Web版 組織開発ハンドブック

2022.06.06(月)組織開発

メンタリング

メンタリングとは ?

 メンタリング(Mentoring)とは、メンター(Mentor)と呼ばれる経験豊富な先輩格の者が、経験が少ない後輩の者に対し、対話を通じて指導・支援することである。指導される側の者をメンティー(Mentee)またはプロテジェ(protégé)と呼ぶ。

 元来、メンターという言葉は、古代ギリシアの吟遊詩人であったホメロスの叙事詩「オデッセイア」の登場人物である「メントール(Mentor)」に由来する。老賢者であったメントールは、王に頼まれ、王の息子の面倒を見ていたのであるが、そこからわかることは、メンターは特定の専門技術などを教えるというよりも、メンティーの人生やキャリア全般を支えるような立場であるということである。

 より具体的には、企業におけるメンターの役割は:

・ キャリア上の助言を行う
・ ビジネスパーソンとしての手本を示す
・ 将来の夢を引き出し、語り合う
・ 人生の中での仕事の位置づけや、仕事を通じて得られる喜びを伝える、語り合う
・ 仕事に影響を与えているプライベートな悩みについて語り合う

 等であり、これらを通じてメンティーのキャリアの成功を支援することである。

 メンタリングを行う場は、企業側がメンタリングの仕組みを持っている場合もあるが、インフォーマルな形のメンタリングもよくある。たとえば、出身校あるいは同郷の後輩に対し、食事等を共にしながら、悩みの相談にのっている場合などがこれに当たる。

組織的なメンタリング制度

では、企業によって、組織的に導入されるメンタリング制度とはどのようなものであろうか。

対象となるのは、新入社員や中途採用者、幹部候補生や女性や外国人といったマイノリティグループが多い。それぞれの概要について次の表に列挙する。

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 メンターとメンティーは通常、メンタリング制度の事務局によって任命されるが、手上げ方式で行うケースもある。メンターは極力メンティーが担う業務のレポーティングライン(上下関係)にはない立場、すなわち別部門であったり、階層が数段離れていたりする人であることが望ましい。なぜならば、レポーティングライン上にある場合は、評価者と被評価者の関係にあり、メンティーが本音で悩みを打ち明けづらくなるからだ。

 メンタリングの期間は通常、半年から1年程度、頻度としては月1回程度が一般的であるが、基本的にはメンターとメンティーの間で相談して決めるべきことだ。制度上のメンタリング期間が終了した後、インフォーマルなメンタリングが続くことがあっても不思議ではない。メンタリングで、何をテーマに話し合うかは、メンティーが提案すべきである。

 メンターもメンティーも慣れないうちは、どのように進めてよいか戸惑ったり、進めるうちに行き詰ってしまったり、あるいはメンターが良かれと思ってやったことが逆効果になってしまったりということがある。こういったリスクを回避するためには、メンタリングの前に、メンター、メンティーの双方にガイダンスのセッションや研修などを行うことが望ましい。

メンターに必要なスタンスやスキル

 企業においてメンターを務めるときに、どのようなスタンスやスキルが必要だろうか。 メンターは、「師匠」であり「ロールモデル(手本)」であると聞くと、「自分はそんな器ではない」と腰砕けになる人は少なくない。しかし、往々にして、完璧な人間の姿を見せるより、時には失敗談を語り弱点を見せるほうが、メンティーにとっては学びや気づきがあるものである。肩肘はらずに、等身大の自分をさらけ出すことである。

 一方で、ベテランとしての意識が強すぎて、自分の過去の成功体験を押し付けたり、説教じみた話を続けたりすることは避けたい。主体はメンティーにあると認識し、メンティーの思いや願いに耳を傾けてあることは必須である。

メンターに必要なスキルは次のとおりである。

・ ビジョンや体験談の語り部(ストーリーテリング)
・ 助言
・ 傾聴
・ 共感
・ 観察とフィードバック

 また、メンティーが安心して相談できるよう、秘密を保持する責務を忘れてはならない。

 メンターは、メンティーの上司ではないこともよく心得ておく必要がある。メンターは先輩だからといって、メンティーに指示をしたり、作業を課したりしてはならない。メンティーが自分の助言を受け入れなかったからといって立腹してはいけない。メンターの社内勢力争いにメンティーを巻き込むなどはもってのほかである。

 さらに、メンティーの問題解決に手を貸すなど、ひと肌脱ぎたくなったとしても、それは控えるべきである。メンティーが自分で問題を解決するよう、あくまでも助言したり励ましたり見守ったりするのがメンターの役割である。(ただし、インフォーマルなメンタリングであれば、この限りではない。)

メンタリングの波及効果

 メンタリングは第一義的にはメンティー個人のために行うことであるが、メンターにとっても企業にとても様々な効果がある。

 メンターにとっては、自分より若い世代からパワーや刺激、新たな見方などがもらえる。新興国のマネージャーのメンターをしていた、あるアメリカ人幹部は、「自分の知らない新興国でのチャレンジを聞き、リバース・メンタリングになっている」と言っていた。
また、直属の部下指導と違って、業績向上のプレッシャーとは別に、純粋にメンティーの成長を支援できる立場であるゆえに、次世代を支援・応援し、成長を見守ることの喜びや満足感を感じるメンターも少なくない。 さらに、メンティーに語るために、自身のキャリアを棚卸ししたり、自身のビジョンを考察したりと、メンターは深く内省することとなる。それにより、自分自身のモチベーションが上がるということもある。

 メンタリング制度を実施する企業にとっては、メンティーの定着率向上というメリットがあるのはもちろんのことだが、経験やノウハウの世代間継承や、部署間を超えた交流、メンターの指導力の向上などの効果も期待できる。