Web版 組織開発ハンドブック

組織開発

組織開発とは

2018年開催のATD(Association for Talent Development)-ICE(International Conference & Exposition)のタレントディベロップメントの潮流について、キーワードをご紹介しながら考察する。

組織開発とは何か?

 組織開発とは、一言でいうと「組織を強固かつ健全にする」取り組みです。
 「健全な組織」では、社員が活き活きと前向きな気持ちで仕事に取り組み、活発で前向きな議論が職場のあちこちで繰り広げられ、階層や部署を超えて互いに支え合っています。そして、それぞれの努力が噛み合い、相乗効果を生み、組織が強くなっていくのです。「健全さ」は、組織が「強固である」ために欠かせない要素であり、組織開発はこの状態を実現することを目的としています。
 この記事では、「組織開発とは何か?」「組織改革との違い」「組織開発に必要な5つの要素」等について、ご紹介します。

組織開発に関わるふたつの問い

 まずは、組織開発に関わる以下の質問に答えてみてください。
 問1)あなたの会社は変わる必要があると思いますか?
 問2)あなたの会社は良い方向に変わっていますか?
この記事を読まれている方であれば、問1に対して、「はい」と答えることでしょう。あなたの会社の同僚や上司、あるいは社長に聞いても答えは同じはずです。
 では、問2はどうでしょう?「いいえ」と答えた人も多いのではないでしょうか?
 ここで、重大な問題が浮上します。
 「自社が変わる必要がある」と思っている人が多いのに、「自社は良い方向に変わっていない」
 この問題を掘り下げるために、さらに以下の質問に答えてみてください。
問3)あなたは、自分の会社を変えることができるでしょうか?
問4)あなたの会社が変化をすることの障害となっていることは何でしょうか?
 ある大手メーカーで行った調査では、自分の会社は変わる必要があると考えている人が8割いた(問1)のに対し、自分が会社を変えるためにできることがあると思っている人(問3)は3割にも届きませんでした。

なにが変化の障害になっているのか?

 問4「自分の会社が変化をすることの障害となっていること」については、いろいろ原因を思いつきますね。
・頭の固い上司
・現場を知らない経営陣
・忠誠心の薄い若手社員
・コミュニケーションが足りない管理職
・コミュニケーションを避ける一般社員
・自部署のことしか考えない部署の存在
など、きりがありませんが、ここで問3と問4に対する答えをひとまとめに言うと、こういうことではないでしょうか?
 「私は精一杯努力しているのに、他の人のせいで会社はうまく回らない。だから私に会社は変えられない」。

 ここに問題の根源があります。皆が努力しているのに、なぜうまくいかないのか。それは、それぞれの努力の歯車が噛み合っていないからなのです。
 組織開発は、まさにその歯車をかみ合わせ、効果的に働かせるための取り組みなのです。

組織開発と組織改革の違い

 「組織開発の目指すものはわかった。しかし、組織改革や企業変革といったことはこれまでも取り組んできたので、正直こういう言葉は聞き飽きた」という方もいるかもしれません。
しかし、「組織開発」は、「組織改革」や「企業変革」とは異なるものです。以下に「改革」を例にとってご説明しましょう。
 改革には、「改革者」が存在します。既存の組織に問題があれば、改革者がそれをいったん壊してつくり変える。事業再編、リストラ、制度改変などがその典型例になります。外科的処方箋ともいえます。患者を手術台にくくりつけ執刀するのは医師=改革者なのです。
 一方、「組織開発」には執刀医=スーパーマンのような改革者はいません。主役は、組織に属する人々の1人ひとりです。経営者、管理職、一般社員のすべてが主人公になり、自分たちのもてる力を十二分に発揮させ、協働の成果があげられるような組織風土づくりを目指していきます。組織に属する人の「動機」「価値観」「創意」や「人と人とのかかわり合い」に焦点を当てながら、環境変化に適応できる体質を作っていくのです。

