コラム
2026.08.27(木) コラム
■【記事】障がい者雇用は「雇う」から「キャリアをつくる」へ――映画『ウィー・ハブ・ア・ドリーム』が人事に問いかけること
サステナビリティ事業推進室室長の千葉です。
2026年7月、民間企業の障害者法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられました。それに伴い、障がい者の雇用義務が生じる企業の範囲も、常用雇用労働者40人以上から37.5人以上へと広がっています。
障がい者雇用は、もはや一部の企業だけが取り組むテーマではありません。実際、厚生労働省の2025年の集計では、民間企業で雇用されている障がい者数は70万4,610人となり、雇用障がい者数は22年連続で過去最高を更新しました。実雇用率も2.41%と過去最高となっています。
職場に障がいのある社員がいることは、以前と比べれば、ずっと日常的な光景になってきたと言えるでしょう。では、障がい者雇用が「雇う」ことから次の段階へ進むとしたら、企業や人事には何が求められるのでしょうか。
私は最近、そんなことを考えるきっかけになる映画に出会いました。

映画『ウィー・ハブ・ア・ドリーム』
2026年8月7日から日本でも劇場公開されたこのドキュメンタリーは、障がいを抱えながらも夢を追い続ける5カ国6人の子どもたちを描いた作品です。
作品のキャッチコピーは、「“できない”なんて誰が決めたの?」です。
フランスの少女は、出生時に片足を失いながらも、バレエや音楽に夢中になっています。
地震で片足を失ったネパールの少女たちは、親友同士で支え合いながら、義足でダンスに挑戦しています。
視覚障がいのあるケニアの少年は、憧れのランナーのようになることを夢見て、走ることに挑戦しています。
映画を観ていて印象に残ったのは、単に「障がいがあっても頑張っている子どもたち」の姿だけではありませんでした。
むしろ心に残ったのは、周囲の人たちが、その子どもたちをどのように支えているかということでした。家族は、子どもの可能性を信じ、必要な環境を整える。友人たちは、障がいがあるからといって特別な存在として扱うのではなく、一緒に学び、一緒に遊ぶ。教師や周囲の大人たちは、それぞれの子どもが挑戦できる環境を模索する。
つまり、本人の「夢」を中心に置きながら、周囲が環境を整えているのです。この姿は、企業における障がい者雇用にも通じるものがあるように感じました。
「配慮」と「可能性」をどう両立するか
障がい者雇用も、これまで大きく変わってきました。障がいについて十分に理解されず、必要な配慮を受けられない。仕事を任せてもらえない。周囲の「できないだろう」という思い込みによって、本人の可能性が狭められてしまう。こうした問題に対して、企業は合理的配慮やインクルーシブな職場づくりを進めてきました。
これは、とても重要な変化です。一方で、障がい者雇用が広がり、職場で働く障がいのある社員が増えてきた今、もう一つ考えるべきテーマがあるのではないでしょうか。
私たちは、「配慮すること」によって、本人の可能性を狭めてはいないでしょうか。
もちろん、必要な配慮を行うこと自体が問題なのではありません。
合理的配慮の目的は、仕事の要求水準を下げることではなく、障がいによって生じる仕事上の障壁を取り除き、本人が能力を発揮できる環境をつくることにあります。
だからこそ重要なのは、配慮をするか、しないかではなく、その配慮が本人の可能性を広げるものになっているかという視点ではないでしょうか。
例えば、「この仕事は難しいから任せない」という対応は、本人の負担を減らすことにはつながるかもしれません。しかし、それが長期間続けば、仕事の幅を広げる機会や、新しい能力を身につける機会まで失われてしまう可能性があります。「無理をさせない」ことと「挑戦する機会をなくす」ことは、同じではありません。
例えば、ある社員が障がいのために特定の業務を行うことが難しいとします。
企業として、その業務を避け、本人が取り組みやすい仕事を中心に任せることは、一つの合理的な選択です。
ただし、それが何年も続いたとき、本人の仕事の幅は広がっているでしょうか。
新しい能力を身につける機会はあるでしょうか。
より責任のある仕事に挑戦する機会はあるでしょうか。
そして何より、本人が自分自身のキャリアについて考え、選択する機会は確保されているでしょうか。
障がい者雇用では、「雇用の継続」を重視するあまり、「キャリアの形成」という視点が十分に持たれていないケースもあります。法定雇用率を達成すること、採用すること、定着してもらうこと。もちろん、どれも重要です。しかし、その先には、「この会社で、この人はどんなキャリアを築いていくのか」というテーマがあります。
「配慮」と「期待」は両立できる
障がい者雇用において、「配慮」と「期待」は対立するものではないと私は考えています。
むしろ重要なのは、その両方を持つことです。
「あなたには障がいがあるから、ここまででいい」
ではなく、
「あなたが力を発揮するために、会社としてどのような環境を整えればよいのか。その上で、どんな仕事に挑戦してみたいのか」
を一緒に考える。
これは、障がいのある社員に対して特別に高い期待をするという意味ではありません。一人ひとりの能力や希望を理解し、仕事を通じて成長する機会を提供する。それは、本来すべての社員に対して人事が考えるべきことでもあります。
そう考えると、障がい者雇用は、人材マネジメントや組織開発から切り離された特別なテーマではなく、一人ひとりの違いを前提として、人が能力を発揮できる組織をどうつくるかという、より本質的な問いにつながってきます。
「何人雇用すれば法定雇用率を達成できるか」から、「この人が能力を発揮するためには何が必要なのか」へ。そして、「この人にどんな仕事を任せられるか」から、「この人は、この会社でどんなキャリアを築いていきたいのか」へ。
障がい者雇用を「雇用数」という数字だけで捉えるのではなく、一人ひとりのキャリアという時間軸で捉え直す。そこに、これからの障がい者雇用の新しいテーマがあるのではないでしょうか。
そして、この視点は障がい者雇用だけにとどまりません。
一人ひとりの違いや制約を前提にしながら、それぞれが能力を発揮し、成長し、組織に貢献できる環境をどうつくるか。
これは、まさにこれからの人材マネジメントや組織開発が向き合うテーマでもあります。
「できない」と決めているのは誰か
『ウィー・ハブ・ア・ドリーム』の「“できない”なんて誰が決めたの?」という言葉は、障がいのある子どもたちだけに向けられた言葉ではないのかもしれません。
それは、企業や人事に対する問いでもあるように思います。
私たちは、障がいのある社員の「できないこと」を起点に仕事を考えているのか。
それとも、
「できること」「やってみたいこと」「これからできるようになりたいこと」を起点に、仕事や環境を考えているのか。
2026年、法定雇用率は2.7%になりました。
これからの障がい者雇用に求められるのは、単に「雇用すること」だけではありません。
その人が自分らしいキャリアを築き、仕事を通じて可能性を広げていける組織をつくること。
そして、その取り組みを通じて、障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが力を発揮できる組織へと変えていくこと。
障がい者雇用を「雇う」から「キャリアをつくる」へ。
その転換は、障がい者雇用そのものを変えるだけでなく、私たちが「人が活躍する組織」をどうつくるのかを問い直す機会にもなるのではないでしょうか。
千葉 達也(ちば たつや)
株式会社ピープルフォーカス・コンサルティング
サステナビリティ事業推進室長
