コラム

2025.11.27(木) コラム

従業員に必要なのは、目標ではなく「パーパス」だ(マイケル・グレイザー)

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「パーパス」と、「夢」や「目標」はどう違うのか

「人生のパーパス(存在意義)」とは何でしょうか?それは、単なる目標や夢とどう違うのでしょうか?

この問いは、HRリーダーとの会話でよく出てきます。多くの人が「パーパス」「目標」「夢」を同じ意味で使いますが、実際にはまったく異なるものです。もしあなたがリーダーシップ開発プログラムを設計しているか、あるいは人々が実際に参加し、そして留まりたいと思う文化を築こうとしているのであれば、その違いを理解することが重要です。

私はワークショップの冒頭で自己紹介をするとき、自分の人生のパーパスをお話します。それは「職場でのウェルビーイングを世界的に認められた基本的人権にすること」です。

反応はさまざまです。うなずきや微笑みで場の空気が変わることもあれば、休憩時間にクライアントが話しかけてきて、自分の仕事とのつながりを語ってくれることもあります。その瞬間に起きているのは、私が設定したパーパスへの反応ではありません。人々は、自分と共通する価値観を見つけ、それをどう生かせるかを考えているのです。この違いこそ理解しようとしなければなりません。

夢はインスピレーション、目標は測定、パーパスは指針

夢は可能性と感情で私たちを前に引っ張ってくれます。夢はモチベーションも高めてくれますが、必ずしも行動を伴わせるわけではありません。夢はインスピレーションを与えてくれますが、実現しないこともあるのです。

一方で、目標は実践的です。目標は私たちにマイルストーン、指標、明確な終点を与えてくれます。目標を達成すると、私たちは満足感あるいは安堵を感じ、そして次の目標を設定します。目標は期限内での測定可能な行動に関するものであり、チェックすることができます。目標は方向性と責任を提供してくれますが、一度達成すれば、それは過去のものになります。

パーパスはそれとは異なり、自分の価値観をどう行動に移すかを示すものです。働き方、意思決定、人との関わり方で自分が何を体現するかということです。パーパスは、特定の目標を達成できるかどうかに関係なく機能します。状況に左右されず、あなたのあり方を決めるものなのです。

「部門で最高のマネージャーになる」は「目標」でしかない

「人生のパーパス」は、自分の価値観を生きることです。そして、自分を超えたポジティブな影響を与えることです。パーパスは、自分一人で達成できるものより大きく、場合によっては自分の生涯で達成できるものよりも大きいものである必要があります。

難しく感じるかもしれませんが、これこそがパーパスの強さなのです。「部門で最高のマネージャーになる」というのは目標に過ぎません。しかし「人材育成における公平性を推進する」というパーパスを持てば、他者とのつながりが生まれます。共通の価値観を持つ人々が集まり、協力し合えるようになるのです。

「石鹸をたくさん売る」ではなく「人々の人生を変える」を目指したユニリーバの元COO

Unileverの元COO、ハリッシュ・マンワニ氏の話は象徴的です。入社初日、上司に「なぜここにいるのか」と問われ、「石けんをもっと売るためです」と答えた彼に、上司はこう言いました。「違う、人々の人生を変えるためだ」。

石鹸やスープを売る会社が人生を変えているなんて、ばかげているように思えました。しかしその後、マンワニは、石鹸で手を洗うことで防ぐことができる感染症によって、500万人の子どもたちが5歳の誕生日を迎えられないことを知りました。ユニリーバはその当時、世界最大と言われる手洗いキャンペーンを開始し、それは5億人に届きました。マンワニが言うように、『小さな行為が大きな違いを生むことがある』のです。これがパーパスの力です。
パーパスの力は、個人よりも大きく、四半期の利益よりも大きく、そして彼の働き方を根本から変えたのです。

これは単なる理想論ではありません。アダム・グラントの研究※によると、利他的な動機(自分を超えた何かに貢献すること)と内発的動機を組み合わせることで、どちらか一方だけの場合よりも高いパフォーマンスとウェルビーイングが得られることが示されています。
Does Intrinsic Motivation Fuel the Prosocial Fire? Motivational Synergy in
Predicting Persistence, Performance, and Productivity

