Web版 組織開発ハンドブック

グローバル組織開発

組織のグローバル化の発展段階

アドラー氏による組織の4つの発展段階「国内(での活動のみの)企業」「国際企業」「多国籍企業」「グローバル企業」について述べる。

組織のグローバル化の4つの段階

組織がグローバル化していく過程には発展段階がある。異文化経営の権威であるN.アドラー氏のモデルを借りて、組織のグローバル化の発展段階を考察してみよう。アドラー氏は、企業の国際化の段階を4つに分けている。
1 国内(での活動のみの)企業
2 国際企業
3 多国籍企業
4 グローバル企業

グローバル化の発展段階1:国内(での活動のみの)企業

最初の段階が「国内(での活動のみの)企業」である。販売も製造も、国内しか視野に入れていない。

グローバル化の発展段階2:国際企業

 次の第2段階が、輸出や海外生産を行うようになった「国際企業」だ。この段階でも事業の中心は日本にあり、組織の要職は日本人が独占している。

グローバル化の発展段階3:多国籍企業

 さらに国際化が進むと、海外拠点の現地化が進み、現地の組織運営や経営は現地の社員に任されるようになる。この第3段階は「多国籍企業」と呼ばれる。この段階で初めて、「現地社員にもっと会社としての方向性や企業文化なるものを理解してもらおう」、あるいは「優秀な現地社員は要職に登用していこう」といった動きが高まる。
 現在、日本企業のほとんどは、組織のグローバル化の発展が第2段階で止まっている。第3段階まで進んでいると自負する、あるいは周囲からそう見られている企業でも、第3段階の活動を効果的に行えず、実質的に第2段階止まりという日本企業を多く目にするというのが実感だ。
組織のグローバル化が第3段階まで進んでいるかどうかは、実際に組織で働いている現地の人たちが、自組織をどれだけ魅力的に感じているかで測ることができる。
 たとえばアジア各国での企業の人気ランキングを見ても、トップ100社に日本企業はわずか数社がランクインしているだけだ。これは、自身が働く場、活躍できる場としての魅力が薄いと映っているということだ。製品や商品はどんなに世界を席巻しているとしても、自身が属する組織として考えたときには、残念ながら日本企業はまだまだ世界の水準にはほど遠いと認識せざるを得ない。

グローバル化の発展段階4:グローバル企業

 一方、他国の企業では、第4段階にまで進んでいるところは少なくない。第4段階でようやく「グローバル企業」と呼ばれるようになり、“グローバル最適な”調達、開発、製造、販売活動が模索される。“グローバル最適”とは、最も安価なA国で必要な原材料を調達し、優秀でクリエイティブなエンジニアが多いB国で設計・開発した製品を、コスト的にも品質的にも最適な生産が可能なC国でつくり、D国の消費者の嗜好性に微調整して販売するといった施策をとるということだ。そこでは、“グローバル最適な”ビジネス活動が円滑に行われるように、組織の方も“グローバル最適”を追求するようになる。あらゆる機能で、国を越えてチームが形成され、国を越えて必要な活動が行われるようになるのだ。
 多くの日本企業にとって、組織のグローバル化を第4段階まで進めることは、大いなるチャレンジだ。その難しさは、我々が耳にした、日本を代表するある企業のトップの次のような嘆きからも読み取れるだろう。
「我が社では、人や組織をなぜ“グローバル最適”にできないのか。製造や販売や調達においては、“グローバル最適”にしてきただろう。世界で最も効率がよい場所に工場をつくってきたし、世界で最もコストと品質のバランスのよいところから部品も調達してきたはずだ。世界中から伸長する市場を探して積極的に進出し、販路も世界に拓いてきた。それなのに、こと人や組織となると、なぜ“グローバル最適”が実現できないのか。どうしてグローバル最適を目指そうという発想すら出てこないのか。人にしても、そのポジションに適した世界で最も優秀な人を、日本人かどうかにかかわらず採用・登用するという発想が必要ではないか。同時に、組織も、どこの国の人材であってもどこにいても、世界中の社員が魅力に感じ、世界中の優秀な社員を惹きつける組織運営が必要だ。単にこれまで日本で行ってきた組織運営をそのまま海外でも行うのでは、うまくいかないはずだ」

グローバル化を一足飛びに進める企業の出現

 また今日的な課題も露見してきた。伝統的に「企業の国際化は段階的に進展する」と論じられてきたが、昨今の状況はそうとばかりはいえなくなったのだ。例を挙げれば、インターネット販売を行う会社は、言葉の問題はあるにせよ、最初から海外の顧客に相対している。あるいは、まだ十分な国際化の経験を積んでいない事業会社において、グループ戦略の一環として海外のパートナーと組むという決定がいきなり下される場合もある。
 このように、現在のような情報化社会では、企業の国際化は段階的に進展するとは限らない。組織のグローバル化が一足飛びに進むこともある。楽天や、ユニクロを展開するファーストリテイリングのように、一気に第3段階や第4段階のグローバル化を実現しようとする日本企業も出てきた。グローバル化に出遅れたと考える企業は、これからの巻き返しに向けて、最初から第4段階の実現を目指すのも1つの手である。しかし、それならなおのこと、組織のグローバル化に目を向けなければならない。