クライアント事例

石原産業株式会社様

対話ファシリテーションから始めよう!
石原産業のパーパス浸透施策
企業の存在意義を問い直し、それを経営の中心に据える「パーパス経営」が注目されている。経営計画に「パーパス」を盛り込む企業も増えたが、具体的な行動が伴わないケースも多い。しかしそれでは、掲げるだけで実行しない「パーパス・ウォッシング」の批判を受け、経営にマイナスの影響を与えかねない。

パーパスを血肉化するには、社員たちがパーパスを我が事として捉えることが必要だ。それには、パーパスについて話し合い、各社員が自己の体験と照らし合わせて理解を深めることが重要になる。
PFCは、そうした双方向対話を重視したパーパスの浸透施策として、「ファシリテーション」の活用を進めている。特徴的なのは、社員が「社内講師」としてファシリテーターを務めるという点だ。その実施事例として、石原産業株式会社・サステナブル推進委員会参与の水谷朗氏、リーダーの山口浩市氏、マネージャーの樋口浩司氏にお話をうかがった。
(取材・構成:石澤 寧) 
パーパスの意義について対話している様子

パーパス浸透で採用した「3つのポイント」とは

石原産業様が、「パーパス」の浸透に取り組まれた経緯をお聞かせください。

水谷氏

弊社は今から約2年半前の2021年5月に、長期ビジョン『Vision 2030』を発表し、従来から取り組んできたサステナブル経営を改めて前面に打ち出しました。その長期ビジョンをもとに、『化学技術でより良い生活環境の実現に貢献し続ける』というパーパスを定め、社長をトップとするサステナブル推進委員会を組織してサスティナビリティに係る様々な諸政策を行なってきました。ただ、パーパスの社内への浸透については具体的な方法を模索している状態でした。そこで各種研修で評価の高いPFCさんに相談したのが、プロジェクトのスタートでした。

具体的には、どのようなプロセスで取り組まれたのですか?

山口氏

経営層にパーパス浸透の計画を説明して了承を得たあと、マネジメント層、一般社員層へと段階的にワークショップを実施しました。
はじめに、各部の部長クラス約20人を集めた「パイロット研修」で、実際のワークショップを体験してもらいました。受講者からは、とても納得感がある、これは推進するべき、という反応があったため、このときの振り返りや議論をもとに、PFCさんと一緒に本番のワークショップを計画していった形です。
パーパスの意義について対話している様子

計画のポイントはどんな点でしょうか?

山口氏

一つは「クロスファンクショナル」での実施です。異なる部門の社員同士がパーパスについて意見を交わすことで、普段は聞くことができない体験談や考えを共有し、社内交流にも役立つと考えました。

二つ目は「ファシリテーター」の活用です。ファシリテーターが汲み上げた感想や意見をその場で共有することで、受講者の主体性を引き出すことができます。「会社のパーパス」と「自分のパーパス」を照らし合わせ、受講者が「自分事」として捉えるきっかけにしたいと考えました。

そして三つ目が、ファシリテーターを社員が務める、という点です。パーパス研修を修了した課長~部長クラスの約40人が「社内講師」となり、全国7カ所で行なう一般社員向けのワークショップでファシリテーターを務めることにしました。この機会にファシリテーションの手法を社内に取り入れる狙いもありました。

尻込みしていた社員が次第に熱意を持ち始める

ファシリテーターを務めるとなると、担当する社員の方はなかなか大変だったのでは?

樋口氏

ええ。社員自身の経験をもとにパーパスについて説明したほうが、みんなの理解が進むだろうという考えからですが、1回4時間のワークショップをファシリテートするわけですから、大変だったと思います。うまく意見を引き出してまとめられるだろうかと、心配になった人も多かったと思います。
マテリアリティについて討議している様子

そこをどのようにして乗り越えたのでしょうか?

