コラム
2026.07.27(月) コラム
■【記事】ファシリテーションが日本に広まって30年、「令和のファシリテーションスキル」とは何か
ファシリテーションの実践は「まだまだ」
PFCは約30年前の創業時より、日本でいち早くファシリテーション研修の提供を開始するとともに、『ファシリテーター型リーダーの時代』(フラン・リース著・黒田由貴子訳、プレジデント社、2002年)を出版するなど、企業人事やビジネスリーダーの啓発に努めてきました。ファシリテーションという言葉は企業社会に広く浸透し、「いま管理職が強化すべきスキルはファシリテーションだ」と号令をかける企業経営者やCHROの姿も珍しくなくなりました。
ファシリテーションの能力が高い組織は、社員のエンゲージメントが高く、職場風土が活性化し、問題解決やイノベーションが促進されます。原点は職場の「話し合いの質」にあります。日本企業の「話し合いの質」は上がったのでしょうか。
PFCがクライアント支援を通じて感じるのは、「まだまだ」という感触です。残念ですが、30年間ファシリテーションの普及に真剣に取り組んできた弊社、そして企業で組織開発に取り組んできた方々が、真摯に振り返るべきことかもしれません。
経営会議でも、話し合は難しい

PFCではM&Aやファンドによる買収・再生案件のご相談をうけることが多く、経営チームの話し合いをサポートする案件も少なくありません。そこで目の当たりにするのが、「経営会議がなかなかうまくいかない」という現実です。
失敗パターンはおおよそ3つに分かれます。
①伝統的大企業がいまだ抜け出せない「発言最小限パターン」
経営企画室が用意したアジェンダを粛々とこなしていく経営会議。経営幹部からの発言は必要最小限で、「経営者としてこの会社をどうするか」という目線での議論がなかなか生まれてきません。
②ベンチャー・再生企業にみられる「群雄割拠パターン」
数々の組織で修羅場をくぐってきた強者たちが集まった経営チームにみられるパターンです。全員がエネルギッシュに発言する、経営会議のあるべき姿です。ただ、飛び交う意見に論点が目まぐるしく動き、いつの間にか部門ヘッド間の利害対立の場になってしまいがちです。ファシリテーターは不在、ファシリテーター目線の参加者もいない状態です
③ 伝統的大企業が直面しがちな「イノベーション停滞パターン」
既存の枠組みの中で「分かりきった答え」に収まってしまい、創造的な議論がなかなか生まれません。ダイバーシティ推進を進めているものの未だ経営層の多様性は低いため、「現状のメンバーで枠を超えた議論をする力」を上げることが急務になっています。
3つのパターンに共通して言えるのが、ファシリテーションの高い知識を持ちながら、共通の論点を意識しながらファシリテーター目線で発言できていないということです。ファシリテーションの知識が実践に活かされていないのです。
管理職層も、成熟度はまだ「レベル0〜2」
では管理職層はどうでしょうか。昇格者研修やリーダーシップ研修を担当する弊社コンサルタントの実感では、管理職がリードする職場の話し合いの成熟度はおおよそ次のような段階に分布しています。
レベル0:意見がそもそも出ない
管理職がファシリテートしても、一般社員からの発言がほとんど出てこない状態です。
レベル1:意見はそこそこ出るが、プロセス設計がなされていない
会議の目的設定がなく、会議のアジェンダが存在しない状況です。「何のためにこの話し合いをするのか」「どのように話し合いを進めると成果が出せるか」という設計の発想自体がない。
レベル2:話し合いはできるが、対立マネジメントが発展途上
外資系企業などに見られがちなパターンです。活発な議論はあるけれど、チームとして新たな着想を生みだすための健全な対立まで至っておらず、話し合いが対立のまま終わってしまうのです。問題解決のフローに沿った深掘り、ゴールに向けて、プロス・アンド・コンス(メリットとデメリット)の検討まで至ることができません。
プロコンに至りません。
レベル3を実現するために必要なこと
これらを超えて、ファシリテーションを活かしてイノベーティブな課題解決に臨んでいる状態が、めざすべきレベル3です。しかし、残念ながらこの段階に達している組織は、あまり目にすることがありません。ではどうすれば、レベル3の組織を実現することができるのでしょうか。
当然必要となるのは各人のファシリテーションスキルの向上です。よく議論される理由は次のようなものです。
・人事評価にファシリテーション力が組み込まれていないため、スキルを磨くインセンティブが生まれにくい。
・「会議は儀式」という前提や、根回し・事前合意の組織風土がなかなか変わらない。
・ファシリテーション研修がツールや型を教えることに終始し、対立・沈黙・脱線といったリアルな難しい場面を体験する設計になっていない。
こうした要因は、もちろんあります。しかし、令和特有の事情として、キャリア自律の推進に伴う学習スタイルの変化を無視することはできません。
令和の時代に必要なファシリテーションスキル学習とは?
スキルの学び方が、ここ数年で大きく変わりました。キャリア自律推進に立脚し、社員一人ひとりが主体的に学ぶことが推奨され、eラーニングが普及し、定着しました。これ自体はたいへん良い変化です。
ただし、ここに見落とされがちな副作用があります。ファシリテーション等いわゆるソフトスキルまでもが、動画で「頭で理解する」学習に置き換わってしまっている点です。知識としてのインプットは増えても、それを実際に使う「練習の場」が伴わなければ、できるようにはなりません。
PFCのファシリテーションスキル研修でも、「練習する場がない」と話す受講生が少なくありません。以前であれば、職場の雑談や対面のちょっとしたやり取りの中で、論点を整理し、人を巻き込み、場をまとめるという経験を自然と積める機会がそこここにありました。それが、リモート中心の働き方の中で、開催すべき会議や維持すべきコミュニティが厳選され、物理的に減っているのです。
eラーニングで「知る」機会は増えた。しかし「練習する」機会は減っている。この二つが同時に進んでいることが、「分かる」と「できる」の溝をさらに広げているのが実情です。
ではこれらの溝を埋め、レベル3のファシリテーションを実現するために必要なことは何でしょうか。
「論点設計」こそが即興力・共感力の源泉
組織開発ファシリテーターを20年務めてきた私自身、ロジックにさほど強い自信があるわけではありません。だからこそ、ファシリテーターとして社内外の現場に立つとき、必ずやることがあります。それは、徹底的な論点の準備です。
「この場で何を、何に答えるのか」という論点を、事前に緻密に想像しておく。参加者からどんな意見が飛んできても、それがどの論点に属するのかが分かる、だから「さばける」。だから共感しながら即興できる。そんな状態を目指して、あれやこれやと参加者の顔を思い浮かべながら、幅広く論点に考えを巡らせます。
次回は「直感」「共感」より先に「ロジック」を鍛えよ というテーマで、令和のファシリテーションスキルの本丸に踏み込んでいきます。(本丸!戦国時代か!)
ファシリテーション研修(若手から管理職まで)
発言を引き出し、合意を生み出す「ファシリテーター型リーダー」の育成とは | PFC

山田 奈緒子(やまだなおこ)
ピープルフォーカス・コンサルティング
取締役
グローバルな人事戦略構築の課題に直面する日本企業へのソリューション提案における第一人者。
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