組織開発の目指す、強固さと健全さの好循環

 組織開発の定義について、冒頭、「組織が健全であることが、組織を強くする鍵」とご説明しました、しかし、現実には、「健全さ」を犠牲に組織を強くしようとすることが、よく見受けられます。「強固さ」と「健全さ」を同時に成り立たせることに矛盾を感じる読者もいるかもしれません。
 たとえば、組織を強くするためには、トップが明確な方向性を打ち出し、現場の抵抗に怯むことなく迅速に施策を実行することが欠かせません。
 一方、組織を健全にするためには、社員の納得感を醸成すべく、現場の意見を吸い上げ、権限を委譲し、働く個人の創意工夫を支援することが求められます。

組織の健全さと強固さは両立できる

 では、健全さと強固さは相反するものなのでしょうか?一
 いいえ、違います。
 優れた企業は例外なく強固さと健全さを両立させています。つまり、この2つの概念を相反する軸ではなく、発展・成長のための組織開発サイクルとして考えることが必要なのです。時的に組織を強くする(=業績を上げる)ために健全さを犠牲にする方法が手っ取り早かったとしても、継続的に勝ち続けるためには健全な組織でなくてはならないのです。

組織開発の5大要素 1)チーム

 チームについて、コンサルタントのカッツェンバックは、
「ある特定の目的のために、多様な人材が集まり、協働を通じて、相乗効果を生み出す少人数の集合体」
と定義しています。
 現在のような環境下で高い成果を出していくには、多様な人材が、スピーディーで豊富かつ質の高いコミュニケーションを図り、それをつむいでいく必要性があります。中央集権型の体制でこれを行うことは極めて難しいので、大きな集団ではなく、もっと小回りのきく小規模な「チーム」で組織を運営することが欠かせません。

例えば、
・経営陣はマネジメント「チーム」。
・部門もそれぞれがひとつの「チーム」。
・部門の壁を超えた、様々なプロジェクト「チーム」。
これらの集合体が組織であるというように考えて行きます。
 最大の成果を上げる「チーム」を効果的に機能させるには3つの要素を満たしていく必要があります。
(1)明確な目標・方針
メンバー全員がチームの目標や方針を同じ目線で捉えている状態。さらに、目標に到達したゴールの具体的なイメージまで共有されれば、メンバーのエネルギー・レベルも一層、高まる。
(2)共有されているプロセス
「物事をどのように進めているのか」を共有し、実行への納得感を高めていく。進め方が共通化されることで作業効率も上がる。
(3)ダイナミックな人間関係
それぞれのメンバーの特性を十分理解し、その多様性を認め合い、活かし合える環境を作ることが重要。

組織開発の5大要素 2)ダイバーシティ

 ダイバーシティとは、社員一人ひとりが持つ様々な違い(性別・国籍・年齢・学歴や職歴等)を受け入れ、それぞれを価値として活かすことで企業の競争力に活かそうという考え方で、組織開発に欠かせない視点のひとつです。
 世界的な優良企業では、ダイバーシティへの取り組みを、「経営戦略の一部」として位置づけ、変化の激しい多様な顧客に対する対応力を高めるべく、ダイバーシティを「企業の競争力の源泉」として捉えています。
 一方、国内の多くの企業では、「女性管理職比率を3割に増やす」「新卒女性の割合を5割にする」などといった数値目標を設定し、それを達成することだけをダイバーシティ推進活動としているところも少なくありません。しかし、これは本来のダイバーシティ推進の意味を取り違えた考え方です。ダイバーシティが本来目指すところは「様々な違いを受け入れ、それを価値として活かす」ことであり、単に数を増やしても「企業競争力の源泉」には到底およばないのです。
 また「ダイバーシティ推進」と聞くと、「うちの部署には女性や外国人はいないので、関係ない」といった声もよく出ますが、ダイバーシティにはもっと広い意味があります。組織の中には、世代の差・中途採用者と永続勤務者・合併企業の2つの企業文化差・雇用形態などといった様々な多様性が存在しています。
 組織開発を効果的に行うためには、多様性が生み出す人々の考え方や価値観の違いを経営に活かし、ダイバーシティはすべてのビジネスパーソンに関わりがある課題であることを社内に浸透させていく必要があります。

