Web版 組織開発ハンドブック
2022.06.05(日)組織開発
モチベーション
モチベーションとは ?
モチベーション(動機)とは、「人が何か行うときの際の原因または目的意識」と定義づけられる。目的意識に基づいて行動した結果、目的が達成されたときに満足感を得る。モチベーションと満足は行動の裏腹の関係にあるといえる。ビジネスや組織開発の分野においては、仕事に対して人がどんなモチベーションを持っているのかを解明することが大いに注目される。なぜなら、モチベーションの高い人は、主体的・積極的に仕事に取組み、創意工夫や柔軟な対応など与えられた役割以上の行動を起こす。企業にとって、社員がモチベーション高く働くことは、生産性向上やイノベーションの創出、離職率の低下、企業イメージの向上などのメリットがあるからである。
また、個人にとっても、自分の仕事に対してモチベーションが感じられることで、豊かな仕事人生を送ることができる。 したがって、人々のモチベーションの向上や維持は、企業と個人双方にとって、重要な課題である。
モチベーション理論の概要
上述のような理由から、古くから現代にいたるまで数多くの研究者が、モチベーションのメカニズムを解明しようとしている。代表的な理論には以下のようなものがあるが、すべての人やすべての状況に当てはまる理論というものは、なかなか見当たらない。自分自身のモチベーションを上げたいと考えている人は、今の自分の状況に最もしっくり来る理論を選び、活用するとよい。
モチベーション理論の考え方には大きくわけて2つある。1つは、「人を動機づけるものは何か」を解明しようとする理論であり、モチベーションの源泉は何かというWHATについて注目する考え方である。コンテンツ理論や欲求説ともよばれている。
もう1つは、「人はどのように動機づけられるのか」という、HOWを重視する考え方で、プロセス理論と呼ばれる。
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コンテンツ理論の代表各であるマズローやハーズバークの説は1940年代から1960年代にかけて生まれ、古典的なものと位置づけられる。そして、その後それら理論に対する様々な検証が行われたが、結果は芳しくなく、理論の有効性を疑う声は強まっていった。もっとも、これら理論は今なお至るところで引用され、その後生まれる各種モチベーション理論に多大な影響を与えたことは間違いない。
では、以下に各種理論を紹介しよう。
代表的コンテンツ理論
◇マズローの欲求段階説
アブラハム・マズローは、人間の欲求を突き詰めると、以下の図のように5段階の階層から成り立つとした。
1. 生理的欲求は、食事、睡眠といった生命維持のための欲求であり、動物の持つ本能と変わらない
2. 安全の欲求は、危険や脅威から身体的・精神的意味で保護されたい、危険からは逃れたいという欲求
3. 社会的欲求は、集団や仲間の一員でありたいという欲求(帰属欲求ともいわれる)
4. 承認の欲求は、他人から認められたい、尊敬されたい、さらには自分自身を尊敬したいという欲求(自我
5. 自己実現の欲求は、自分の可能性や潜在的能力を最大限に発揮したいという欲求
マズローは、人間はこのような欲求群のうち、満たされていない欲求があると、満たすべく行動を起こす、すなわち動機づける力となるとした。また、その欲求充足行動は、低次欲求から高次欲求へと段階的に移行していくのであり、低次の欲求が充足されない限り、それより高次の欲求は現れないと考えた。 そして、ある欲求が充足されると、その欲求はもう行動への動機づけ要因とはならないが、自己実現欲求だけは、それが充足されればされるほど強まり、完全に満足してしまうことはないと主張した。平和で福祉が充実した日本に育った最近の若者が金銭や雇用の安定より、より社会的意義のある仕事やベンチャー企業に魅力を感じることが、それに当てはまるのかもしれない。
◇マクレガーのX理論、Y理論
アメリカの心理学者であるダグラス・マクレガーが提唱した理論で、マズローの欲求段階説を組織で働く人々に適用し、マネジメント手法への指針を与えた。 マグレガーは、人間観について次の2種類を提示している。
【X理論】 人間は生まれつき怠け者で仕事をしたがらないから、命令や強制で働かせるしかない
【【Y理論】】 人間は自己実現のために努力を惜しまず、創造性を発揮できるのだから、大いに自主性を発揮させるべき
X理論は、マズローが定義する生理的欲求、安全の欲求といった低次元の欲求に対応し、Y理論は社会的欲求と自己実現の欲求といった高次元の欲求に対応している。そして、X理論は、経済発展する前の社会環境において、統制が必要とされるような工場のようなところでは有効だったが、生活水準が高い環境では効果的ではなく、Y理論のほうが適しているとされている。Y理論に基づくときは、従業員が自ら目標を設定し、自己管理を行い、能力開発の機会を与え、経営になるべく参画させるようなマネジメントが好ましい。
◇ハーズバーグの二要因理論
