コラム

2026.04.27(月) コラム

■【記事】サステナビリティ経営時代のDEI①——「選択肢」ではなく「前提条件」へ。継続的な組織開発としてDEIに向き合うべき理由

DEIが収益を押し上げる「成長レバー」に

DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)は、いまや多くの企業で経営戦略や理念体系の中核に据えられています。背景にあるのは、価値観の変化だけではありません。DEIは収益を押し上げる「成長レバー」であり、企業の持続可能性を測る明確な経営指標として定着しつつあります。

マッキンゼーの『Diversity Matters Even More 2023/24』によれば、経営陣の多様性が上位25%の企業は、下位25%の企業と比べて収益性が39%高いとされています。これは日本企業を含むグローバル分析であり、DEIと企業パフォーマンスの関係性は、もはや「理想論」ではありません。

投資家の視線は一段と厳しくなっています。DEIは倫理的な取り組みではなく、「サステナビリティ経営を実践しているかどうか」の試金石として評価されています。金融庁・東京証券取引所のガバナンス・コードによる女性役員登用の要請、女性役員がゼロの企業に対する取締役選任議案への反対推奨――いずれも象徴的な動きです。さらに、2026年3月期以降は人的資本開示が一段と詳細化され、DEIの進捗が株価や資金調達コストに与える影響は、確実に大きくなっていきます。

しかし、重要なのは外圧への対応だけではありません。企業の内側からDEIを「継続的な組織開発」として取り組まなければ、組織が立ち行かなくなりつつあります。うわべだけのDEI、いわゆる「ウォッシュ」と見なされるか、本質的な体質改善に向き合っているか。企業の姿勢そのものが、厳しく問われる時代に入りました。

なぜいま、DEIが大前提の「組織開発テーマ」になったのか

DEIが単発施策ではなく、組織開発の中核として再定義されているのには、日本企業が直面する構造的課題があります。大きく4つあります。

  1. 加速する人材不足
  2. 倫理・コンプライアンスをめぐるリスク
  3. イノベーションを阻む組織の硬直化
  4. サステナビリティを重視する次世代人材の台頭

これらは別々の課題のように見えて、実はすべて「組織のあり方」に行き着きます。
自社では、DEIを「施策の束」ではなく、「維持すべき組織風土」として捉えているでしょうか。

課題1 人材不足は「採用」の問題ではない 
― 異質人財を活かせない組織は淘汰される

帝国データバンクの2024〜2025年調査によると、日本企業の50%以上が正社員不足を感じています。特にIT、建設、物流といった分野では、すでに人材不足が事業継続リスクと直結しています。少子高齢化で生産年齢人口が急減する中、従来と同じ採用基準、同じ「人材像」に固執すること自体がリスクになっています。国籍、年齢、性別、キャリア背景を問わず、多様な属性の人材――いわば「異質人財」を受け入れ、戦力化できるかどうか。その差が、数年後の競争力を左右します。

問われているのは採用数ではありません。異なる価値観や働き方を持つ人が加わったとき、現場での摩擦を学習に変えられるか。そのための組織体制や風土が整っているかどうかです。DEIは、人材不足時代における「組織の基礎体力」といえます。異なる前提を持つ人材が入社したとき、現場が「本人の努力」に頼らずに力を引き出すことができるかどうか、職場の組織風土が問われるのです。

課題2 最大の経営リスクは「空気」かもしれない
― 集団浅慮を生む同質性の罠

過去の不正会計や品質偽装を振り返ると、取締役会や意思決定層の多様性欠如が背景にあったケースは少なくありません。日本証券経済研究所なども、同質的な意思決定構造が「チェックの欠如」や「判断の遅れ」を招いたと指摘しています。

日本企業に根づく「忖度」や「阿吽の呼吸」は、平常時には円滑さとして機能します。しかし非常時には、不都合な事実を覆い隠し、大きなリスクを増幅させます。多様な立場の人が意思決定層にいることは、そのリスクを下げる最も有効な手段です。異なる視点があるからこそ、「違和感」を言語化でき、健全な批判が組織文化として根づきます。

組織の中で「その前提、少し違うのでは」と言える空気、すなわち心理的安全性は、意図的につくられているでしょうか。組織風土づくりのための教育や啓発のあり方が問われています。

課題3 イノベーションは「制度」ではなく「対話」から生まれる
― 内向きの正解を壊せるか

BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の調査によると、経営チームの多様性が高い企業ほど、革新的な製品・サービスから得られるイノベーション収益が19%高いとされています。同質性の高い組織は、短期的には効率的です。しかしその分、過去の成功体験が固定化され、「これまでの正解」から抜け出しにくくなります。

DEIを、この内向き志向を打破する装置として位置づけることが重要です。異なる経験や価値観がぶつかる場では、衝突も生じます。その摩擦を避けるのではなく、学習に変換する能力――建設的に話し合う力こそが、アウト・オブ・ボックスな発想を生み出します。
自社の会議や研修は、「意見が揃うこと」より「前提が揺さぶられること」を歓迎しているでしょうか。管理職やリーダー層にはより高度なファシリテーションスキルが求められるのです。

課題4 若手はDEIを「見抜いている」
― 選ばれる企業の条件が変わった

デロイトの2025年調査では、Z世代の約70%が就職先選びで企業の多様性への姿勢を重視するとされています。重要なのは、理念として掲げているかどうかではありません。実態が伴っているかどうかが、非常にシビアに見られているという点です。DEIが形だけだと感じれば、内定辞退という判断も珍しくありません。2025〜2026年の採用市場では、DEIの欠如は採用に「不利」ではなく、「選択肢から外れる」ことを意味します。

心理的安全性が確保され、個性が尊重される環境かどうか。それが、次世代人材にとっての最重要判断軸です。若手社員が自社のDEIを語るとき、経営メッセージではなく「日常の経験」を根拠に語れる状態になっているかどうかが問われています。

DEIは「一度だけの施策」では終わらない

PFC創業以来30年、DEIは常に私たちの組織開発の中心的テーマでした。ただ、令和に入り、戦略的重要性をもってDEI組織開発を継続しなければ「組織風土にならない」という事実が、明確につきつけられたと感じます。

単発研修や制度整備だけでは、かえって文化的リスクを高めます。一方で、組織開発として粘り強く取り組めば、DEIは組織のレジリエンスやイノベーションを底上げし、真のサステナビリティ経営企業としての組織風土の礎となります。

次回「サステナビリティ経営時代のDEI②」では、今回整理した4つのニーズ別に、PFCが考える「DEI組織開発のキモ」を、具体的に紹介していきます。


山田 奈緒子(やまだなおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役
グローバルな人事戦略構築の課題に直面する日本企業へのソリューション提案における第一人者。
プロフィールはこちら