Web版 組織開発ハンドブック

グローバル組織開発

グローバルチーム作りに必要な3つの概念

グローバルな組織開発において、人の集合体を、単なる“足し算”である「グループ」ではなく、相乗効果が生まれた状態の“掛け算”となる「チーム」として機能させるために必要ものは?ここでは「ベクトル」「プロセス」「ヒューマン」という3つの要素について説明する。

グローバルチーム作りに必要な「ベクトル」

 よく、「チームのベクトルを合わせる」という表現を用いる。チームの「ベクトル」を合わせるというのは、
1 目標や方針を明確に定めること
2 それをメンバー間で共有すること
だ。

一方、次のような状態がチームの「ベクトル」が合っていない状態であり、特に日本企業がグローバルでチーム運営する上で、課題となることが多いパターンを挙げる。
・目標が曖昧:たとえば「グローバル成長!」というスローガンがあっても、具体的にいつまでにどの領域・分野でどのくらいの成長を目指すのかが明示されておらず、指針になっていない。
・目標があっても戦略を実現させる方針がない:「3年間でグローバルでの売上倍増!」という目標を掲げただけで、何をテコにどうやって倍増するのか、方針が不明確。戦略方針は、「〇〇地域を●●をすることで攻略する」「●●技術力を〇〇によって強化する」といった表現で表せる。
・目標や方針の伝達が不十分:年度の始まりに一度言ったきりだったり、あるいは、単に一方通行の伝達にとどまったりで、メンバーに浸透していない。メンバーが、チームの目標や方針をどれほど納得しているのかわからないままだったり、あるいはメンバーそれぞれが内心では「その目標を達成する意味は何か」とか「目標に到達できるとはとても思えない」といった思いを抱えたままになっている。
 チームをうまく機能させていくためには、チームとして何を目指すのか(目標)、何に重きを置くのか(方針)を明らかにし、そして目標や方針の意義を十分に皆が理解しなければならない。

グローバルチーム作りに必要な「プロセス」

 続いて、チームのプロセスを整えることが必要だ。すなわち、チームとしての仕事の進め方、すなわち業務の手順や役割分担、あるいはルールや約束事を明確にし共有することだ。チーム内にきちんとしたプロセスが存在しないか、あるいはきちんと共有されていないと、重複や漏れが発生してチーム活動は非効率を生んでしまう。これではチームとは呼べず、単なるグループでしかない。
 日本で日本人だけのチームならば、プロセスを目に見える形で明確に表現しなくとも、肝となる点や進め方の特徴を互いにわかり合えていたり、阿吽の呼吸で役割を補いあったりということが期待できるかもしれない。しかし、とりわけグローバルチームでは、こうしたことが期待できないという前提に立つべきだ。認識のミスが起きないようにプロセスを明確にし、しっかり共有しておくことが肝要だ。各メンバーの役割を明確にし、チームとしての基本的なPDCAサイクルをきちんと決めるのみならず、さらには問題が生じた場合に活用すべき課題解決の手法なども明確にしておく必要があるだろう。

グローバルチーム作りに必要な「ヒューマン」

 ヒューマンは、そのチームの目的を果たすために、必要なスキルや能力を持つメンバーでチームを構成するということだ。
 日本で日本人だけのチーム運営では、メンバーを集めてから、その人のスキルや能力を見極め、割り振る業務の内容や量を調整していくといったやり方をとることも少なくない。これは、業務遂行においてどんな能力やスキルが期待できるのかが未知数の新卒を、日本企業では大量に採用する背景にある考え方と無関係ではないだろう。どのような人をチームに入れても、スキルや能力のばらつきが、ある程度予想がつく範囲に収まっているという前提があるのかもしれない。
 しかし、グローバルチーム運営においては、あらかじめ、このチームの目的を果たすためには、どのようなスキルや能力を持った人が必要なのかを明確にしておくことが不可欠だ。そして、そのような人材でチームを構成することに加え、足りないスキルや能力の部分はどのようにして補っていくのか、あるいは各人の成長をどのようにして図るのかについても、事前に考えておくことが重要になる。
 グローバルチームには、より多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる。多様性が増したチームを効果的に運営していくために、ベクトルとプロセスとヒューマンの3要素は欠かせないものである。