フレデリック・ハーズバーグ は、人の欲求には衛生要因と動機づけ要因の2種類があり、それぞれが独立した関係にあり、人の行動に異なる作用を及ぼすことを発見した。衛生要因は、人が仕事に不満を感じさせるものを指し、作業環境に関わることである。動機づけ要因は、人が仕事に満足を感じさせるものを指し、仕事そのものに関連しているということである。そして、衛生要因に対処すると不満を減らすことはできても、満足度を上げることはできなく、満足度を上げるためには動機づけ要因に対処する必要がある。
ハーズバーグらの調査によると、具体的には次のような事柄が、衛生要因と動機づけ要因の要素として挙げられる。
<衛生要因>
・ 組織の経営戦略、マネジメントの施策
・ 管理監督のあり方、各自の裁量の加減
・ 職場の上下関係や人間関係
・ 拘束時間や職場環境などの作業条件
・ 報酬や身分
<動機づけ要因>
・ 達成感
・ チャレンジングで能力を発揮できる仕事
・ 責任ある仕事を任されること
・ 仕事を通じて能力開発や成長ができること
・ 仕事の結果に対する賞賛・承認
この理論の肝は、不満足につながる衛生要因をいくら改善しても、モチベーション向上にはつながらないということであり、すなわち、従業員満足度調査などで従業員が不満と感じているものを見つけ出し改善しようとしても不十分であることを意味する。大切なことは動機づけ要因の刺激、つまり職務内容に注目することだとハーズバーグは主張している。
◇マクレランドの欲求理論
1. 達成動機(欲求)
成功の報酬より、ある一定の基準に対して物事を成し遂げたいという欲求。 この欲求が強い人は、人に任せるより自分の手でやることを好む。
2. 権力動機(欲求)
他者にインパクトを与え、影響力を行使してコントロールしたいという欲求。 この欲求が強い人は、周囲から信望、地位、肩書きなどを好む。
3. 親和動機(欲求)
友好的な対人関係を構築し維持したいという欲求。 この欲求が強い人は、他者からよく見てもらいたい、好かれたいという願望が強い。
これらの動機のどれがより強いかは人それぞれだが、行動の裏には必ずこれらのいずれかの動機があるという。そして、この理論は、管理職の選抜で参考にされることが多い。
達成動機が強い人は、プレーヤーとして有能になりうるが、他人に仕事を任せることが苦手なため、管理職に向かない場合がある。その一方、管理職は「人を動かす」ことが重要な任務であることを考えると、権力動機が強い人は、管理職に向いていると言える。ただし、その動機が強すぎると、自己的な願望や欲求のために権力を使う恐れがある。したがって、マクレランドは、権力の発揮においては、自己抑制を効かせることが大事だとしている。
親和動機が弱すぎる管理職の場合、他人への配慮が不足し、職場がギスギスする恐れがあるが、親和動機が強い人は必ずしも管理職には向かないとされている。なぜならば、人間関係や感情を重視するあまり、職務や業績達成が犠牲になる場合があったり、部下の要求に簡単に応じてしまうことで規則や規範が乱れたり、不公平感を感じる人が出てきたりするからである。
代表的プロセス理論
プロセス理論の代表である期待理論では、人は、自らのコスト(努力)や利益(報酬)を計算でき、それに基づいていくつかの選択肢から合理的に選ぶことを前提としている。マクレガーのような自己実現の欲求を持つ人ではなく、功利主義的な合理人という人間観を想定しているのである。ヴィクター・ブルーム、L.W.ポーター、E.E.ローラーらが、この理論の代表的提唱者である。 彼らによると、人のモチベーション(動機づけ)は、期待と主観的価値の掛け合わせで決まる。掛け算である故、片方の要素がゼロに近ければ、モチベーションはゼロに近くなる。
そして、この理論を組織運営に当てはめると、次の3点が人のモチベーションを上げるポイントとなる。
1) 努力と業績の関係
メンバーの能力に比してとてもできそうにない職務や目標を課すのではなく、努力すれば達成しうると思えるレベルに目標を設定する。
2) 業績と報酬の関係
メンバーが達成した業績に対して、報酬を用意する。ただし、報酬とは、給与や賞与だけではなく、他者からの評価や、さらなるステップアップや昇進であったりするが、業績を上げれば必ずその報酬が得られるとメンバーが認識することが大切である。
3) 報酬の魅力度
メンバーはどのような報酬に価値を見出すかを把握し、その報酬を用意する。
◇同一化理論
レンシス・リッカートらは「仕事への意欲」は、「集団への同一化の程度」と「集団のもつ目標の高さ」の2つの要因で説明できるとした。「同一化」とは、自分が所属している集団(組織)と自分とを一体化しようとすることであり、それによりマズローのいうところの社会欲求(帰属欲求)が満たされる。さらに、その集団(組織)が社会から評価されるような高い目標を掲げていれば、その集団の社会的ステータスが高まり、さらには、その集団に属している自分のステータスも上がると感じる、としている。
そして、リッカートは、同一化の程度を強化するために、組織は従業員参画型経営をするべきと主張している。
◇公平説
