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2023.10.20(金) お知らせ

■あなたの会社で「女性の活躍」が進まない理由

 2023年度から、上場企業を対象に人的資本に関する情報開示が義務付けられた。5つの情報開示項目の中に「女性管理職比率」が含まれているように、女性活躍の推進を含むダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、より重要な経営課題となっている。

 また政府も、「2030年までに東証プライム市場に上場する企業の女性役員比率を30%以上にする」という目標を掲げる方針を打ち出している。現状、東証プライム上場で女性役員が30%を超える企業は3.3%に留まっており、国内外の投資家の期待に応える意味でも、これまで以上に女性活躍の推進に取り組む必要がある。

 しかし一方で、人材教育の現場からは、「D&Iの研修は行っているが、目に見える変化は感じられない」「下駄を履かせるような形で女性管理職を増やすのは難しい」「そもそも、女性社員自体が管理職に前向きではない」といった声も聞こえてくる。 現状の女性活躍の推進の取り組みには、いったいどのような問題があり、それをどう解決していくべきなのか。大手企業を中心に数多くのダイバーシティ研修やコーチングを提供しているPFCのシニア・コンサルタント・松岡未季氏に語ってもらった。


“残念な”女性活躍推進:よくある4つのパターン

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 多くの企業で女性活躍の推進を目指した取り組みが行われていますが、それが実際に女性の管理職の増加や、社内の女性たちが生き生きと活躍することにつながっているかというと、必ずしもそうではありません。取り組みが成果に結びついていない、という大きな問題があります。そうした、”実効的ではない女性活躍推進”には、いくつかのパターンがあります。

 まずいちばんよく見られるのは
①「研修だけ行って、職場で実践する機会が設けられていない」というケース。
知識を学んでもその後の実践に移すのは難しいもの。加えて、男性中心の職場で女性はマイノリティですから、何のサポートもなしにリーダーシップを発揮するのはハードルが高く、実践に至らないままになってしまう人も多いと思います。

 また、研修を実施する場合も
②「女性だけを対象にして、その上司を巻き込んだ取り組みになっていない」というケースがよく見られます。女性が研修で学んだ内容を実践するにはサポートが必要、とお話ししましたが、なかでも最も大切なのが直属の上司の理解と協力です。女性リーダーの候補者が実際にリーダーシップを発揮しようとすると、様々な壁に突き当たることになり、状況をよく理解して、適切なアドバイスとサポートをしてくれる上司の存在は欠かせません。しかし実際は、該当の女性だけを集めた研修にとどまっているケースも多いと思います。

 上司に関わるケースで言うと
③「上司がD&Iの意義や狙いを、自部門の具体的な取り組みに落とし込めていない」というのもよく見られます。女性活躍の推進やD&Iについて基礎的な知識がある上司の方も、「我が事」として取り組めているかというと、そうではない場合が多いのでは。会社の方針としては賛同するけれど、いざ自部門のこととなると、「現状でも特に問題ない」「それよりも目の前の仕事の方が大事」と、正面から取り組むことを避けてしまう。「総論賛成・各論反対」の状態に陥っている場合が多いと感じます。

 また、会社全体の姿勢として問題があるのは
④「経営方針にD&Iを掲げているにも関わらず、数値目標や具体的な施策がない」というケースです。
売上を伸ばすのに目標金額が必要であるように、D&Iに真剣に取り組むなら、数値目標や具体的な施策が必要となるはずです。それを避けて形ばかりの姿勢を取っている会社は、国内外の株主などのステークホルダーから、「実行力がない」と判断されることにもなりかねません。

女性リーダーの研修は上司の研修でもある

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 このように、現状の女性活躍の推進を含むD&Iの取り組みには、問題のあるケースも多いのですが、経営におけるD&Iの重要性はさらに高まってきており、私たちの元にも、より実効的な施策を求める相談が多く寄せられるようになっています。

 まず、
①「研修だけ行って、職場で実践する機会が設けられていない」というケース。
 女性の活躍を推進するには、研修で学ぶだけでなく、女性リーダーが自分に当てはめて考え、実践する場を設けることが必要です。

 私たちPFCの女性リーダー研修では、リーダーとして必要な知識やスキルを学んだあと、それを実際の仕事の場で活かす「職場実践課題」を設定しています。女性リーダーが自らの職場の問題を探り、直属の上司と相談しながら課題として設定し、自らのリーダーシップでその解決を目指して動く、というものです。

 仕事の現場で生じているリアルな問題が課題になるわけですから、スムーズにはいかない場合もありますが、そうしてトライ&エラーをすることがリーダーシップのトレーニングになります。このように、インプットとアウトプットをセットにして、より実践的な形でリーダーシップを育てる機会が必要と考えます。

