コラム
2026.10.30(金) コラム
■【記事】31分間の企画打合せから見えた、これからの「考える仕事」
先日、31分間の社内打合せがありました。議題は、PFCがスリランカからビジネスリーダーを招いて11月28日に開催する経営者交流会の中身を決めることです。終わるころには、議論テーマの案と当日の流れ、そして参加を呼びかける1枚の案内資料までできあがっていました。案内資料は、日本語と英語、そしてスリランカの公用語のひとつであるシンハラ語の3言語版です。しかも、31分間のうち半分ほどは雑談でした。
これを「AIで仕事が速くなった」という話として書くこともできます。しかし、この打合せを振り返って面白いと感じたのは、速さそのものではありません。AIが多くを引き受けたあと、人の手元に何が残ったのか、ということです。
議事録係もホワイトボードもない打合せ

打合せでは、AIによる文字起こしが自動でオンになり、リアルタイムで確認できる状態で始まりました。一緒に企画を担う同僚が、口頭で狙いを語ります。「ビジネスに直結する話だけでは面白くない。せっかくなら、企業の力で社会を変えるような、日本とスリランカの双方にとって意味のあるテーマがいい」。私はすでにコンテクストを共有しているAIにその発言の文字起こしをそのまま貼り付けて、議論テーマの案を出してもらいました。
AIがアイデアを生成する画面を二人で眺めながら議論を進めます。画面には、人材の循環、事業承継とファミリービジネス、高齢化とウェルビーイング、気候変動と農業・茶園の担い手、観光と地域の持続性といった案が並びました。それぞれの案には日本側とスリランカ側のニーズとの関連性が示され、私たちはそれを見ながら、「これはいい」「ここまでやると研修っぽくなりすぎる」と、その場で選んだり削ったりしていきます。最後に残ったのは、結論を求めず、参加者がそれぞれの「今日の学び」を持ち帰る、思考実験の場という形でした。「ゲストが違うと言えば変えればいい」という前提で、あくまで仮のまま前に進めることにしました。
AIの日本語文字起こしには誤変換がつきものです。音声入力でAIに指示しても誤りは入りますし、人が打ち間違えたり、言葉足らずの指示になったりもします。それでもAIは「こういう意味ですね」と意図をくみ取ってくれます。おかげで私たちは、言葉を整えることより、何を話すかに頭を使うことができました。同僚はこれを「これまで記録を取ることに使っていた脳の処理能力が、まるごと空いた」と表現していました。
「話の中身」がなければ、AIは何も捕まえられない
打合せが終わった後の感覚は、非常に爽快なものでした。コロナ禍より前に、オフィスの会議室で立ち上がってホワイトボードを駆使しながらアイデアを出し合っていた企画会議のあの頃と同じ手応えで、アウトプットが目の前にできあがっていました。私は「こんなに楽になったのは、私たちの話の中身がちゃんとあるからでしょうね」と口にしていました。AIは、良い話を捕まえて形にすることは得意です。しかし、何のために何をめざすのか、誰にとって意味があるのか。話の中身を言葉にし、その素案と問いを出すのは、最後まで人の仕事です。
これが、人の手元に残ったものの一つ目、いわば仕事の「入口」です。
読めない言語の資料を、誰が「良し」とするのか
二つ目は「出口」です。3言語の案内資料ができあがったとき、日本語版と英語版は自分たちで読んで確かめることができました。ところがシンハラ語版を前にすると、「丸みを帯びた美しい文字が並んでいるけど、何が書いてあるのか、まったく分からない」と顔を見合わせるしかありませんでした。日付や時刻の数字が合っていることは確認できます。しかし、文章がゲストに失礼なく届くかどうかは、私たちには判断できません。
これは言語に限った話ではありません。AIの出力が自分の判断できる範囲を超えたとき、誰がそれを確かめ、誰が「良し」と決めるのか。作ることがこれほど容易になった今、組織の中で問われているのは、作る力よりも、確かめ、判断し、決める責任の置きどころです。
入口と出口を支える「目利き」の力
シンハラ語の場面では、私たちには確かめる手段がありませんでした。では、日本語や英語であったならば、誰でも確かめられると言えるのでしょうか。
この点について、同僚は一歩踏み込んだ見方をしていました。私たちのように10年、20年と仕事を積み重ねてからAIに出会った世代は、素案を出し、出てきたものの良し悪しを見分ける経験をすでに持っています。一方で、最初からAIとともに仕事を始める世代は、その目利きの力を磨く機会を得にくいかもしれない、というのです。経験のある知的労働者は大きく力を伸ばし、そうでない人との差はむしろ広がる。組織によってはそんな分岐が起きるのではないか、と。
入口で良い問いを立てることも、出口で「良し」と判断することも、この目利きの力があってこそ成り立ちます。AIが作業を肩代わりするほど、その力の差がそのまま仕事の差になっていくのではないでしょうか。
雑談の時間は、削られずに増えた
一方で、AIは人に新しい時間ももたらしました。作業をAIが引き受けてくれたことで、打合せの半分が雑談に回りました。互いが最近取り組んでいることを話すうちに、「それなら、こちらでも生かせる」という話になり、議題にはなかった仕事が一つ決まったのです。
ナレッジマネジメント(組織の知識を共有し、活用するための考え方)の分野では、知識の多くは文書になりにくい暗黙知として人の中にあり、それは同じ場を共有する対話の中でこそ受け渡される、と考えられてきました。野中郁次郎氏がSECIモデルで「共同化」と呼んだプロセスです。AIの導入は、効率化の名のもとにこうした時間を削る方向に働きがちです。しかし使い方次第では、むしろ人が人と話す時間を取り戻す方向にも働きます。この31分間の打合せは、その小さな実例でした。
作る力より、確かめ、決める力を
AIが書き、人が判断する時代に、組織は次の世代の目利きの力をどう育てればよいのでしょうか。そして、確かめ、判断し、決める責任をどこに置けばよいのでしょうか。これは、AIを取り入れるあらゆる組織が向き合うことになる問いだと考えています。
私たちPFCも、答えを持っているわけではありません。交流会の案内に書いた「結論は求めない。それぞれが今日の学びを持ち帰る」という一文は、この問いにもそのまま当てはまります。PFCのAX室は、まさにこうした「AIと人間性がどう共存するか」を、自ら実験台となって探っています。現場での試行錯誤を重ねながら、皆さんと一緒に考えていければと思います。
【参加者募集】経営者交流会「日本とスリランカ、どちらにも身になる社会課題を考える」
2026年11月28日(土)12:00〜14:30(ランチ付き)/PFCオフィス/定員あり/英語(日本語通訳なし)。スリランカに関心のある方、新興国のビジネスリーダーと対話したい方を歓迎します(経営者でなくても大歓迎です)。
参加費などの詳細・お申し込み:PFC 山口(yamaguchi@peoplefocus.co.jp)
AIを取り入れた会議運営や組織づくりに関するご相談は、下記またはPFC担当者までお気軽にお寄せください。
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山口真宏(やまぐちまさひろ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
AX室長
シニア・コーディネーター