組織開発の5大要素 3)バリューズ

 組織開発に欠かせない3つ目の要素が「バリューズ」です。
 どんな組織にも必ず「その組織固有の価値観(バリューズ)」が複数存在します。また、社員一人ひとりも必ず「個人の価値観(バリューズ)」を持っています。「組織の価値観」は、社員一人ひとりの「個人の価値観」と深く関わりあいながら、社員の行動や組織の方向性に大きな影響を及ぼしていきます。
 組織開発のためには、バリューズの存在に気づき、バリューズを明確化し、個々人のバリューズとベクトルを合わせていくことが、欠かせません。
 これまでは、組織の価値観に関する取組みといえば、「どのような文言で表現するか」「どのような価値観を打ち出すか」あるいは「いかに社員に組織の価値観を覚えさせるか」といったことばかりに主眼がおかれてきました。
 しかし、まずやらなくてはいけないことは、社員一人ひとりが自らの価値観を明確にすること。なぜならば、「組織の価値観が、自分の価値観に合致している、あるいは関連している」と認識して初めて真の意味で価値観の浸透が可能になるからです。
 価値観の共有(Shared Value)とは、「社員に価値観を与える」のではなく、「社員ひとりひとりの価値観を引き出し、組織の価値観と結びつける」こと。社員自身の価値観が引き出され、社員自身が組織の価値観と結びつけることを行い、そして、社員自身それを再び自分の中にしまうことで、バリューズははじめて浸透し、組織開発の目指す「健全で強固な組織」が実現されていくのです。

組織開発の5大要素 4)チェンジ

 チェンジには「変える」「変わる」二つの意味がありますが、組織開発においては
 ・ 与えられるものではなく、自ら変化するもの
 ・ 表面的な変化ではなく、内面的で本質的な部分の変化
として「変わる」の意味で使っています。

 組織開発においては、「変わる」ためには内発的で時間のかかる取組みが必要です。ここで、変化を意識的に起こし、変わるための意識や活動や状態を継続するようサポートする「チェンジマネジメント」の概念が登場します。
 チェンジマネジメントは、組織開発の取組みそのものと言っても過言ではありません。
 ここで、数多くの「チェンジ」の取り組みがはまってしまう“落とし穴”を、紹介しておきましょう。これらの落とし穴を予め意識し、これらに留意して進めることが、まさにチェンジマネジメントといえます。
落とし穴1: プロジェクトの目的や成果イメージが不明確なままスタートする。
落とし穴2: 既存のプロジェクトや取り組みとの関連性が曖昧で、社内が混乱する。
落とし穴3: 手法が企業変革を可能にするという思い込みが強い。
落とし穴4: 上層部や担当者のリーダーシップが欠如している。
落とし穴5: 手法を実施すること自体が目的になり、「やりっぱなし」に終わる。

組織開発の5大要素 5)リーダーシップ

 組織開発の取り組みを成功させるためには、経営層やマネージャー層だけではなく、社内のあらゆる人々がリーダーシップを発揮する必要があります。リーダーシップについては百家争鳴ですので、ここでは組織開発のリーディングカンパニーであるピープルフォーカス・コンサルティングの考え方を簡単にご紹介します。
 リーダーにはさまざまな「スキル」が要求され、それはリーダーにとって強力な武器になりますが、一方でスキルは「道具」に過ぎないともいえます。そもそも、リーダーシップは「思い」「信念」「価値観」の上に立脚してこそ、発揮されるものであり、リーダーシップを考えるということは自分の生き様を問うことであるといっても過言ではないのです。
 しかし、「リーダーは育てられない。天性の資質だ」ということでは決してありません。「思い」「信念」「価値観」といったものは、熱心に探求することではじめて明らかになり、さらに強めていくことができるからです。そして、リーダーは、常に謙虚に自分自身の言動を振り返り(客観視)、自分の心の動きを顧みる(内省化)ことで、自分を磨き続けることが求められます。
 もちろん「思い」がひとりよがりだったり、「価値観」が時代遅れだったりしては、人はついてきてはくれない。今の時代に必要とされているのは「ファシリテーティブなリーダーシップ」です。
不透明な未来、課題の複雑化、メンバーやそのモチベーションの多様化など、現代の状況がファシリテーティブなリーダーの出現を後押ししてきました。ファシリテーティブなリーダーは、個々のメンバーを尊重し、自立を促し、チームの力を信じるといった「思い」を持っています。組織開発を効果的に進めるために欠かせない存在なのです。