Web版 組織開発ハンドブック

組織開発

2018ATDカンファレンスレポート(その2)

2018年開催のATD(Association for Talent Development)-ICE(International Conference & Exposition)のタレントディベロップメントの潮流について、キーワードをご紹介しながら考察する。

デジタル・トランスフォーメーション

 デジタル・トランスフォーメーション(Digital transformation)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる。(by ウィキペディア)
 このデジタル・トランスフォーメーションの流れは無視できない勢いでタレント開発の分野にも影響を与えていることを、ATDチェアのTara Deakin氏が基調講演前のスピーチで述べていた。
 特にAIの進化は目を見張るものがあり、何百万もの仕事が自動化されロボットが行う時代がすぐにやってくる。実際に仕事を失う人や、失うことへの恐怖を感じる方も数多く出てくるだろう。だからこそタレント・ディベロップメントに関わる私たちがAI時代における仕事の再定義、タレント開発やキャリア開発の見直しを行う必要があることが強調されていた。
 AIが得意な分野、人が得意な分野を整理しAIとの共存、共栄を目指していくことになるように思いました。特にテクノロジーに関しては従来のE-Learningやマイクロラーニングといった学習方法に関する内容は存在していましたが、仕事観や働き方にまでATDスタッフが踏み込んで言及したのは今回が初めてだと思います。

今後のタレント・ディベロップメントの流れに大きな変化が起きるものと感じました。

リスキル・アップスキル

 上述した通り、デジタル・トランスフォーメーションによって従来人が身につけるスキルにも変化が生じる。
 リスキル(Reskill)は、新しい技術を身につける、時代のニーズに合うよう再教育するといった意味合いで用いられていたように思う。デジタル・トランスフォーメーションが進む中、そのテクノロジーを活用するために新たなスキルの習得も必要になってくる。
 また、同時に人にしかできない、あるいはまだ人の方が得意な分野でのスキル習得やスキル向上(Upskill)が益々重要になってきている。問題はデジタル・トランスフォーメーシに対応するための予算取りを始めている企業は67%もある中、そのための教育を考えて投資計画を立てている企業はわずか3%に過ぎないということだ。
 人生100年時代、職業人生も60年~70年と言われていることを考慮すると、社員達が変化に対応しながら学び続ける仕組みづくりへの企業としての取り組みの必要性を感じる。

マイクロラーニング

 リスキル・アップスキルの習得、変化に対応した形で迅速に開発、提供できる教育の仕組み、ミレニアル世代と言われる層に合った教育方法。こういったニーズが高まる中でフォーカスが高まっているのがマイクロラーニングだ。
 マイクロラーニングの定義は色々とあるが、一般的には小さく区切られたコンテンツを、短時間(1分~5分ほど)で学習する手法のことだ。マイクロラーニングは主にスマホなどのモバイル機器を使って行う。よってどこからでも、いつでも、またニーズに合った内容を自分に合った方法で手軽に学べる利点がある。
 従来の学習は、ある程度の分量を持った範囲を、それなりの時間を掛けて学習していたが、マイクロラーニングではその時必要なテーマを、短時間で学ぶことができる。今回のATDでも自社で簡単にビデオ撮影しコンテンツ開発をする方法や自社開発を行うときの考え方を1枚の紙にまとめたフローの紹介等がなされていた。
 つまりベンダーに依頼し、多くの時間やコストをかけてしまっては変化に対応することが難しい。いかに簡単にコストをかけず、ニーズに合った形で開発したりメンテナンスできるかがカギになる。そのためのヒントになるようなセッションも多く見られた。

ウェルビーイング:Well-Being

 Well-Beingを促進する具体的な事例として、マインドフルネスを職場に導入した企業事例もいくつか紹介されていた。マインドフルネスとは今この瞬間の自分の体験に注意を向けて、現実をあるがままに受け入れること(ウィキペディアより)。
 つまりデジタル社会で脳は疲れ果ててしまっており、機能低下、生産性低下を招いている。その脳に対してデトックス効果があり、私生活においても職場においても生産性等の向上が期待されるとして最近注目が集まってきているのがこの手法なのだ。
 あるセッションでは韓国LGグループのサーブワン社の事例が紹介されていた。マネージャー以上を対象に2日間のプログラムを実施したところ職場の生産性の向上、離職率の低下、病欠の減少、健康診断結果の改善、ストレスレベルの改善等が顕著に現れたとの紹介があった。また、このプログラムに参加したマネージャーの9割以上が研修参加後も自宅で実践しているとの報告もあった。
 人は元来健康で心豊かに生きたいと誰しもが願っており、それをサポートするプログラムであるがゆえに、皆に受け入れられ実践されているのだ。

アンコンシャスバイアス:Unconscious Bias

 これほど「アンコンシャスバイアス」という言葉を聞いたことがないというほど、今回のATDでは頻繁にこの言葉を耳にした。
 背景にあるのは、グーグルがパフォーマンスの高い組織に見られる特徴で紹介したことで一気に脚光を浴びた“心理的安全:Psychological Safety”だ。アンコンシャスバイアス、日本語に訳せば、“無意識に生ずる思考の偏り”といったところだろうか。つまり無意識のうちにこの認知バイアスをかけてしまい、その結果相手のことを正しく理解できなくなってしまっている。そのことが人間関係やチームの関係性に悪影響を及ぼしているということだ。
 まずはそのことに早く気づくこと、そしてどんな場面で自分はアンコンシャスバイアスにかかりやすいかのトリガーを理解し、対応する方法がいくつかのセッションで紹介されていた。
 ダイバーシティー、インクルージョンといったテーマへの取り組みを促進する意味でも、今後のヒューマンスキル実践のポイントとなりそうなBUZZワードのひとつだ。

グローバル化を一足飛びに進める企業の出現

 また今日的な課題も露見してきた。伝統的に「企業の国際化は段階的に進展する」と論じられてきたが、昨今の状況はそうとばかりはいえなくなったのだ。例を挙げれば、インターネット販売を行う会社は、言葉の問題はあるにせよ、最初から海外の顧客に相対している。あるいは、まだ十分な国際化の経験を積んでいない事業会社において、グループ戦略の一環として海外のパートナーと組むという決定がいきなり下される場合もある。
 このように、現在のような情報化社会では、企業の国際化は段階的に進展するとは限らない。組織のグローバル化が一足飛びに進むこともある。楽天や、ユニクロを展開するファーストリテイリングのように、一気に第3段階や第4段階のグローバル化を実現しようとする日本企業も出てきた。グローバル化に出遅れたと考える企業は、これからの巻き返しに向けて、最初から第4段階の実現を目指すのも1つの手である。しかし、それならなおのこと、組織のグローバル化に目を向けなければならない。