Web版 組織開発ハンドブック

ソーシャル組織開発

サステナビリティ・リーダーをどう育成するか

PFCが、「事業を通じてグローバル社会課題解決に貢献するリーダー」の育成に取り組み始めて10年以上経つ。当初は、そうしたリーダー育成の意義と必要性を訴求してもあまり多くの人に響かなかったものだが、2015年の国連でのSDGs採択、資本市場で急増するESG投資、世間で高まる企業の社会貢献への要請など、10年間の中で波が次々と押し寄せ、今や企業において重要な経営テーマとなった。

2020年末には、サステナビリティ経営に秀でるリーダー(CEO)に関して、国連グローバルコンパクト(UNGC)とラッセル・レイノルズ社が共同で行った研究の報告書が発行された。その結果は、この10年間、自分が考えてきた幾つかのことを具体的に検証しているような内容で、大変興味深いものだった。

自分が考えてきたことのひとつに、リーダー育成に際して、どういう人をターゲットすべきかということがある。
「事業を通じてグローバル社会課題解決に貢献するリーダー」に求められる資質としては「社会課題解決への強い関心と情熱」ならびに「事業センス(事業を構想し実行する力)」の2つがある。自明の理かもしれないが、現実に両方を兼ね備えた人材はなかなかいない。

従って、リーダー育成にあたっては、「社会課題解決への強い関心と情熱を持つ人材に事業センスを身に付けさせる」か、「事業センスのある人材に社会課題解決への関心と情熱を持たせる」か、どちらが早道かということになる。もちろん必ずしも二者択一ではないだろうが、PFCとしては後者に焦点を当ててきた。事業について学ぶ必要性は今に始まったことではないし、ビジネスリーダーとして活躍していた人が、何かをきっかけとして「社会課題解決への強い関心と情熱」を持ち始めるという実例を自分はいくつか見てきたからだ。

冒頭に紹介したUNGC/ラッセル・レイノルズの報告書は、傑出した世界のサステナビリティ・リーダー55名を対象にインタビュー調査を行っている。名だたる企業のCEOに上り詰めた55名なので、彼らは元々高い事業センスを有していたと想定してよいだろう。その彼らが、社会課題解決に取り組む理由を語ってもらうと、概ね次の3タイプに分類されたという。
 ・The Born Believers(生まれながらにしての信者)45%
 ・The Convinced(納得した人)43%
 ・The Awoken(目覚めた人)12%
「The Born Believers」とは、子供のころから社会課題解決に取り組むことへの情熱を持っている人と定義されているので、元来から先の2つの資質を有していたといえよう。「The Convinced」は仕事をしていく中で社会課題解決への取組みの必要性を理解するようになった人、「The Awoken」はキャリアの中で何かの経験をきっかけに気付きを得た人であり、この2種は元々ビジネスリーダーとして活躍していた人が後から社会課題解決に対するマインドセットを身に付けたことになる。
そして、この報告書は「サステナビリティ・リーダーは育成することができる。そしてその数をもっと増やすことができる」と結んでいる。

この結果は、期せずしてPFCが2010年に世に送り出した「GIAリーダー・プログラム」の有効性を示している。
PFCのフラッグシップ・プログラムであるGIAリーダー・プログラムはビジネスピープルをターゲットし、日本国内での座学と、途上国現地での体験を組み合わせたものだ。前半の社会課題解決の必要性を学ぶ座学は「The Convinced」人材の育成につながり、後半の途上国での壮絶な現場体験は「The Awoken」人材の育成につながる。

ところで、事業センスとひと言でいっても、通常の事業に求められるセンス(あるいは能力)と、SDGsのようなサステナブルなビジネスに求められるものは同じではない。
UNGC/ラッセル・レイノルズの報告書では、サステナビリティ・リーダーには次の4つの特性が必要とされている。
・Multilevel Systems Thinking(多層的なシステム思考)
・Stakeholder Inclusion(ステークホルダーの包摂)
・Disruptive Innovation(破壊的イノベーション)
・Long-Term Activation(長期的な活動)
通常の事業センスとはやや異なることが見てとれる。

PFCでも、社会問題解決に通ずる事業を行うにあたって特に必要となるスキルについて研究を重ね、従来のビジネススキルと対比しながら下記のように特定するに至った。そして、GIAリーダー・プログラムや、クライアント先でのリーダー育成プログラムにこれらの内容を織り込んでいる。

UNGC/ラッセル・レイノルズの報告書が提案する4つの資質とかなり合致している。ここでも、改めてPFCの取組みの方向性に確信が持てた。

2020年は、コロナ禍で、GIAリーダー・プログラムの肝である、途上国を訪問した際の衝撃的な体験ができなくなってしまった。しかし、PFCの担当者たちの頑張りで、それに近い体験をオンラインで再現するプログラムを創り上げ、実施することができた。困難に直面しても、社会課題解決に貢献する情熱に支えられ、工夫や努力を重ねていく。まさにPFCのメンバーらがサステナブル・リーダーシップを発揮した証だと感慨深く思う。

出所:『Leadership for The Decade of Action』(United Nations Global Compact/Russel Reynolds Associates)