コラム

2026.07.01(水) コラム

■【記事】サステナビリティ経営時代のDEI③——「ビジネスの力で社会を変える」~人事は「社会変革の設計者」になれる

DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)は、経営戦略の根幹でありながら、今なお「社内の人事施策」と受け止められがちです。しかし、企業を取り巻くステークホルダーの広がりを考えると、DEIは本来、企業が社会に働きかける戦略的な変革手段でもあります。

とりわけ、多くの企業が取り組む「女性リーダー研修」は、女性管理職比率を高めるための育成施策であると同時に、ジェンダー平等や意思決定の質といった社会的課題に直接つながる取り組みです。

「サステナビリティ経営時代のDEI」最終回では、PFCが『これからの善い企業の条件―ビジネスの力で社会を変えるBコープ経営への挑戦』で紹介した「女性リーダー研修の社会的インパクトモデル(ソーシャルインパクトモデル/ToC)」を基に、「社内研修が、どのように社会を変えていくのか」をご紹介します。


研修は「やったかどうか」ではなく、「何が変わるか」で設計する

社会的インパクトを捉えるために有効なのが、ToC(セオリー・オブ・チェンジ)やロジックモデルです。これらは、

  • 何を投入し(インプット)
  • 何を行い(アクティビティ)
  • どんな直接的な結果が生まれ(アウトプット)
  • どんな短期・中期・長期の変化(アウトカム)が起きるのか

を因果の連鎖として整理するフレームワークです。

女性リーダー研修も、「研修を実施した」というアウトプットで止めてしまえば、単なる教育施策に終わります。しかし、その先に、どんな行動変化や構造変化が起き、社会とどう接続するのかまで描くと、DEIが“社会を変える取り組み”になります。


Changeその1  個人の変化:キャリア意欲とリーダーシップの起動

女性リーダー研修が最初に生み出すのは、受講者本人の変化です。

  • リーダーシップスキルの向上
  • 「自分にはめざすべき次のステージがある」というキャリア意欲の高まり

ここは、多くの人事施策が狙う王道の成果でしょう。しかし、社会変革において重視すべきは、その意欲が個人の内面に留まらず、行動として外に現れ始める点です。

家庭に起きる、最初の社会的インパクト

昇進や挑戦への意欲が明確になると、受講者の多くは家庭内で対話を始めることでしょう。

  • 「この役割に挑戦したい」
  • 「仕事を続ける前提で、家庭をどう支え合うか」

その結果、パートナーや家族の意識と行動が変わり、家事・育児の分担がより平等に近づくことが期待できます。

企業が家庭に直接介入することはできません。しかし、女性のキャリア意欲を後押しする研修が、家庭という社会の最小単位コミュニティのジェンダー平等を推進できることを、人事や人材開発は過小評価するべきではありません。


Changeその2 組織の変化:昇進が「賃金構造」を動かす

次に期待できるのは、組織内での構造的な変化です。研修を通じて育成された女性が昇進することで、企業は次のような変化を期待しています。

  • 管理職層におけるジェンダーバランスの改善
  • 意思決定の質と多様性の向上

そして見落とされがちですが、社会変革の観点で決定的に重要なアウトカムが、ジェンダー賃金格差の縮小です。

多くの企業において、賃金格差の主因は、昇進・登用の偏りです。女性が管理職・意思決定層にアクセスできるようになることは、評価や昇給の機会配分そのものを変え、賃金構造を内側から是正していきます

女性リーダー研修は、「意識改革」だけでなく、賃金という極めて現実的な指標に波及する経営施策であることを忘れてはなりません。


Changeその3  組織風土の変化:女性だけを育てても社会は変わらない

重要なのは、研修が女性当事者だけで完結しない点です。

  • 管理職向けのDEI・育成スキル研修
  • 全社員向けのアンコンシャス・バイアス研修
  • 育成・選抜・評価制度の見直し

これらが同時に動くことで初めて、「個人の努力」が「組織の当たり前」に変換されます。 実際、女性リーダー研修の卒業生が、職場の議論や全社対話会のファシリテーターとして活躍し、組織の意思決定や成長機会のバランスを変えていく事例が多々生まれています。女性を育てる研修は、職場を育てる装置でもある。この認識を持てるかどうかが、DEIを一過性の施策で終わらせない鍵でもあります。


Changeその4 地域社会への波及:リーダーシップは職場で止まらない

女性リーダー研修で身についた力は、職場の外にも自然に持ち出されます。

  • PTAや学校運営
  • 地域活動やボランティア
  • コミュニティ組織の運営

こうした場で、話し合いを前に進め、意見を束ね、対立を調整する役割を担う女性たちが現れます。結果として、企業は次のようなインパクトを得ます。

  • 地域コミュニティへの影響力の拡大
  • 「あの会社の人は、地域でも活躍している」という評判
  • 雇用の場としてのブランド価値の向上

これは、宣伝広告とは全く質の異なる、盤石なレピュテーションの構築です。


Changeその5 経営者の語りが、社会を動かし始める

最後に、インパクトは経営者コミュニティへと広がります。女性リーダー研修の成果を、経営者自らが語ることで、

  • 他社の経営者への啓発
  • 業界内での学習と模倣
  • 自社の経営姿勢そのものの評価向上

が促進されます。

制度ではなく、実際に起きた変化のストーリーとして語られるDEIは、経営者コミュニティに最も強く響きます。女性リーダー研修は、企業の内側から、社会の意思決定層に変化を促す装置になりうるのです。


終わりに:人事は「社会変革の設計者」になれる

女性リーダー研修は、個人 → 家庭 → 組織 → 地域 → 経営者社会へと、静かながら堅実な変化の連鎖を生み出します。

当然ながら人事・人材開発の仕事は、もはや「研修を回すこと」ではありません。どんな変化を社会に手渡すのかを設計することです。人事がこのような視点を持つと、DEIは義務でも流行語でもなく、企業がビジネスの力で社会を変えるための、現実的な戦略になります。何よりも、DEIは企画側にも参加側にも、やりがいと夢のある活動に変換されます。


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山田 奈緒子(やまだなおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役
グローバルな人事戦略構築の課題に直面する日本企業へのソリューション提案における第一人者。
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