コラム

2026.09.30(水) コラム

■【記事】AIが「練習相手」になり、「働き方の土台」になる——ATD26レポート第2弾

こんにちは、AX室長の山口真宏です。前回は「変革を受け入れ、未来を切り拓く」というテーマで、ATD26の概要と基調講演についてお伝えしました。第2弾となる今回は、2026年4月にPFCの中に新たに発足したPFCのAX室(AX Studio)の紹介も兼ねて、EXPO会場とコンカレントセッションで見つけた事例をご紹介します。今回と次回の2回に分けて、3つのテーマに沿ってお届けします。

PFCのAX室(AX Studio)について

AX Studioという名称は、Augmented Intelligence Strategic Transformation Studio の略です。事務的な組織(Office)ではなく、創造のための試行錯誤の場(Studio)でありたいと考えています。人間の知性がAIに置き換わるのではなく、AIによって拡張(Augment)されると捉える。あくまで人間中心(People Focus)であることを大切にしています。

AX Studioのミッションは、テクノロジーと人間性の調和を探求することです。最先端のAIの活用によって定型的な思考や作業から人を解放し、より本質的な対話や創造的な活動に集中できる時間を生み出すこと。PFCが長年培ってきた「組織と人」への洞察に拡張知能の光を当て、クライアント組織を持続性と人間の成長の実現する変革へと誘うこと。そして、AI時代における新しい組織開発を自らが実験台となって切り拓き、その実験結果を社会へと提示すること。この3つを、私たちのミッションとしています。

AIが「練習相手」になり、「働き方の土台」になる

ATD26のEXPOには365以上のブースが並んでいましたが、AX室長として歩いていて特に目を引かれたのが、このテーマでした。

個人にとっての「練習相手」
SkillGymは、営業交渉や部下との1on1、クレーム対応といった難しい対話の相手をAIが務め、何度でも安心して練習できるデジタル・ロールプレイのプラットフォームです。実際にはこちらの発言に応じてAIが感情や反論のパターンを変えながら返してくるので、台本通りのロールプレイとは違う緊張感があります。PFCでも以前ご紹介したことのあるサービスですが、ブースで改めて最新のデモに触れると、対話の返し方の自然さが着実に進化しているのを感じました。

Virtual Sapiensは、話す様子をカメラで撮り、声のトーンや表情、間の取り方、視線といった非言語的なコミュニケーションをAIが分析してコーチしてくれるサービスです。オンライン会議やプレゼンテーションの場面を想定しており、「何を話すか」ではなく「どう伝わっているか」に焦点を当てている点が印象的でした。

このほか、ニューロサイエンスに基づくリーダーシップ研究で知られるNeuroLeadership Instituteや、PFCとしても以前からご紹介してきたUMUも、このAIコーチ・AI活用領域で存在感を放っていました。AIコーチサービスは数年前に見たときと比べて、管理画面からロールプレイのシナリオや相手の反応パターンを細かくカスタマイズできる項目が格段に増えていたほか、実在する人物の写真から違和感のないアバターを生成できるようになっているなど、表現の幅そのものが大きく進化していたのも印象的でした。ブースの数の多さからも、「練習相手としてのAI」への注目度の高さがうかがえます。

組織にとっての「働き方の土台」
個人の練習相手にとどまらず、AIを組織全体の「行動様式」そのものとして再設計しようとしていたのが、Accenture の Shivani Smith氏とCaitlin Long氏によるセッションです。全世界約80万人の社員を対象に進めている、生成AIからエージェント型AIへの移行事例が紹介されました。ここでの主眼は、ツールの操作方法を教えることではありません。「要約」「着想」「分析」「支援」「調査」といった普遍的な知的行動に学習を分解し直し、AIを「操作する」存在から「委ねる(Delegation)」存在へと位置づけを変える、行動様式そのものの再定義でした。

この変化を数十万人規模でスケールさせるために、AIに情熱を持つ社員を「チェンジ・エージェント」として組織化し、ハッカソンや身近なユースケースを通じて草の根で熱量を広げる仕組みが語られていたのも印象的です。ROIを完璧に測定する方法はまだ無いとしながらも、「社員の92%が、AIエージェントを取り上げられたら本当に困ると回答した」という定性的な指標で現場の切実さを説明していた点に、測定しにくいものをどう可視化するかという、組織開発ならではの工夫を感じました。同時に「Trust but Verify(信頼せよ、されど検証せよ)」という言葉のもとで、最終的な判断の責任は人間が負うという原則を崩さない姿勢も、明確に示されていました。

このセッションでは、Uberは「AIチャット」、Waymoは「自律型AI」だという対比が、両者の違いを説明するメタファーとして使われていました。

私自身、LA滞在中に何度もWaymoを利用しました。配車アプリで呼ぶところまではUberと変わりませんが、実際に乗り込むと運転席には誰もおらず、ハンドルだけが静かに動きながら交差点を曲がり、車線を変え、歩行者や自転車を器用によけていきます。最初こそ緊張しましたが、数回乗るうちに「指示を聞いて動く」のではなく「状況を判断して自分で動いている」という感覚にすっかり慣れてしまいました。この違いこそが、AIチャットとエージェント型AI(自律型AI)を分けるものなのだと、身体で理解できた出来事でした。帰国後の9月には、WaymoがGO・日本交通と協業し、2027年中に東京で完全無人タクシーの運行を目指すというニュースが飛び込んできましたが、あの体感があったからこそ、ニュースの意味がよりリアルに感じられました。


次回の第3弾では、AIの対極にある「人にしかできない、身体を使った学び」と、その学びやフィードバックが「現場」に溶け込んでいく動きについてお伝えします。

よろしければ、人と組織のAXについて山口とお話ししませんか。EXPOやセッションで見つけた事例の詳細や、AX室の取り組みについてご興味のある方は、こちらからお気軽にご連絡ください。


ATD26レポート第1弾:「変革を受け入れ、未来を切り拓く」——世界最大のL&Dの祭典ATD26とラーニング・チーム活動報告


山口真宏(やまぐちまさひろ)
ピープルフォーカス・コンサルティング 
AX室長 
シニア・コーディネーター