 同時に、ぜひとも解決する必要があるのが、
②の「女性だけを対象にして、その上司を巻き込んだ取り組みになっていない」という場合です。
 対象の女性だけが研修に参加して、上司は内容を知らない、というケースはよくあります。多くの場合男性である上司は、「自分で考えて自分で動くのがリーダーシップ」と考える人が多く、「だから自分は何も助けなくていい」と解釈してしまいます。なかには、「お手並み拝見」とばかりに、傍観する男性上司もいます。

 しかし、先ほどお話ししたように、男性の管理職が圧倒的に多い会社では、女性リーダーはマイノリティです。マイノリティは目立ちやすく、周囲からのプレッシャーにさらされやすいため、「なるべく目立たないようにしたい」と考えている女性リーダーは多いものです。そのため、「他者を巻き込む」ことに対して、強度な苦手意識を持つ人もいます。

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 また、真面目な女性リーダーほど、「自分の仕事は上司が期待することをちゃんとこなすこと」と考えているため、「自分で考えて」「自分で交渉して」と放り出されると、どうしたらいいかわからず立ち止まってしまいます。その結果、一人で抱え込んでしまい、本来持っている能力を発揮できなくなってしまうのです。

 こう言うと、「女性だけに下駄を履かせるのはおかしい」「困ったときに言ってくれたら、いくらでも相談に乗る」と言う男性上司もおられるのですが、「平等主義」や「自然体」では、D&Iは進まないということを理解する必要があります。

 少数派である女性は男性と同じスタートラインに立つことができないことを踏まえて、女性が力を発揮する機会を設けると同時に、そのための体制や環境を整え、フォローを行なうことが必要、というのが、D&Iに欠かせない「Equity (公平性)」の考え方です。このEquityに基づいた積極的な行動を行なうことが、上司である自分の職務の一つだと意識を変える必要があります。

 そうした意識の修正をスムーズにするためにも、私たちの女性リーダー研修では、「職場実践課題」を上司と相談しながら設定する形にするとともに、その結果発表の場には上司の方も参加してもらうしくみにしています。女性リーダーの発表の後には、その上司の方からも、自らの活動について発表してもらいます。当然、コミットメントが求められますし、ほかの上司の方も発表しますから、女性リーダーの育成について、上司の方自身も学ぶ場となります。

 このように、女性活躍の推進は、上司の取り組みとセットで考えることが必要です。

 ③の「上司がダイバーシティの意義や狙いを、自部門の具体的な取り組みに落とし込めていない」という状態も、女性活躍の推進を上司の方が「我が事」として考えるように方向づけることによって、改善の糸口になると考えます。

 ④の「経営方針にD&Iを掲げているにも関わらず、数値目標や具体的な施策がない」というケースは、会社全体の問題になりますが、私が研修を担当する企業のなかには、数値目標と具体的な施策を公表するところが増えています。上場企業に人的資本に関する情報開示が義務付けられたように、D&Iへの取り組みは重要な経営指標の一つに位置付けられましたから、今後はさらに多くの企業で、数値と具体的な施策の設定が進むものと期待しています。

女性の力がみるみる活きるファシリテーションのスキル

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 女性活躍の推進に実効性を持たせるには、女性が役立つスキルを身につけることも大切です。なかでもファシリテーションは大変重要で、私たちの研修でも丸1日を当ててじっくり学んでもらっています。

 日本のリーダーシップは「指示型」がメインで、それができずに悩んでいる女性リーダーがたくさんいます。しかし、ファシリテーションのスキルを身に着けると、中立的な立場で様々な人の意見を引き出し、論点を整理して、みんなの意見としてまとめることができるようになり、女性リーダーの行動は大きく変わります。ファシリテーションは、男女を問わず、組織のマネジメントに必須のスキルですが、人の意見に耳を傾けたり、みんなが意見を出しやすい雰囲気を作ったりするのは、得意な女性も多いもの。また、ファシリテーターは存在感がありつつも、みんなの意見を取り入れながら進めていくので、悪目立ちしません。女性リーダーにより有用なスキルだと言えます。

 私たちの研修を受けたあるメーカーの女性リーダーは、ベテラン間の意見の相違で停滞したプロジェクトに関わっていました。その方は、研修の「職場実践課題」にそのプロジェクトを選び、ファシリテーションで仕切り直しに取り組みました。  

 最初は「なぜお前が仕切るんだ」といった反応で、進めづらかったようですが、それにめげずに、意見と人を切り離して、「自分たちが目指す方向は何か」と照らし合わせながら、ベテランの方々の経験や思いに丁寧に耳を傾けて可視化に努めたそうです。その結果、全員が納得する結論に辿り着き、プロジェクトが再び動き出した、ということがありました。 ベテランの方々も、彼女の会議の進め方を高く評価して、一目置いてくれるようになったそうです。その後も、ファシリテーションに基づく会議の進め方が定着し、チームの雰囲気もとてもよくなり、彼女自身もとても勇気づけられたと聞きました。女性リーダー研修の取り組みが、チーム全体に好影響を与えた事例として、とても印象に残っています。

