コラム
2026.08.26(水) コラム
■【記事】「変革を受け入れ、未来を切り拓く」——世界最大のL&Dの祭典ATD26とラーニング・チーム活動報告
毎年PFCでは、世界最大規模の組織開発・人材開発の国際カンファレンス「ATD26 International Conference & EXPO(以下、ATD26)」に、クライアントの皆様と参加しています。今年はロサンゼルスで開催されたATD26に参加してきました。現地開催は2026年5月17日から20日でしたが、ラーニング・チームの活動は4月から7月までのおよそ3ヶ月に渡ります。
すでに、日本でも多くのATD26報告会が開催され、お読みの皆さまの多くは何らかの情報にすでに触れられていることと思います。ここではATD26の概要と主要なメッセージ、またチームでの活動についてお伝えします。
ATD26とは、どんなイベントなのか

ATD(Association for Talent Development)は、人材開発・タレントデベロップメントに携わるプロフェッショナル向けの、世界最大規模の国際イベントです。1943年の設立以来、「職場の人材育成に尽力するプロフェッショナルをエンパワーし、よりよい世界を作る」ことをミッションに掲げてきました。
今年の現地参加者は約6,500名、65カ国から参加し、うちアメリカ国外からの参加者は全体の14%にあたる約1,250名にのぼり、国別では日本が187名で1位、韓国184名、カナダ105名と続きます。日本からの参加者数がアメリカ国外で最多だったという事実は、日本企業の人材開発への関心の高さを物語っているのではないでしょうか。
プログラムは4つの基調講演(General Session)を中心に、14のラーニング・トラックにまたがる215のセッション、365以上のExpoブースで構成されていました。
基調講演が語りかけたこと
今年のATD26全体を貫くメッセージは、"Embrace Disruption. Direct the future."(変革を受け入れ、未来を切り拓く)という一言に集約されていました。その空気を最も色濃く伝えていたのが、基調講演です。私たちが特に印象に残った3つをご紹介します。
まず、元OpenAI Go-to-Market責任者ザック・カス氏による「The Next Renaissance」。AIによって知性がコモディティ化していく時代、人間の差別化要因はスキルではなく「勇気」「意図」「共感」といった人間らしさそのものになる、という指摘が印象的でした。ツールとしてのAIをどう使うかより、何を大切にするかという人間側の姿勢を問う内容です。会場では、自身のキャリアをAIにどう委ね、どこで踏みとどまるかという問いに、多くの参加者が自分ごととして聞き入っていたのが印象的でした。
次に、ニューヨークのレストラン「イレブン・マディソン・パーク」を世界一に導いたウィル・ガイダラ氏による「Unreasonable Hospitality」。卓越性とは製品やサービスの最低条件に過ぎず、真の差別化は意図的な思いやりを通じて一人ひとりに「大切にされている」と感じさせる体験にある、という主張です。顧客体験の全タッチポイントを徹底的に洗い出し、常識を超えたおもてなしを仕組み化する。私たち自身、クライアント企業との関わり方を振り返る良い機会になりました。
そして、ベストセラー作家でありリサーチャーでもあるリズ・ワイズマン氏による「Leading Brilliantly Through the Dark」。不確実な状況下でこそ、リーダーの仕事は「自ら答えを出すこと」ではなく「周囲の知性を引き出し、増幅させること」だという、いわゆる「マルチプライヤー」の考え方が語られました。意思決定は全員一致を目指さず、最後は誰かが49%の意見を受け止めながら51%の決定権を持つ。しかし決定した以上、決定者は100%の責任を負う。この割り切りの明快さに、多くの参加者がうなずいていたのが印象的でした。
読者の皆さんに持ち帰っていただきたい3つの視点
基調講演に共通していたのは、AIという個別テーマ以上に、変化を恐れず自ら方向づける主体であることの大切さでした。ここから、皆さんの組織にも応用できそうな視点を3つに整理してみます。
1つ目は、AI時代の差別化要因を「スキル」ではなく「人間らしさ」に置き直してみることです。誰でもAIを使える時代だからこそ、勇気・意図・共感といった、その人固有のあり方が際立ちます。
2つ目は、顧客体験だけでなく社員体験にも「意図的な思いやり」を仕組み化する視点です。常識を超えたおもてなしは、才能ではなく設計の問題だという発想は、人事施策にもそのまま転用できます。
3つ目は、意思決定における「51%の決定権と100%の責任」という割り切りです。全員一致を目指すあまり意思決定が遅れている組織があれば、この明快さは一つのヒントになるはずです。
3ヶ月かけて、学びを深めるということ
ATD26の開催は5月でしたが、私たちPFCラーニング・チームがこの報告会にたどり着くまでには、実は4月からおよそ3ヶ月の時間をかけています。帰国直後の共有セッションでは、現地で見聞きしたことをまだ興奮の残る熱量のまま持ち寄りました。しかし本当に面白かったのは、そのあと7月に行った「ポスト・セッション」です。
現場に戻って組織に向き合う日々の中で、私たちは「あの基調講演で言われていたことは、こういうことだったのか」と、時間差でつながる気づきをいくつも経験しました。一度で消化しきれなかったものが、実践の中で咀嚼され、思わぬセッション同士がつながり、確信に変わっていく。このプロセスこそ、私たちが「学びを組織の力に変える」とお伝えしていることの、まさに実例だと感じています。現地で得た情報を右から左へ報告するのではなく、帰国後のオンデマンド視聴による復習や、その後新たに得られる情報も踏まえながら学びを発展させ、実践に落とし込んだうえで皆さまにお届けする。報告会は、例年7〜8月に設定しています。
参加者の声
7月30日の社外報告会には、多くの人事・人材開発ご担当の皆さまにご参加いただきました。当日いただいたご感想の一部をご紹介します。
「L&Dに成果責任が求められ、AIの進展によって人間的な資質の重要性が高まる中、個人・組織の成長をどう実現していくべきかという課題意識を改めて実感しました。あわせて、ハイブリッド型学習モデルや効果的なフィードバック、人材定着の3つの柱、信頼の数値化など、実務に活かせる多くの学びが得られ、とても参考になりました。」
「2026年の5つのテーマについて、ヨーロッパで開催された別カンファレンスとほぼ同じ内容であり、トレンドも世界規模で動いているという実感と納得感がありました。」
「不確実性が増す時代において、テクノロジーと人間性をいかに融合させていくべきか、また前例にとらわれずに組織変革を起こすための本質について大変多くの気づきを得ることができました。管理者側・メンバー側を問わず、双方が従来の働き方や成功体験に縛られない新たなマインドセットへとシフトしていく必要性を痛感いたしました。来期のフィードバック文化醸成や人材育成施策の参考にさせていただきます。」
「L&Dにおいての今の動向がとてもよくわかりました。AIありきで、どのような世界をつくりたいのか、所属する業界においての在り方についてじっくり向き合いたいです。このような貴重な機会をいただき感謝いたします。」
おわりに
こうした声からも、AI時代における個人・組織の成長という課題意識は、業界や職種を問わず広く共有されていることがうかがえます。皆さんの組織では、AI時代の差別化要因を、どこに見出していらっしゃるでしょうか。
今年のATD26ではAIに関するセッションが35以上と過去にないボリュームで組まれていました。この領域については、今年PFCが開設したAX室からテクノロジーの切り口であらためてお届けする予定です。
ATD26全体の詳しいレポートや、今回の学びについての意見交換をご希望の方は、こちら、またはPFC担当者までお気軽にお寄せください。

山口真宏(やまぐちまさひろ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
AX室長
シニア・コーディネーター
