Web版 組織開発ハンドブック

2022.06.06(月)組織開発

ナレッジ・マネジメント

ナレッジ・マネジメントとは、個人の持つ知識(ナレッジ)を組織全体で共有し、活用することで、組織の業績を上げようという経営手法である。

ナレッジ(知識)とは?

 ナレッジ(知識)とは、階層構造の中で次のように位置づけられる。

データ:客観的事実や数値
情報:データに意味づけをしたり、加工をしたりしたもの
知識:情報を基にビジネスや生活に役立つような形にしたもの
知恵:知識を基に、独自のアイデアや考えを加え、生み出す新しい価値

たとえば、毎日の売上の数字は「データ」であり、それをグラフ化すれば「情報」となる。さらに、「雨の日は○○製品がよく売れる」ということが導き出されれば「知識」であり、「雨の日には○○製品を目立つところに置いて売上を促進しよう」というのは「知恵」である。
ITの時代である今日、情報は過多と言われるまでに溢れているが、それをいかに知識や知恵に昇華させるかが重要である。

また、ナレッジ(知識)は、形式知(explicit knowledge)と暗黙知(tacit knowledge)の2種類に区別され、それぞれは次のように定義されている。

形式知:主に文章・図表・数式などによって説明・表現できる知識
暗黙知:経験や勘に基づく知識、言葉などで表現が難しいもの

一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が、その名著である『知識創造企業』の中で、西洋は形式知、東洋は暗黙知重視の文化を持っており、日本企業の特徴は従業員の暗黙知と形式知をうまくダイナミックに連動させて経営するところにあると主張したことで、暗黙知の考え方が世界的に脚光を浴びた。

SECIモデル

 組織内にあるナレッジ(知識)を収集・蓄積し、組織のメンバーが必要に応じてそれらにアクセスし活用できるようなナレッジ・マネジメントの仕組みを構築するのは、情報システムの領域だと考えられてきた。

 しかし、そうしたナレッジ・マネジメントが可能なのは、知識の中でも形式知だけであり、先述のとおり日本企業が特に強みとする暗黙知については、どう共有していくのかが難しい。具体例としては、たとえばベテランの技術者が定年を迎え、その人のもつ匠の技をどう伝承するのかは、多くの企業が頭を悩ます課題である。

 そこで、ナレッジ・マネジメントすなわち知識の共有・活用によって優れた業績を挙げている『知識創造企業』がどのようにして組織的知識を生み出しているかを研究した野中郁次郎教授らは、それをSECIというプロセスモデルにまとめた。
SECIは次の4つの言葉の頭文字をとったものであり、この順番でサイクルをまわすことが、「知識創造スパイラル」となるとした。この考え方は、ナレッジ・マネジメントを超え、知識創造をベースとした経営手法といえよう。

Socialization(共同化) :共体験などによって、暗黙知を獲得・伝達するプロセス
Externalization(表出化) :得られた暗黙知を共有できるよう形式知に変換するプロセス
表Combination(連結化) :形式知同志を組み合わせて新たな形式知を創造するプロセス
Internalization(内面化) :利用可能となった形式知を基に、個人が実践を行い、その知識を体得するプロセス

 SECIにおいてもグループウェアやデータマイニングなどの情報システムは有効であるが、野中教授らが重視しているのは、「場」である。場とは「その中で知識が創造・共有・活用される共有されたコンテクスト」と定義され、個人間の相互作用ならびに個人と環境の間の相互作用が鍵となる。
「場」を演出したり、相互作用を促進したりするときに、組織開発の手法や考え方が大いに役立つ。それゆえ、組織開発分野の専門家も、SECIモデルに熱い視線を注いでいるのである。
出典:「知識創造企業」野中 郁次郎、竹内 弘高、梅本 勝博 (東洋経済新報社)