Web版 組織開発ハンドブック

グローバル組織開発

グローバルな組織開発において「CSPの複雑性」がもたらす困難とは

グローバルな組織開発を難しくする文化的・制度的・物理的要因について紹介する。

CSPの複雑性が、組織を機能不全に陥らせている

 グローバル組織に属した経験のある読者であれば「日本人だけの日本国内の組織ならもっとうまくいくのに」と感じた方も少なくないだろう。実際、我々もクライアントの現場でその種の声をたくさん聞いてきた。なぜ、グローバル組織を機能させることは難しいのだろうか?
 グローバルな環境ではCSPの複雑性が、組織を機能不全に陥らせているのだ。
 それではCSPの複雑性によって、グローバル組織運営の難しさは具体的にどのように増すのだろうか。

C(文化的要因)の複雑性

 文化が異なる人たちが組織内に混在することが、協働を難しくさせる。文化は無意識のうちに習慣化されているものだから、自覚のないことが多い。
 同じ組織で一緒に働いてみて初めて、文化や宗教から派生する生活習慣、あるいは考え方や物事の捉え方などの違いに気づくことが多い。そして、異文化の人はこちらが想像すらしないことを“当たり前”としているので、お互いに「それはおかしい」と不満を募らせることが多くなる。

S(制度的要因)の複雑性

 組織の制度や構造が複雑になることや制度が異なることによっても、協働の難易度は増す。
例えばグローバル組織では、組織をより効果的に機能させるためにマトリックスで管理する組織(「機能」と「地域や国」という2つの指示命令系統で管理される組織)にするケースが多い。しかし、「機能」と「地域や国」のそれぞれの上司が存在し、それぞれの指示命令系統が存在することにより、より複雑性が増し、組織づくりがさらに難しくなるケースを、我々は数多く見てきた。
 ある日本メーカーのマーケティング本部長は「各地域の担当を集めても、マーケティングのトップである自分より各国のトップの方に目が向いているので、チームビルディングが難しい」と語っていた。
 一方、興味深いのは、欧米企業ではその逆の話もときどき耳にすることだ。
 つまり、各国のトップの方が軽んじられるのだという。社員にとって各国のトップは点線のレポーティングラインで、機能ごとのリージョン(地域)、または本社の上司が実線のレポーティングラインになっているからだ。
 どちらにしても、制度の複雑性によって、グローバル組織運営の難しさがもたらされていることは間違いないようだ。

P(物理的要因)の複雑性

 物理的な要因、すなわち、場所・時間・技術などが世界各地に分散することも協働を難しくする。
 グローバル組織ではメンバーの活動場所は1カ所ではないどころか、場合によっては数カ国に分かれてしまうこともある。この場合、時差もあるため、コミュニケーションをとることが一段と難しくなる。また単に時差という意味だけではなく、変革のペース、スキル習得や認識合わせに必要な時間、意思決定のスピードに対する各人の時間感覚(ここにはCの複雑性も絡む)なども異なる。さらには、活用できるテクノロジーやインフラが異なることによって、メンバーに相当なストレスや負担が生じることも少なくない。テレビ会議やウェブ会議での参加に疎外感を抱いたり、特に新興国で回線事情などにより会議が途切れがちだったりと、なかなか円滑なチームワークが構築できないことに悩む人は多いだろう。
 こうしてCSPの複雑性で考えてみると、たとえば「メンバー間のコミュニケーションがうまくいかない」という課題についても、より具体的な側面が見えてくるようにならないだろうか。生活習慣や価値観の違いがあるから、同じ会社であっても国によって組織の構造が異なっているから、あるいはバーチャルミーティングが夜遅くに行われるためにモチベーションが上がらないから......。あるいはこれらの要因がいくつか重なっている、といったように。
 まさにこれらは、先述したようにグローバルに組織運営するには払うべき「グローバル化の代償」と言えるものだが、いずれにしても実像が見えてくれば、対策は立てやすくなる。こうした課題は、CSPで紐解くことによって解決の糸口を見出せるようになるのだ。
 このようにCSPの複雑性で紐解くと、グローバル組織運営の難しさの実態とともに、うまく機能させるための組織開発の道筋が見えてくるようになる。

国際提携、成否のカギを握るものは?

 よく見聞きすることをもとにして創作したケースではあるが、実際、海外パートナーとチームを組んで協働を始めたはよいが、このようなことが起きる事例は枚挙に暇がない。新しいチームがスタートしたときには、お互いの“共通点”に目が向いて、明るい将来像を描くのだが、共同作業が進むにつれて“相違点”がぶつかり合うようになり、これを克服する難しさを実感する。早くプロジェクトや業務を軌道に乗せなければ、と思えば思うほど、お互いに外国人である相手が理解不可能に見えてくる。希望から一転して失望や停滞のムードと化してしまうのである。
 国際提携の成否は、まさにこうした葛藤の時期をいかに乗り切り、チームづくりができるかにかかっているといっても過言ではない。