パーソナル・コーチングが研修の効果をさらに高める

 女性活躍の推進は上司の関りが鍵になる、とお伝えしましたが、「そうはいっても、時間的に厳しい」という上司の方もおられるでしょう。そうした場合の対応として、私たちの女性リーダーの研修では、通常の研修プログラムに加えて、一対一のコーチングのサポートを選べるようになっています。研修を担当した講師とやり取りすることで、その方がリーダーシップを発揮する上でのハードルを明らかにし、それを乗り越える方法を一緒に考えていきます。障害となるものには、その人の考え方の癖やコミュニケーションのスタイルが影響している場合が多いですから、そこを丁寧にフォローしながら導いていきます。

 また、研修で学んだことを実践する際の具体的なアクションについても一緒に考えていきます。「職場実践課題」のアジェンダを一緒に制作する場合もありますし、「上司にどのように提案したらいいか分からない」といった場合には、提案する際のスクリプトを一緒に考えて、提案の場面を想定したロールプレイングを行なうこともあります。そのくらい具体的な取り組みに落とし込んでいくことで、一歩を踏み出すのが格段にスムーズになります。そして、その一歩を成功体験として振り返ることで、持続的にリーダーシップが発揮できるようになっていくのです。

 パーソナル・コーチングでは、研修の内容に留まらず、その方の目指したいリーダー像や将来のキャリアについても考えていきます。上司の方とキャリアについて相談する機会があまりない、という声もよく聞きます。リーダーになるということは、将来の働き方に大きく関わる選択ですから、コーチングを利用してキャリアについて深く考える機会にするのも、女性リーダー研修の効果的な活用法だと思います。

KPIの達成とともに納得いくキャリアのために

 女性のキャリアという点で正直に申し上げると、管理職は女性に不人気です。自分の上司を見て、責任の重さに対価が見合わないと感じたり、女性の上司が近くにおらずロールモデルがなかったりする、といったことが原因だと思います。女性の上司がいたとしても、その方は、男性社会で出世してきた「超・仕事のできる女性」である場合が多く、自分はとてもそうはなれない、と思ってしまう人もいるでしょう。すると、管理職ではなく専門職になりたいと考える人も多くなります。

 しかし、専門職に進んだとしても、経験を重ねればやがてはプロジェクトを率いてマネジメントをする必要が出てきます。管理職にならなくとも、リーダーシップは絶対に必要になります。その点は女性リーダーの候補となる方々に伝えておく必要があります。そのうえで、女性リーダーを育成する上司や関連部門の方々は、候補者の女性に、リーダーというポジションありきで話を進めるのではなく、その人の価値観や強みを改めて掘り下げて、それをどうキャリアに活かしていくかをしっかり考えてもらう機会を提供することが必要でしょう。

 女性を研修に参加させるという局所的な対応だけでは、女性管理職比率についてもD&Iについても、KPIの達成は難しいと思われます。性急に将来を決めるのではなく、その人の価値観や強みを踏まえたキャリアプランを描くことが大切です。

 そのためには、やはり上司の関りとコーチングのスキルが大変重要になります。女性リーダーの育成とD&Iに取り組むからには、一人ひとりの個性や価値観を理解し、その部下がどうなっていきたいのか、そのためにはどのように仕事に取り組んでいくのがいいのかを考える責務が上司にはあります。そうして、上司の方の関りも含めて、個と多様性をより尊重する環境が整っていくことで、D&Iの推進がより力強いものになっていくと思います。


松岡 未季(まつおかみき)
ピープルフォーカス・コンサルティング シニア・コンサルタント

大手企業の様々な組織開発課題に対するソリューション提供を行ない、クライアントと寄り添いながら課題の解決を目指す。次世代リーダー向けに、企業経営への視座を高めることを目的としたビジョン策定ワークショップや、階層別のリーダーシップ研修、ダイバーシティ研修などのプログラム開発やファシリテーション等も行う。また若手/次世代リーダー向けにパーソナル・プロコーチとしても活動している。

この記事を書いたのは:
石澤 寧(いしざわやすし)
フリー編集者/ライター

株式会社PHP研究所で、ビジネス書籍/雑誌の編集、広告企画に携わったのち、アルマ・クリエイション株式会社にて、経営者のマーケティング勉強会/コミュニティの事務局と運営を担当。その後独立し、フリー編集者、フリーライターとして活動中。国家資格キャリアコンサルタント。