お知らせ
2024.11.01(金) お知らせ
■HR Techカンファレンス & Expo 2024 参加報告① ~生成AIがやがて組織にもたらす変化「コンピテンシーモデル型からスキル型へ」
イベント概要
2024年9月24日から27日にかけて、ラスベガスで開催されたHR Techカンファレンス & Expoに参加してきました。アメリカ国内を中心に世界中から約2万人が集まる大規模な人事関連イベントで、毎年欠かさず参加しているというリピーターも多く、業界のトレンドを把握するには欠かせない場となっています。参加者は主に人事担当者や事業開発に関わる人々で、様々な人事関連のテクノロジーサービスに実際に触れられることが特徴です。人事業務がテクノロジーによってどのように変化していくのか、最新動向を肌で感じることができる貴重な機会でした。
人事の全業務におけるAIの活用が進む
まず、今回のイベントで理解できたことは、AI(以降、生成AIを含む)が人事のあらゆる業務で既に活用可能な段階に至っているということでした。AIの活用が「いずれできるようになる」というコンセプトレベルではなく、「すでにサービスに組み込まれている」という実用レベルに到達していることが分かるのは、実際のサービスに触れることのできるこのイベントならではの特徴です。採用から労務管理に至るまで、全てのプロセスにAIが導入されることで業務が効率化され、人事担当者の意思決定の精度向上につながります。そのためには、現在使用している様々なテクノロジーサービスのデータを如何に統合して、それをAIの活用によって分析し、戦略的な意思決定に繋げるかが焦点となります。複数のテクノロジー環境と相互作用して自律的にユーザーを助けるAIエージェントが、今後の重要なインターフェイスになることが話題になりました。
具体的なサービスベンダーで特に注目されたのが、ServiceNowです。ServiceNowは近年、日本を含むグローバルで急成長している業務統括パッケージであり、AIを活用した効率的な業務管理の実現に寄与しています。会場でのデモセッションは立ち見が出るほどの盛況振りで、従業員と人事担当者の双方が、業務の効率化を実現できることがわかりました。
コンピテンシーモデルの限界とスキルベースの人材活用への移行
基調講演では、著名なHRアナリストで業界のトレンドセッターでもあるJosh Bersin氏がHR業界全体を幅広く俯瞰して今年の傾向を伝えていました。特に興味深い内容として、コンピテンシーモデルを用いた人材管理の限界についての重要な指摘がありました。
近年、従来の役割やポジションに基づく人材管理アプローチについて、急速に変化するビジネスニーズや新たなスキルセットの出現に対応しきれないという問題が顕在化しています。それに加えて、生成AIの活用で業務の有り様や業務量が目まぐるしく変わりつつあります。このような状況下においては、事前に定義されたコンピテンシーモデルをベースとした人材管理では役割が固定されがちで、現実の業務に必要なスキルや新たに生まれるキャリアパスを十分に反映できないため、スキルベースのアプローチへ移行する必要があると強調されていました。
スキルベースのアプローチでは、従業員が持つスキルに焦点を当てて人材を活用することが重要視されます。このアプローチにより、変化に強く柔軟な組織作りが可能となります。さらに、AIを活用して従業員のスキルデータを統合・分析することで、より効果的な人材配置や育成が実現します。また、企業内部のデータだけでなく、外部のスキルデータベースやタレントインテリジェンスツールを活用することで、より包括的なスキルマッピングと人材活用も可能となります。これにより組織の柔軟性と対応力の強化が期待されています。
これを実現する具体的なサービスの一つとして、Expoで紹介されたのがOracle Dynamic Skillsです。このツールは、従業員のスキルをAIによってスムーズに定義し、変化する業務ニーズに迅速に対応する体制を整えるのに寄与します。デモセッションでは、全てAIで完結ではなく、個人の持つスキルの妥当性は周囲の評価によって担保するという点が紹介され、現実的で納得性のあるアプローチだと感じました。
スキルベース組織の事例:デルタ航空
HR Techカンファレンスの最後のセッションでは、テクノロジーを活用してスキルベースの組織を作り上げたデルタ航空の事例が共有されました。デルタ航空は従業員エクスペリエンスを重視し、従業員のスキルを可視化・育成することで、顧客エクスペリエンスの向上を目指しています。デルタ航空は2,157の職種を標準化し、各職種に必要なコアスキルと職種スキルを定義しました。これにより、従業員の現在のスキルと必要なスキルのギャップを明確にしています。
さらに、AIを活用してジョブディスクリプションから必要なスキルを自動抽出し、従業員の学習と昇進を支援するシステムを構築しました。また、従業員が自身のキャリアパスを可視化・管理できるシステムを導入し、スキル開発とキャリア機会の創出を支援しています。また従業員からのフィードバックを重視して、継続的にシステムを改善していくことが紹介され、スキルの可視化、人材育成、AIの活用、そして従業員エクスペリエンスの向上がデルタ航空の特徴的な取り組みとして挙げられました。
まとめ
今回のHR Techカンファレンス & Expoでは、AIの活用やスキルベースの人材活用など、人事の未来に向けた重要なトレンドが数多く示されました。特に、Josh Bersin氏の基調講演で強調された「コンピテンシーモデルの限界とスキルベースの人材活用への移行」は、今後の人事戦略にとって非常に示唆に富んだ内容でした。また、実際の事例としてデルタ航空のようなスキルモデルを取り入れた実践的な取り組みが、従業員エクスペリエンスの向上だけでなく、企業全体の競争力を高める鍵となることが確認できました(個人的にも、近年のアメリカ出張ではデルタ航空を利用しており、顧客として高い満足度を感じていたので納得感がありました)。
コンピテンシーとスキルは似ているように見えることがあります。その違いを多くの人は明確に説明できません。私にとってもあらためて本質的な違いを考え直す機会となりました。スキルにフォーカスする新しい戦略が必要な理由は、その本質的な違いに立脚しています。
コンピテンシーは、「ある役割・分野」における個々人の行動に焦点を合わせている傾向があります。従って、コンピテンシーモデルでは、他の役割ではどのように機能するかの判断が難しくなります。
他方で、スキルは分野を越えて機能する専門知識に基づいています。社員は何か新しいことを学ぶ必要がある時にコンピテンシーモデルを再度チェックすることはほとんどないと思いますが、必要なスキルであれば明確に認識できます。必要なスキルを学ぼうとし、結果としてどの分野にも適応可能なポータブルなスキルを得ていきます。スキルはまた、社員が自分の成長について話す時に実際にアピールできる具体的な内容ともなります。
一方、コンピテンシーモデルには、単なる知識やスキル以上のものが必要です。コンピテンシーは、パフォーマンスをもたらす「行動」や「態度」などの組み合わせでもあります。しかし、組織はこれらのすべての情報を測定・把握できません。実用的なデータの収集は不可能です。
けれども、スキルであれば、定量化可能で標準化できます。社内の配置転換や人事異動の元となるデータをもたらします。さらに、AIの活用が、データ蓄積をいっそう効率的にし、今後の人事戦略遂行をより効果的にします。
今回の記事に続いて次回は、従業員に必要とされるAIリテラシーや、人事が組織すべきチーム体制等についてご紹介する予定です。このような人材開発領域でのテクノロジー活用やAI活用に伴う組織変革に関して意見交換を希望される方は、ぜひお問い合わせください。
山口真宏(やまぐちまさひろ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
PFCテクノロジーパートナーシップリード
シニア・コーディネーター