山口氏

まず、社内講師は二人一組で進める形にしました。その際、できるだけ異なる分野の人たちでペアにしました。二人で取り組むことで一人の作業負担やプレッシャーが軽減できますし、グループディスカッションの際の意見も汲み上げやすくなります。また、部門の異なる二人が組むことで、様々な話題や質問に対応でき、ファシリテートの偏りも防げると考えました。

水谷氏

私自身も社内講師を務めましたが、パーパスの研修を4時間受けたあと、社内講師の研修をさらに4時間受けました。ワークショップの中身や流れはそれで理解できましたが、まだまだ準備が必要だと感じました。どうやったら伝わるものにできるのか、各ペアが相当の時間をかけて準備したと思います。そうして徐々にファシリテーターモードに移行していった形ですね。

樋口氏

私も社内講師を務めましたが、受講者にパーパスについて考えてもらうには、自分の体験をもとに伝える必要があると強く感じました。体験は人それぞれ違いますから、真似は利きません。社内講師それぞれが、自分の思いを乗せる方法を模索したと思います。何人かのワークショップを見学したら、みんな見せ方、伝え方に工夫があり、力を入れて準備したことがわかりました。

山口氏

PFCさんとは、定期的なミーティングをはじめ、密に連絡を取って進めました。スライドを見せながら話す形だと説明にブレが出そうな箇所については、動画を制作してもらうなど、ワークショップの質を保つためのアドバイスとサポートをいただきました。事務局としても、追加資料やイントラネット上に情報交換の専用フォルダを用意するなど、講師が集中できる環境を整えました。

情報交換フォルダは、回を重ねるごとに経験談やアドバイスがどんどん集まってきて、社内講師メンバーの熱意の高まりを感じました。各講師が参考にすることで、ワークショップの中身や進め方がよりレベルアップしたと思います。
社内講師による説明

パーパスの浸透施策は「自分軸」の確認につながる

社内講師を務めた感想はいかがですか?

樋口氏

受講者の感想や意見に寄り添って進めるのが大切なのですが、丁寧にやると4時間でも時間が足らなくなってしまいます。社内講師はみんなそう感じたのではないでしょうか。「会社のパーパス」と「個人のパーパス」の紐づけまでたどり着けなかった場合も多かったようですが、「会社のパーパスをしっかり理解してもらい、そのうえで個人のパーパスを考えるきっかけにする」というワークショップの目標については、十分な機会が提供できたと思います。

受講者の方からはどんな感想がありましたか?

樋口氏

一般社員約1200人が受講し、うち約1000人からアンケートの回答がありました。「異なる部門の人と話すことで考えを深められた」といった感想が多く、クロスファンクショナルの狙い通りだったと思います。ファシリテーションを高く評価する声も多かったですね。「受講者との距離が近く、一体感を感じながら取り組むことができた」「職場の事例で話してもらえたので、自分事として考えることができた」といった感想が多く寄せられました。「パーパスについての理解が深まった?」「パーパスに共感できた?」という二つの設問についても、いずれも90%以上の受講者がYESと回答しています。
また、全社的に重要なテーマですから、工場の操業員向けにも1時間に凝縮したプログラムを別途制作して、PFCさんにワークショップを行なってもらいました。ここでも、やはり9割近くの参加者が「パーパスについて理解が深まった」と回答しています。これらのデータからも、パーパスを自分事として捉えるきっかけをつくるという目標は達成できたのではないかと思います。

今後はどのようにパーパスの浸透について取り組んでいくご予定ですか?

山口氏

今回、「社内講師」というやり方を採用することで、社内に”チェンジ・エージェント”(変革推進者)を生み出す機会になったと思います。この人たちを中心に、引き続き社員が主体的に取り組んでいけるように進めていきたいと考えています。
また、弊社では年に一度、部下が上司とキャリアプランを話し合う機会があるのですが、そこで「個人のパーパス」をぜひ話し合ってほしいとアナウンスしています。社内でのキャリアを考えることは、一人ひとりのパーパスと会社のパーパスをすり合わせていくことにつながりますから、こうした機会をパーパスの浸透にも活かせたらと考えています。

水谷氏

会社のパーパスと自分のパーパスがつながることで、働く人のエンゲージメントはとても強くなります。それにより「自分軸」を見出す人がさらに増えれば、その人自身はもちろん、会社全体のより力強い成長につながると考えています。