのでもなく、絶妙なバランスを取っています。
ここで必要になるのが、現地に送り込まれる日本人幹部の卓越したグローバル・リーダーシップです。とりわけ、買収企業や提携企業に出向するケースでは、自社の常識が通用せず、非常に難しい舵取りを求められることが多くあります。 東京海上ホールディングスでは、こうした海外拠点に送り込まれるケースを中心に日本人幹部にエグゼクティブ・コーチを付けることで、海外赴任者のパフォーマンスをサポートしています。エグゼクティブ・コーチがどのように機能しているか、東京海上ホールディングス人事部グローバルグループマネージャーの住本崇さんに伺いました。
クライアント事例
東京海上ホールディングス様
海外へのビジネス展開~派遣される日本人幹部をエグゼクティブ・コーチがサポート
目指すのはグループ一体経営
住本氏
我々が目指しているのは、グループ一体経営です。他社には「国内と海外を完全に分離して、海外のビジネスは海外の人材に任せる」という会社もありますが、我々は国内海外の分け目なく、国籍・性別・文化等に関係なく、適材適所に人を当てはめて育成して行くといったことを重視しています。従って国内人材も当然グローバル基準について行くことが求められるし、グローバルな環境で仕事ができる人材が必要になってきます。
ローカル人材についても、彼らをどう育てていくのかが重要と考えています。ジョブ・ホッピングが一般的な国もありますが、我々としては東京海上グループを好きになってもらって、長期に育成し、長く働いてもらえる関係を築きたいと考えていますし、現地企業を買収する際も、東京海上グループが大切にしている”To be a Good Company”というビジョンと同じ価値観・想いを持っている企業を選んでいます。
変化する駐在員の役割
今や、グループ全体の従業員の半分が海外のスタッフであり、海外の駐在員は約280名程度まで増加しております。以前の我々の現地におけるビジネスといえば、海外進出している日本企業へのサービスが主軸であり、日本人駐在員の主たる役割もそれでした。しかし、現地企業の買収や現地法人におけるビジネスの変容によって、ローカルにおけるビジネスの領域が確実に広がりつつあり、それに対して駐在員がどういった貢献ができるかがより一層重要になっています。現地の人々も、駐在員の一挙手一投足を相当厳しい目で見ていますし、文化も考え方も異なる環境でローカルスタッフの理解を得て全員を巻き込みながらビジネスをすることは多くのハードシップを伴いますので、それに見合うだけの資質、覚悟、気概を持った人材を育成しなければなりません。同時に、自分を見失わずに現地に適合し、本来のパフォーマンスを早期に発揮していくことも重要です。そこで、送り込む日本人幹部駐在員の一部にはエグゼクティブ・コーチを付けるようになりました。
経営管理を行う赴任者にエグゼクティブ・コーチングを実施
PFC
住本氏
コーチングの前にはケミストリー・ミーティングを実施し、コーチとコーチィの相性などをチェックします。そして、6回の本セッションに入ります。セッションは電話を使って1ヶ月に1回のペースで行い、この過程では、対象者を取り巻く様々な関係者に対してコーチがヒアリングし、本人にフィードバックすること(360度サーベイ)も行なわれます。
PFC
住本氏
仕事上の目標設定(組織目標や部下の目標設定)だけではなく、自身の成長に向けた目標設定をすることができた。また自身がリーダーとして成長することが、成果の出せる強い組織づくりに直結する重要な要素であることに気づけた。
赴任後早期にコーチングが設定されていたことで、赴任後のモチベーションの揺らぎを防ぐ助けになった。また現地メンバーと積極的に関わることができた。現地メンバーとの信頼関係性構築について考え、行動するための助けになった。
360度フィードバック、また中間報告でも上司から見たフィードバックをもらったことが、非常に助けになった。フィードバックにあった業務上の課題に取り組むために、フィードバックの意味を改めて振り返り、業務目標と自身の成長目標を紐づけ、どんな行動変容に繋げるべきかを考えることができた。
コーチとは、セッション以外にもメールでやり取りを頻繁に行い、リーダーシップ論等アドバイスをもらったことが効果的なヒントになった。
現地での適応能力が高まる助けになった。特に駐在員がやりがちな、日本のやり方をそのまま現地に適応しようとすることを防ぐことができた。日本本社のやり方における本質的な要素を抽出し、それをどのように適応させていくかを考え、行動することができるようになった。
国内営業にいた頃は、「いつまでにこの数字」というような短期的・定量的な思考だったのが、コーチングを通じて、数字というより「リーダーとしてどういうマインドセットで、どういうゴールを持つのか」と言ったいわば定性的な視点が持てるようになったこと、具体的な数値やタスクではなく、定性的な視点で内省することが自分を安定させるポイントになったことなど、様々な成果があったことがわかります。
また、仕事のスタイルが全然違ったり、着任当初、荷物が4ヶ月以上届かなかったりといったストレスフルな状況の中で、コーチと定期的に話をできたのはとても心強かったとも聞いています。
360度サーベイも活用
PFC
住本氏
コーチとコーチィの掛け合わせも重要
PFC
住本氏
ただでさえ異国に行って右も左も分からない中で、これまでとは全く毛色の違う仕事を、文化や考え方の異なる海外のスタッフとするわけですから、相当な難しさやストレスがあります。このような状況の中で、自分を見失わず、早期に現地に適合・貢献し、同時に内省を通じた自身の成長に繋げていくためにも、今後もエグゼクティブ・コーチングを活用していきたいと思っています。
PFCでは国内外のエグゼクティブに対するコーチングを多言語でご提供しています。詳しく知りたい方はどうぞお気軽にお問い合わせください。