コラム

2026.09.30(水) コラム

■【記事】身体で学び、現場で学ぶ——ATD26レポート第3弾

こんにちは、AX室長の山口真宏です。第2弾では、AIが個人の「練習相手」になり、組織の「働き方の土台」になっていく事例をお伝えしました。シリーズ最終回となる今回は、AIの対極にある「人にしかできない、身体を使った学び」と、学びやフィードバックが「現場」に溶け込んでいく動きについてご紹介します。

人にしかできない、身体を使った学び

THE BOXは、白い段ボール箱を使った、五感連動型のワークショップです。参加者はまず、自分の中にある無意識の思い込みやブレーキ要因を箱に書き込みます。次にその箱を実際に頭にかぶり、「自分で自分を閉じ込めている感覚」を疑似体験する。そして最後に、その箱を物理的に破ってリメイクすることで、固定的な思考から成長志向への転換を身体で表現します。複数人の箱をつなぎ合わせてチーム全体の一体感を演出する場面もあり、理論の説明よりも先に、身体の記憶に働きかけるデザインになっていました。

Sewa BEATSは、ドラムを中心とした音楽体験を通じてビジネススキルを習得するプログラムです。参加者全員で太鼓を叩き、リズムを揃えていく過程そのものが、リーダーシップやチームビルディング、変革マネジメントといったテーマのメタファーとして機能します。頭で理解するというより、手と耳と心を同時に働かせて体感するという設計で、20年にわたって世界各地で実施されてきた実績があるとのことでした。

METALOG Training Tools USAは、木製の道具やパズルのような教材を使い、チームで協力しながら課題を解いていく体験型ツールを扱うブースです。THE BOXやSewa BEATSと同じく、AIの対極にある「手を動かし、身体を使って気づく」学びの系譜に連なるものです。AIブースの熱気のすぐ隣で、こうした手触りのあるワークショップ・ツールにも変わらず人だかりができていたのが印象的でした。

学びとフィードバックが「現場」に溶け込む

対話型の360度フィードバック
Your360.aiは、音声AIを使って対話形式でフィードバックを集める360度評価サービスです。従来のアンケート形式では、選択式の設問に答えるだけで終わってしまい、行間にあるニュアンスまでは拾いきれないことがよくあります。このサービスでは、AIが対話相手となって「なぜそう感じたか」を深掘りして聞いてくれるため、コーチが一人ひとりに直接ヒアリングするような質感のフィードバックを、より多くの対象者から効率的に集められる点が特徴的でした。

画面から現場へ:ウェアラブル学習

もうひとつ印象的だったのが、GreenState Credit UnionのDestery Hildenbrand氏によるセッション「ハンズフリー学習」です。研修会場に集まったり、LMS(学習管理システム)の画面の前に座ったりする学びから離れて、働いているその場に、必要な瞬間に必要な学習コンテンツが届くようになる、という展望が語られました。ポイントは、コンテンツを優先するのではなく、タスクを優先すること。作業から人を引き離すのではなく、作業をしながら「次に取るべき正しい一つの行動」を、必要な瞬間に届けるという発想です。

音声AIと視覚AIを組み合わせることで、声での質問、カメラを通じた画像分析、視界へのオーバーレイ表示によるリアルタイムの指示や検証が可能になり、多言語の翻訳も同時に行えるといいます。両手が塞がる製造業や医療、接客中の小売業といった現場ほど効果が大きく、コストも数千ドルから消費者価格帯まで下がってきていることから、小さく始めて段階的にスケールするアプローチが勧められていました。

実は私自身も、日本ではまだ発売されていないMeta Ray-Ban Displayをその場で購入しました。かけてみるまでは正直半信半疑でしたが、実際に試すと、目の前の景色に必要な情報がふっと重なって見える感覚は、話に聞くのと体験するのとではまるで違いました。一緒にいたPFCラーニング・チームのメンバーも同じように試し、揃って「これは実際にかけてみないと伝わらない」と得心したのを覚えています。研修会場や画面の前から学びが解き放たれ、AIが眼鏡越しに働く現場までついてくる。そんな未来が、思っていたよりずっと近くまで来ていました。一方で、Oculusのようなヘッドセット型のデバイスを扱うセッション会場は驚くほど人がまばらで、アメリカ国内でも注目の軸がヘッドセットから眼鏡型へ移りつつあることを肌で感じました。

AIとアナログが同居する現場が示していたこと

現地に足を運ぶことでしか得られない体感が、確かにあります。そして面白かったのは、第2弾・第3弾を通じてご紹介した3つのテーマが、根っこでは同じ問いに触れていたことです。AIによる練習相手やコーチングが急速に広がる一方で、身体を使った体感型のワークショップにも確かな需要がある。AIエージェントの導入も、対話型のフィードバックも、ウェアラブル端末による学習も、突き詰めれば「AIをどう使うか」ではなく「人がどう変わるか、どう働き方を変えるか」という、人と組織の側の問いに行き着いていました。どちらか一方が主役なのではなく、両方が並んで存在していることこそが、いまのL&D(学習・人材開発)の現在地なのだと感じました。

これはまさに、AX室が探求しているテーマそのものです。AIをどう活用するかという問いと、人にしか担えないものをどう守り、育てるかという問いは、切り離せる別々の課題ではなく、同じコインの両面なのではないでしょうか。

皆さんの組織では、AIの活用と、身体や声を使った人間らしい体験の両方に、どのようにバランスを取っていらっしゃいますか。

よろしければ、山口とお話ししませんか。EXPOやセッションで見つけた事例の詳細や、AX室の取り組みについてご興味のある方は、下記からお気軽にご連絡ください。なお、来年ボストンで開催されるATD27にご興味のある方も、ぜひこちらからお知らせください。


ATD26レポート第1弾:「変革を受け入れ、未来を切り拓く」——世界最大のL&Dの祭典ATD26とラーニング・チーム活動報告

ATD26レポート第2弾:AIが「練習相手」になり、「働き方の土台」になる——ATD26レポート第2弾 | PFC


山口真宏(やまぐちまさひろ)
ピープルフォーカス・コンサルティング 
AX室長 
シニア・コーディネーター