Web版 組織開発ハンドブック

組織開発

発言を引き出し、合意を生み出す「ファシリテーター型リーダー」の育成とは

ファシリテーター型リーダーが求められている

生成AIの登場で、情報の正しさや速さはかつてないほど向上しました。しかし、多くの企業で耳にするのは「会議がまとまらない」「誰も発言しない」「結局、上が決めるだけになっている」といった声です。情報が溢れるこの時代だからこそ、人が集まって話すという行為の価値が、改めて問われています。人が集まる場が有意義な対話の場となるためには、ファシリテーションの力が必要です。そして、今の組織に必要なのが、ファシリテーター型リーダーの存在なのです。

ファシリテーションが再注目されている背景

ファシリテーションは、日本で紹介されて以来、30年間にわたって一貫して高い人気と関心を集めてきた研修領域の一つです。特に組織改革やチームビルディングが求められる時代において、その有効性は変わることなく認識され続けてきました。

ファシリテーションという言葉は日本でも30年以上にわたり使われてきましたが、ここにきて改めて注目されています。その背景には、会議の課題がより顕在化してきたことが挙げられます。発言が偏る、意見がまとまらない、結論が出ないといった悩みが、単なる話し方や人間関係の問題ではなく、場の設計や進行の問題であることに気づく企業が増えてきました。特に、リモートワークやハイブリッド会議が増えたことにより、会議の設計と進行の重要性が高まっています。

リーダーシップの変化と傾聴の重要性

また、リーダーシップのあり方自体も変わりつつあります。従来のように指示を与えるのではなく、対話を通じてチームを導く「支援型」や「対話型」のリーダーシップが求められています。部下の主体性がないと感じる現場の声も多くありますが、その原因の多くは「聞く力」や「引き出す力」が十分に備わっていないことにあると言えるでしょう。傾聴をベースとした対話型リーダーの存在が、組織の中で重要性を増しています。

組織開発とファシリテーションの親和性

このような流れの中で、組織開発の取り組みとファシリテーションは非常に親和性が高くなっています。チームや部署単位での対話文化の醸成や、組織内での合意形成の質を高めるには、ファシリテーションの技術が欠かせません。そこで今、注目されているのが「社内ファシリテーター」の育成です。外部の専門家に依存するのではなく、社内に対話を促進できる人材を育てることで、組織全体のコミュニケーション力や意思決定の質を向上させることができるのです。

ファシリテーションとは:会議の司会ではない

では、そもそもファシリテーションとは何なのでしょうか。多くの人が「会議をうまく回すスキル」と考えがちですが、実際にはそれ以上の意味を持ちます。ファシリテーションとは、場をデザインし、対話を促し、目的に向かって人々を導く技術です。場の安全性を確保し、適切な問いを立て、意見を引き出し、可視化し、合意形成へと導いていくプロセス全体を指します。この技術は、会議の場に限らず、1on1、プロジェクト推進、評価面談、組織文化の変革など、あらゆる組織活動に応用することが可能です。

会議がまとまらない原因は“場の設計”にある

会議がまとまらない原因の多くは、参加者のやる気や能力ではなく、場の設計と進行にあります。目的や論点が曖昧なまま始まる会議、発言しにくい空気の中で進む議論、話が発散して結論が出ないまま終わるケースは少なくありません。これらの問題は、ファシリテーションの技術を取り入れることで解決可能です。ファシリテーター型リーダーが会議の進行役となり、問いを立て、発言を促し、全員の意見を整理しながら合意形成へと導くことで、場の生産性と納得感を高めることができます。

ファシリテーター型リーダーがもたらす組織変化

ファシリテーター型リーダーが組織にいると、会議の質が変わるだけでなく、組織の風土そのものが変わります。メンバーが安心して意見を言える空気が生まれ、上司と部下の関係性がフラットになります。一部の声だけでなく、多様な視点が取り入れられることで、チームとしての意思決定力が高まります。結果として、組織の学習能力が高まり、変化への対応力が強化されていくのです。

AI時代に必要な問いと対話の力

生成AIが答えを提供してくれる時代だからこそ、リーダーに求められるのは問いを立てる力であり、チームに求められるのは多様な意見を結びつける力です。ファシリテーションは、そうした力を組織の中に育てるための最も有効なアプローチのひとつです。正解を出すことから、問いを導くことへ。管理するリーダーから、引き出すリーダーへ。組織の未来を形づくるのは、対話の力を信じることから始まります。

ファシリテーションは組織づくりのOSであるという前提

ファシリテーションがあらためて注目されているのは、それが“特別なスキル”ではなく、むしろ組織運営のOS(オペレーティングシステム)のような存在だからです。AIの進化により業務の多くが効率化されていく中で、人と人とが共に考え、合意し、動いていく営みの本質的な部分はむしろ強調されるようになりました。ファシリテーションは、単なる会議のテクニックではなく、チームを育て、組織に信頼と学習の文化を育むための土台そのものです。時代がどう変わっても、問いを立て、関係を築き、未来を共創する力こそが、リーダーと組織にとっての基本。その基本を支える技術が、ファシリテーションなのです。

おわりに

会議が変われば、組織が変わります。人事研修の一環としてファシリテーションの導入を検討している方、あるいはチームの活性化に課題を感じている方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。