コラム
2026.09.29(火) コラム
■【記事】「善い企業」は、誰にとって善いのか――『これからの「善い企業」の条件』読書対話会レポート
サステナビリティ事業推進室室長の千葉です。2026年9月10日、株式会社ピープルフォーカス・コンサルティングでは、『これからの「善い企業」の条件』を題材とした読書対話会が開催されました。
本書は、企業は誰のために存在するのか、ビジネスはどのように社会をより良くできるのかという問いを、B Corp™の考え方や企業事例を通じて考える一冊です。今回の対話会には、人事・組織開発、広報、営業、IR、コーチングなど、さまざまな立場の方々が集いました。

当日は、第2章「従業員への責任」と第3章「コミュニティへの責任」を中心に、マイノリティ雇用、エンゲージメント、企業と社会との関係を掘り下げました。また、NPO法人WELgee代表の安齋耀太さんより難民人材の就労支援事例も紹介いただきました。

人を「箱」に入れず、その人自身を見る
冒頭に第2章、第3章について執筆者の山田奈緒子(PFC取締役)より簡単に説明させていただいた後、マイノリティ雇用をテーマにした対話を行いました。対話では、障がいのある人や外国にルーツを持つ人など、自分とは異なる背景を持つ人と働く際に、組織でどのようなことが起こるのか色んな意見が参加者から出ました。特に話題になったのは、マイノリティとされる人を、あらかじめ用意した仕事や役割の「箱」に収めてしまうことの問題です。
雇用機会を提供していても、本人の能力や希望とは十分に関係のない周辺業務に固定してしまえば、その人の強みを組織の価値創出につなげることはできません。マイノリティ雇用を「何人雇用しているか」という数字だけで捉えるのではなく、その人がどのような力を持ち、他の人とどのように組み合わさることで、新しい価値が生まれるのかまで考える必要があります。
一方で、異なる価値観や経験を持つ人が加われば、組織に違和感や摩擦が生じることもあります。対話では、「完全に同じである必要はないが、何も共有していなければ組織として機能しにくい」という現実的な意見も出されました。
大切なのは、異なる人を既存の枠の中に押し込むことではなく、「何を組織として共有し、何を違いとして生かすのか」を考え続けることです。特に管理職には、自分の枠組みに人を合わせるのではなく、その人が組織を変え、既存の枠を超えていく可能性を認める姿勢が求められます。
「難民だから」ではなく、一人の人として出会う
考え方についての議論を踏まえつつ、より対話を深めるためのトピックとして、WELgeeの安齋さんから、マイノリティに関する具体的な事例として、難民の背景を持つ人の就労と企業のマッチングについて紹介いただきました。難民の中には、母国でエンジニア、マーケター、医師、弁護士、事業家などとして働いていた人もいます。しかし、日本語の壁、情報へのアクセスの難しさ、社会的なつながりの不足などにより、過去の経験や専門性を生かせない仕事に就かざるを得ない場合があります。
今回紹介いただいたのは、ウクライナ出身のDさんと株式会社大川印刷の事例です。Dさんは中学生の頃から印刷に関わる仕事を夢見ていましたが、戦争によって故郷を離れ、日本に来ることになりました。その後、WELgeeの支援を通じて印刷会社と出会い、希望していた仕事に就きました。採用の決め手になったのは、難民という背景ではなく、Dさんが持っていた印刷への情熱と、それまでに積み重ねてきた実績でした。「パソコンの中にあるデザインが、本物の紙になる瞬間が一番好き」という思いと、企業側のニーズが結びついたのです。
この事例が示しているのは、「難民だから支援する」「マイノリティだから採用する」という発想から一歩進み、その人が何をしてきたのか、何をしたいのか、何ができるのかを見ることの大切さです。
難民という言葉を聞いたとき、私たちは無意識に「かわいそうな人」「助けられる側の人」というラベルを付けてしまうことがあります。しかし、そのラベルが強くなるほど、その人自身の表情や経験、専門性が見えにくくなります。
