Web版 組織開発ハンドブック

ソーシャル組織開発

貴社の真のSDGs貢献度が暴かれる日

SDGsに対する取組みへの評価の動き

『日本企業が真にSDGsに貢献するために―表層的な貢献表明は大きなリスクとなる』という記事をDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに投稿してから1年半ほど経った。この記事はCSVコンサルティングを専門とするFSGのリシ・アガワル氏との共著によるもので、日本企業のSDGsへの関わり方を憂慮して書いたものだった。当時、ピープルフォーカス・コンサルティング(以下PFC)が調べたところ、日本の売上トップ100社のうち9割はSDGsへのコミットメントを公式に表明していたが、その多くは、単に自社の事業をカテゴリー的にSDGsの17の目標に紐づけて分類しているに過ぎなかったのだ。

SDGsの目標年度である2030年に向けて折り返し地点が見えてきた今、各社の取組みの進捗について評価する動きが世界で起きている。これまでも、たとえばNGOのCDPによる気候変動対策の企業ランキングなど、分野毎にその道の専門団体が企業の取組みの評価を行うことは多方面で行われてきたが、SDGs全般に係る評価に本格的に取り掛かったのが、 World Benchmark Alliance (以下WBA)である。

WBAは2018年に創設され、世界中の数多くの有力NGOやいくつかの欧米企業と組んでおり、ガバナンスチームは、国連財団のトップ、先述のFSGのトップのマイケル・クレーマー氏らが含まれる他、議長を務めるのは元IIRC(国際統合報告書評議会)のトップなどそうそうたる顔ぶれである。その狙いは、SDGsに影響力のある2000社を選び出し、各社のSDGsの取組みを数年かけて評価していくというものだ。

WBAが選出したSDGsに影響力のある2000社と日本企業

2000社の中には187社の日本企業が含まれる。(WBAは日本企業188社としているが、PFCが精査したところ、日本企業ではない企業が1社カウントされていたので、187社としている。)187社には、トヨタ自動車やNTTなど日本を代表する企業が含まれているが、中堅クラスの企業も入っており、一見すると違和感を覚えなくはない。恐らく、単に企業規模で選出するのではなく、あくまでも「SDGsへの影響度」という観点で選ぶとこういうリストになるということなのであろう。選出された日本企業を一覧できるよう リスト(PDF)にした。

7つの領域から企業を評価~日本企業の評価は?

WBAのベンチマーク指標は、次の7つの領域からなる。
 Social(社会)
 Agriculture and Food(農業・食)
 Decarbonization and Energy (脱炭素・エネルギー)
 Circular (循環)
 Digital (デジタル)
 Urban (都市)
 Financial System (金融システム)
業種によって評価対象となる領域は異なってくるのだが、Social (社会)については全業種・全企業が評価対象となる。さらにSocial(社会)の領域の中でも人権問題への対処が重視されている。SDGsには、大前提となる「Leave no one behind(誰一人とり残さない)」という方針があるからだ。
自動車業界については、「人権問題への対処」に関する評価が完了しており、結果が公表されている。業界平均スコアが11.9%であり、日本の自動車メーカー各社の結果はその近辺だ。「平均と変わらないからよいか」と安堵している場合ではない。WBAは自動車業界の人権への取組みが全く不十分だと糾弾しており、最上位のフォードは41.5%なのだから、奮起しなければならない。

自動車以外の業界についての人権問題への取り組みの評価はまだ調査中のようだが、一部の企業に対する部分的な結果が公開されている。ここでも日本企業のスコアが低めという傾向が見てとれるが、唯一、輝きを放っているのがファーストリテイリングだ。26点中19.5点で、アパレル業界での平均スコア9.0/26を大きく上回り、業界4位にランクインした。(トップはアディダスの23点。)

SDGsへの真の貢献には人権問題への対処が不可欠

日本企業のスコアが低いのはなぜか。英語による情報開示が進んでいないという言語による壁があるのかもしれないが、投資家や顧客が海外にもいるのであれば、情報開示が不十分であること自体が問題で、言い訳にはならない。また、日本において一般的にも人権問題への認識が低いことも起因しているかもしれない。
人権問題を考慮せずに安易にSDGs貢献を謳うことの問題は何か。たとえば、個人向け室内ランニングマシンを製造・販売している会社が、「我が社の製品は健康増進に寄与しているから」とSDGs目標3をやっているのだと標榜したとする。しかし、この製品を誰がどのように使うのかを想像してみると、マシンを置くことができるような広い家に住む人が、雨の日やテレビを見ながら走りたいときなどに使っている姿が浮かんでくる。すると、富裕層の健康寿命は延びるかもしれないが、健康の格差を広げることにつながる可能性がある。さらに、もし、このマシンの製造委託が、どこかの途上国の劣悪な労働環境で行われていたとしたなら、労働者の健康を損なうことに加担していることになる。「SDGs目標3に貢献している」などとはとてもいえない状況だ。目標3への貢献を謳うのであれば、誰も取り残されないようAccess to Health(ヘルスケアへの公正なアクセス)の課題に取り組んだり、自社のサプライチェーンを辿って労働者の人権保護を担保したりしなければならない。

WBAのようなSDGsに対する取組みの外部評価の動きはこれから加速していくことであろう。SDGsそのものではないが、似たような話として、人工知能を使って「見せかけのESG」を暴き出すプラットフォームが立ち上がっていると聞いた〔参照:AIが暴き出す「見せかけのESG」:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)〕。もはや「SDGsをやっているフリ」は通用しなくなる。WBAは2000社全ての評価を2023年までに完了させることを目指しているそうである。それまでに、今一度、自社のSDGsの取組みが本当にSDGsの狙いと精神に相応しいものか見直してはどうか。