スケール感のあるパーパスは、挫折に直面したときや特定の取り組みがうまくいかないときにも、無意味になることはありません。むしろ「意味のあることに貢献している」という感覚が、エネルギーを与え続けるのです。それはあなたを超えて続くものです。

目標管理だけでは不十分な理由

ここで、人事や組織開発のリーダーにとって重要な問いがあります。
「あなたは人々が自分の人生のパーパスとつながるのを支援していますか?それとも、単にパフォーマンス計画に目標を追加しているだけですか?」

私はこの現象を常に目にします。企業は目標設定のフレームワーク、OKR、パフォーマンス管理システムに多額の投資をしています。目標は確かに重要です。だからこれらは間違ってはいません。しかし、これだけでは不十分なのです。誰かが四半期目標を達成しても、その仕事に空虚さを感じているなら、それは目標設定の問題ではありません。パーパスの問題です。

今後成功する組織は、最も洗練された目標管理システムを持つ組織ではありません。人々が次の根本的な問いに答えられる組織です。「私の仕事は、指標を超えてなぜ意味があるのか?」

コンピテンシーと目標だけに焦点を当てるプログラムと、リーダーが自分のパーパスを言語化し体現できるよう支援するプログラムを比べてみてください。
前者は、より優れたプロジェクトマネージャーを育成するかもしれません。
一方、後者は、他者を鼓舞し、燃え尽きずに困難を乗り越え、価値観に沿った意思決定を困難な状況でも行えるリーダーを育成することができるのです。

「ディレクターに昇進したい」から「業界の顧客体験に対する考え方を変革したい」へ

従業員エンゲージメント戦略やリーダーシッププログラムを構築する際、この違いを統合するには次のようなステップが必要です。

まず、個人のコアバリューを特定する支援をすること。
これは、壁に掲げられた企業バリューズではなく、その人にとって本当に重要なものです。
そして、これらのバリューズが日々の仕事にどう現れているか(あるいは現れていないか)を探ります。ギャップはどこにあるのか?整合性はどこにあるのか?

「より大きなものへの奉仕」を本質とするパーパスステートメントを言語化する支援をすること。
「ディレクターに昇進したい」ではなく、
「業界の顧客体験に対する考え方を変革したい」
「乳児死亡率をなくしたい」など。

リーダーシッププログラム、チームミーティング、1on1などで、個人のパーパスと組織のパーパスのつながりを共有する場を設けること。
強制ではなく、「ご招待」が好ましいです。

その場で、例えば、ある人が「私は職場のウェルビーイングに関心があり、それは『持続可能な世界を創る』という当社のミッションとつながっています。なぜなら、健康な人々は健康な地球に不可欠だからです」と言い、同僚が「私は環境正義に関心があり、それも同じミッションにつながっています」と言ったとき、ここに共通点が見つかります。
その時、彼らは単なるOKRを達成する同僚ではなく、意味あることに向かって共に働く仲間になるのです。
この心理的なシフトこそが、協働を「調整」から「パートナーシップ」に変えるのです。

これらの会話が、トレーニングルームの外でも自然に起こるように促しましょう。人々が同僚にとって本当に重要なことを理解すると、一体感が生まれます。たとえ日常的なタスクであっても、『レイチェルは人材開発における公平性を本当に大切にしていて、このプロジェクトがそれに役立つと見ている』と知っていると、一緒に働くことが容易になります。

パーパスが目標に意味を与える

パーパスは目標の代替ではありません。目標に意味を与えるものです。
目標達成が難しくなったとき、道筋が不明確なとき、指標が正しい行動をすぐに報いてくれないとき、人を支え続けるのはパーパスです。
日々の仕事を人生の深い目的と結びつけ、自分のバリューズが仕事を通じて体現されていると感じられるとき、目標達成だけでは得られない持続的なエンゲージメントとレジリエンスが生まれるのです。


マイケル・グレイザー(Michael Glazer)
ピープルフォーカス・コンサルティング
プリンシパル・コンサルタント

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