属性に対して一律の支援を行うだけでなく、一人ひとりを見て必要なサポートを考える。エクイティとは、特別な人事施策というよりも、本来マネジメントが大切にしてきた個別の関わりを、より丁寧に行うことなのかもしれません。
働きやすいのに、なぜエンゲージメントが低いのか
対話の後半では、テーマを変え「給与や福利厚生、働き方の自由度が充実しているにもかかわらずエンゲージメントが高まらない場合、何をすればよいか」という参加者からの質問に対し、全員で対話を行いました。
働きやすい制度や環境は重要です。しかし、それだけで人が会社へのつながりや愛着を感じるとは限りません。リモートワークが中心になった時期に入社した人が、「会社の実態が見えない」と感じ、帰属意識を持ちにくかったという経験も共有されました。タスクを遂行し、成果を出すことはできても、人と人との偶発的な会話や、同じ場を共有する感覚がなければ、組織を共同体として感じることは難しくなります。
ウェルビーイングを高めるための制度や職場環境に加えて、自律性、周囲からの支援、フィードバック、自分の存在が認識されているという感覚が必要です。これは、単純に出社回数を増やせば解決する問題ではありません。対面かオンラインかという二者択一ではなく、どちらの環境でも、人と人がつながり、互いの存在を確認できる場を意図的につくることが重要です。 Diversity、Equity、InclusionにBelongingを加えた「DEIB」という考え方があります。多様な人を組織に迎え、公平な機会を用意し、意思決定に参加できる状態をつくるだけでなく、その人が「自分はここにいてよい」「自分はこの組織の一員である」と感じられること。それが、エンゲージメントの土台になるのではないかという議論に発展しました。
「善い企業」であり続けるということ
最後に、「善い企業であり続けるために、何が大切か」をテーマに対話を行いました。
挙がったキーワードは、「一人ひとりの存在を見ること」「社会にとっての善さを問い続けること」「変わり続けること」「MustではなくWillで動くこと」でした。
善い企業とは、決まった条件を一度満たせば完成するものではありません。時代や社会の変化によって、企業に期待される責任も変わります。従業員、顧客、株主、取引先、地域社会、未来世代など、さまざまなステークホルダーの要請は、ときに互いに矛盾します。
そのときに、どちらか一方を選ぶ「OR」ではなく、両方を実現する可能性を探る「AND」で考え続けること。簡単に答えが出ないからこそ、対話を止めず、矛盾を引き受けながら意思決定することが経営なのではないかという言葉が共有されました。
また、「善い企業」よりも先に「善い社会」があるという視点も示されました。企業自身が善いと評価されることが最終目的ではありません。自社の事業や組織の力を通じて、より善い社会の実現にどのように貢献できるか。その問いに向き合い、変化し続けられる企業こそが、善い企業であり続けられるのではないでしょうか。
今回の対話会は、「善い企業」の正解を決める場ではありませんでした。むしろ、それぞれの立場や経験から問いを持ち寄り、自分が無意識に持っていた枠やラベルに気づく場となりました。善い企業づくりは、制度や認証を整えることだけでは実現しません。一人ひとりの存在を見つめ、異なる声に耳を傾け、企業と社会の関係を問い直し続けること。その日々の積み重ねが、企業を、そして社会を少しずつ変えていくのだと感じています。
今回PFCの対話会をご紹介しましたが、『これからの「善い企業」の条件』を題材にした対話イベントは他の企業でも開催されています。もし対話会を企画してみたいと思われ方を気軽にご相談ください。
【マテックス様Xデコボコベース様対話イベント】
B Corp™認証企業3社が紡いだ「善い企業」への120分対話──マテックス×デコボコベース「DECOBOCO Lab vol.2」レポート|デコボコベース株式会社
千葉 達也(ちば たつや)
株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング
サステナビリティ事業推進室長