人は、他者との比較において、自分の存在を確立しようとする欲求があるという人間観であり、努力したことが他者と比べて公平に報われているかと感じることが、動機づけに関係するという理論である。ポール・グッドマンとアブラハム・フリードマンが提唱した。たとえば、自分と同年代の人が同業他社にいて、自分より働きが悪くても給与が高いと、不公平に感じ、モチベーションが下がるというわけである。
◇強化(学習)説
強化説とは、個人のモチベーションは、報酬や罰の有無とそれを与えるタイミングによって影響されるという考えである。B・F・スキナーが代表的な提唱者で「オペラント条件づけ」とも呼ばれる。具体的には次の4つがある。
正の強化: 望ましい行動に対して対価(報酬など)を与える
負の強化: 注意や叱責によって望ましい行動を引き出す
消去: 望ましい行動をしないときは報酬を与えない(無視する)
罰: 望ましくない行動に対して罰を与える
これらによって、相手は望ましい行動を学習し、その行動が強化されると考えられている。子供のしつけや犬の訓練などに適用されている。
◇目標設定モデル
アメリカの心理学者エドウィン・ロック(Edwin Locke)教授により提唱された理論で、目標を設定し、それを成し遂げようとするところにモチベーションが高まるとしている。設定する 目標は困難かつ明確である必要がある。目標が困難であると、そのために様々な工夫を施したり、多くの努力をしたりする。目標が明確であると、何のための目標なのか、具体的には何を目指すのかがわかる。それらにより、目標に対するモチベーションが高まり、パフォーマンスも高まるとしている。
なお、この理論では、目標は本人が納得していることが前提であり、また達成の過程では、適切なフィードバックやアドバイスが必要としている。つまり、いたずらに高い目標を押し付ければよいということではない。
この理論は目標管理制度(MBO)の基礎となり、組織経営に大きな影響を与えた。
最新のモチベーションに関する理論
◇自己効力感
カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラが提唱した考え方で、自己効力感とは「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できるかという可能性を認知している程度」のことをいう。平たく言えば、「自分にできるんだ!」と思えるかどうかということである。自己効力感の対極は無力感である。
そう思えるために必要なことは、「結果予期」と「効力予期」である。結果予期とは、ある行動によりどんな結果を生み出せるかという予期のことである。効力予期とは、ある結果を生み出すために必要な行動をどのくらいうまく出来そうかという予期のことである。この2つがそろえば、自分が行為の主体であるという当事者意識、行為を自分がコントロールできている確信、そして自分が外的状況に対応できているという自信が生まれ、自己効力感につながっていく。
自己効力感を高めるため源泉は次の4つである。
達成経験: 自分自身が何かを達成したり、成功したりした経験
代理経験: 他人が何かを達成したり成功したりすることを観察することで得られる
言語的説得: 自分に能力があることを言葉で尽くされる。言語的な励まし
生理的情緒的高揚: 酒や薬物やその他の要因について気分を高揚させる
職場において、酒や薬物の使用は言語道断であるが、ベストプラクティス共有は、「あの人ができたのだから、わたしも」と思わせる代理体験を促進しているといえよう。また、会合で「Yes, We Can!」とシュプレヒコールを上げるのもあながち無駄ではない。
バンデューラは1970年代にこの考え方を発表しているが、不確実性が増した90年代以降により注目されるようになった。不確実性が高い環境では、明確な目標や合理的な報酬体系などが難しくなったからである。
◇モチベーション3.0
ベストセラー作家として著名なダニエル・ピンクは、21世紀はモチベーション3.0の時代だと提唱した。
モチベーション1.0: 生存のために行動する
モチベーション2.0: やった分だけ報酬・メリットがあるから行動する(外的動機づけ)
モチベーション3.0: 好きなことだから行動する(内的動機づけ)
ピンクは、21世紀は、左脳的な仕事は機械やコンピューターに取って代わり、人間がすべき仕事は右脳的で創造的な仕事だとしている。そして、そのような仕事はモチベーション3.0が基盤となるという。
◇オプティマル・モチベーション
ケン・ブランチャード社のスーザン・ファウラー博士が2012年に提唱した考え方。
サブオプティマル(最適ではない)・モチベーションは、外的要因によってもたらされるものであり、オプティマル(最適な)・モチベーションは、内発的で、自立性や関係性や有能感によってもたらされる。そして、オプティマル・モチベーションは、自社への帰属意識、仕事の成果、自社のために努力する姿勢、利他的な社会市民としての行動といった面で相関関係があることを実証した。
さらに、オブティマル・モチベーションは、組織や上司によって与えられるものではなく、従業員が持つべきスキルであるとした。組織は、モチベーションそのものを与えようとするのではなく、従業員がそのスキルを獲得できるよう支援すべきだというものだ。