コラム

2025.10.03(金) コラム

世界で最もサステナブルな企業:「シュナイダーエレクトリック」の成長を紐解く

サステナビリティ事業推進室の千葉達也です。
今年も2025年版の「世界で最もサステナブルな企業500社」が、アメリカのニュース誌TIMEとドイツのデータ調査会社Statistaの共同調査により発表されました【1】。5000社以上の企業を対象に厳正な評価をした結果、シュナイダーエレクトリック社は2年連続首位に選ばれました【2】。このランキングは単なる環境指標だけではなく、社会性やガバナンスも含めた総合的な企業の持続可能性を評価するものであり、そのトップに立ったことは同社の長年の経営努力の結果といえます。今回は、シュナイダーエレクトリックについて、どのように社会課題をビジネスチャンスと捉え世界から評価される企業となったのか、紐解いてみたいと思います。

1. 軍需からエネルギー管理企業への大胆な事業転換

シュナイダーエレクトリックは19世紀にフランスで創業した際、主力は兵器や鉄鋼産業でした【3】。第二次世界大戦後も重工業を中心に展開していましたが、冷戦後には軍需依存からの脱却を迫られました。その転換点で同社は「社会に不可欠なインフラ」に注目し、電力管理や配電技術へ軸足を移しました。
その後、1990年代には配電盤メーカーなどを買収して配電事業を強化し、2000年代にはさらに産業用ソフトウェアなども取り込んでいきました【3】。この買収戦略が「ハードからソフト、そしてサービスへ」という転換を可能にし、今の成長基盤を築いたといえます。

2. 社会的ニーズを先取りする市場感度

この戦略の背景には21世紀に入り、気候変動と電力需要の急増が世界的課題となったことがあります。シュナイダーエレクトリックは「持続可能なエネルギー利用」をテーマに据え、いち早くデジタル化と結び付けたエネルギーマネジメントに注力しました。
その象徴が統合プラットフォーム「Eco Struxure」です。これは工場、ビル、都市インフラに至るまでIoTやAIを活用し、リアルタイムでエネルギー利用を最適化する仕組みを提供しています【4】。結果として顧客企業は電力コスト削減や設備稼働率の改善を実現でき、環境貢献と収益性向上を同時に実現出来ています。

3. 挑戦を後押しする組織文化

戦略を描くだけでは成果は出ません。同社の強みは「失敗を恐れない文化」です。計画を緻密に立ててから動くのではなく、小規模な実験を繰り返しながら事業を育てるスタイルが根付いています【5】。
例えば、新興国向けに低電圧配電製品の普及を試みた際、初期投入が現地ニーズと合わず失敗しましたが、その後現地事情に合わせた再設計により、最終的には途上国の電化普及に大きく貢献しました。この「トライ&エラーを許容する風土」こそが、常に新たな成長の芽を生み出しています。

4. The Zero Carbon Projectと数値目標

首位を獲得に貢献したサステナビリティへの姿勢を示す象徴的な施策として「The Zero Carbon Project」があります。これは自社だけでなく、主要サプライヤー約1000社を巻き込み、2030年までにサプライチェーン全体の排出削減を進める取り組みです【6】。
同社はさらに「2025年までに自社事業のCO₂排出を2017年比で50%削減」「2040年までにネットゼロ達成」という明確なKPIを掲げています【7】。これにより、サステナビリティは理念ではなく、経営戦略に組み込まれた“実行計画”であることが明確になっています。

5. 日本のサステナブルな企業:NEC(日本電気株式会社)

シュナイダーと同様に、社会課題への対応を軸に成長を模索している日本企業の代表例がNECです。同社も「世界で最もサステナブルな企業500社」において高い評価を受け、2024年には第2位、2025年も第7位にランクインしています【8】。
NECの特徴は、自らを「最初の顧客(Client Zero)」と位置づけ、社内で最新技術を実証し、その成果を外部へ展開するモデルを採用していることです【9】。価値創造モデル「BluStellar」では、自社内の試行錯誤を社会実装につなげています。
これらの取り組みは、「安全なデジタル社会の実現」というニーズを敏感に捉え、事業として形にしている点でシュナイダーの姿勢と共通しています。さらにNECは「2040年カーボンニュートラル達成」を目標に掲げ、役員報酬制度にも環境KPIを連動させる仕組みを導入しつつあります【10】。理念だけでなく、組織制度に持続可能性を埋め込む動きも共通点といえるでしょう。

このような変革を続けるNECですが、ピープルフォーカス・コンサルティング(以下PFC)では社会インフラソリューション事業部門の戦略策定プログラムを支援させていただきました。BU傘下の事業部長クラス20名が参加した合宿型ワークショップを含む全5回のセッションを通じて、部門横断のシナジー戦略と成長ビジョンを構築しました【11】。このプログラムは、単なる計画策定にとどまらず、トライ&エラーを取り入れて実行フェーズに結び付ける仕組みとして評価いただいています。

まとめ

シュナイダーエレクトリックの成長は、軍需からの転換、市場ニーズの先取り、挑戦文化、そして具体的な脱炭素プロジェクトと数値目標に裏付けられています。その姿勢は「持続可能性」と「収益性」の両立を実現するモデルケースといえます。
同時に、日本企業のNECも、サイバーセキュリティや脱炭素を軸に「社会に不可欠な存在」になることを目指しています。改めてまとめると両社に共通するのは、社会課題を単なるリスクとしてではなく、事業機会として捉え、実験と実装を通じて解決を進める姿勢です。
PFCではMVVの策定・浸透、新事業策定ワークショップ、CSVリーダー育成研修などを様々な形で支援してきた実績を基に、サステナブルな企業に選ばれる会社を1社でも増やす支援を続けていきたいと思います。


出典一覧

【1】World's Most Sustainable Companies of 2025 | TIME
【2】シュナイダーエレクトリック、TIME誌とStatistaより「世界で最も持続可能な企業 2025」に選出 | Schneider Electric 日本
【3】会社沿革、ブランド、イノベーション | Schneider Electric 日本
【4】How Schneider's CEO Made It One of the World's Most Sustainable Companies | TIME
【5】デジタル技術を軸にして描く、「サステナブルな日本社会」の未来像は?
【6】The Zero Carbon Project | Schneider Electric
【7】Sustainability reports | Schneider Electric
【8】World’s Most Sustainable Companies of 2025 | TIME
【9】NEC、BluStellarを中核にDX事業を強化 (2025年5月30日): プレスリリース | NEC
【10】esg_data2025.pdf
【11】日本電気株式会社様 ~PFCの組織開発コンサルティング事例等を紹介|PFC


千葉 達也(ちば たつや)
株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング 
サステナビリティ事業推進室長