コラム
2026.10.28(水) コラム
■【記事】アンコンシャス・バイアス教育、eラーニングで終わらせていませんか

皆さんの会社では「アンコンシャス・バイアス」研修をすでに実施されましたでしょうか。この数年で言葉はすっかり定着し、多くの企業が全社員向けのeラーニングで教育を一通り実施しています。しかし、アンコンシャス・バイアスは、eラーニングだけでは改善できません。本稿では「研修をやった後」に焦点を当てながら、なぜ職場が変わらないのか、何をすれば変わるのかを、PFCがこれまで発信してきた知見と実際の企業の事例をもとに整理しました。
eラーニングではアンコンシャス・バイアスはなくならない
ここ数年で、多くの企業がアンコンシャス・バイアス研修を導入しました。中でも多いのが、全社員向けのeラーニングです。一斉に展開でき、受講の記録も残る。人事としては、限られた予算と時間の中で「まずはeラーニングで全員に」と考えるのは自然なことです。「無意識の偏見」という言葉も、社内で普通に使われるようになりました。
一方で、ハーバード・ビジネス・レビューに「アンコンシャス・バイアス研修はなぜ機能しないのか」※という論考が掲載されるなど、効果に疑問を投げかける声もあります。「受講率は上がったのに、職場の様子は以前と変わらない」という状況に、心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
知識を広げること自体には意味があります。問題は、eラーニングを実施したことで「対策は済んだ」と考えてしまうことです。とりあえずeラーニングでアンコンシャス・バイアス教育をした、という状態のままでは、かけた投資のわりに職場風土は変わりません。
※フランチェスカ・ジーノ、キャサリン・コフマン(2021)「アンコンシャスバイアス研修はなぜ機能しないのか」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2021年12月号、pp.80–93、ダイヤモンド社
「無意識」だから、一人で学んでも気づけない
eラーニングだけでは足りない理由は、アンコンシャス・バイアスが文字どおり「無意識」だからです。人間の脳は、膨大な情報を無意識のうちに処理しています。だからこそ、バイアスは誰にでもあり、本人には見えません。画面の前で一人で学んでいると、多くの人は事例を「よくある話だ」「自分には当てはまらない」と受け止め、他人事として聞いてしまいます。知識を得たことで、かえって「自分はもう大丈夫」と安心してしまうこともあるのです。
しかも、バイアスはしばしば善意の形で現れます。「子育て中だから、出張は外しておこう」「残業が続く案件は、別のメンバーに任せよう」。上司としては配慮のつもりでも、本人は「チャンスを奪われた」と感じているかもしれません。自分の言動が誰かの機会を奪っていても、加害している側は気づけないのです。
では、何が気づきのきっかけになるのか。それは、マイノリティである同僚や部下が実際に何を体験し、どう感じてきたのかを、本人の口から聞くことです。そして、「今の言い方、少し気になりました」というフィードバックを、身近な人から直接受け取ることです。一般論の事例ではなく、自分の職場の、自分が関わった場面だからこそ、人は初めて「自分のことだ」と受け止められます。
人事のプロ40名でも、見落としていたもの
以前、製造、金融、小売、運輸、サービス業などで、ダイバーシティを推進する立場の方々を対象に、対話を中心としたアンコンシャス・バイアスのパイロット研修を行ったときのことです。
ある外資系企業の人事トップは、「子育て中の女性への配慮はしてきたが、子育て中の男性社員への配慮が自分の中で抜け落ちていた」と話されました。今後は男性社員にも同じように配慮したい、とのコメントがありました。日頃からダイバーシティに向き合っている人でも、他者との対話がなければ、自分のバイアスには気づきにくいことがわかります。
参加者から寄せられた職場のバイアス事例は87件ありました。最も多かったのはジェンダーに関するもので、年齢では若手とシニアに対する思い込みが目立ちました。一方、障がいに関するものは2件、性的マイノリティに関するものは0件でした。
0件だったのは、問題がないからではありません。まだ見えていない、あるいは語られていないということかもしれません。当事者の声が届かない限り、バイアスは「ないもの」とされてしまいます。
少数派の声を聴いたとき、職場で何が起きたか:村田機械様の事例

この「当事者の声を聴く」ことに正面から取り組んだのが、村田機械株式会社・繊維機械事業部です。売上の大半が海外という同事業部では、事業部長の「少数派の声を聴こう」という方針のもと、アンコンシャス・バイアス教育による風土改革に取り組みました。
オンラインでの個人学習と、職場のバイアス事例を集めるアンケートの後、管理職約30名と全女性社員約70名が参加するワークショップを2回に分けて実施しました。当初は女性社員だけで行う案もありましたが、管理職と女性社員が同じ場で話す形を選びました。管理職は参加者として傾聴に徹し、小グループの対話は同社の女性リーダー研修の卒業生15名が進行しました。
対話の中では、中途入社の男性社員はすぐに海外出張に行くのに、入社1年目の女性社員は顧客も知らないまま営業に出ているといった実態が語られました。上司はすぐ近くにいても、その声は届いていませんでした。参加した管理職からは、若手女性の発言に衝撃を受けた、女性社員が言いたいことを言えない状況は想定以上だった、という声が挙がっています。
象徴的だったのは、アンケートで一部の管理職が「自職場にはアンコンシャス・バイアスはない」と回答していたことです。一人で考えているかぎり、バイアスは見えません。女性社員の本音は、当事者の声を聴く場がなければ、そのまま見過ごされていたかもしれません。ワークショップの結果、事業部として改善すべき6つの領域が特定され、女性リーダー研修の卒業生がまとめた改善提案は、事業部の経営層に提出されました。推進リーダーは、管理職が自分事として風土を変える必要性に気づいたことが大きかったと振り返っています。
事例の詳細はこちら
「たった1%」が、組織の上層を変える
「それくらいのことで目くじらを立てなくても」と思う方もいるでしょう。一つひとつの発言や判断は、確かに小さなものです。しかし、小さなものだからこそ見過ごされ、積み重なっていきます。
組織心理学の分野に、この積み重ねの影響を示したシミュレーション研究があります。男女半々で始まった組織で、男性の評価にわずか1%の上乗せが続いたとします。すると、昇進を重ねるうちに差が広がり、最上位層の女性比率は35%まで下がるという結果が示されました。
1%は、個々の評価の場面では誰も気づかないほどの差です。評価者本人も、偏った評価をしたとは思っていないでしょう。eラーニングを済ませて安心しているあいだにも、こうした偏りは昇進のたびに繰り返され、組織の上層の姿を変えていきます。
女性管理職比率などの数値目標に取り組む企業は多いですが、その土台にある日々の小さな判断に目を向けない限り、数字だけを動かすのは難しいでしょう。小さな偏りも、積み重なれば構造になるのです。
だから、「職場単位」で取り組む
PFCのアンコンシャス・バイアス研修は、全社一斉の講義ではなく、職場単位で行っています。動画による学習はあくまで「入口」と位置づけ、気づきの本番は職場での対話に置いています。
- 事前に動画(約45分)で基礎知識を学び、職場のダイバーシティへの影響を考えたうえで、自分の職場のバイアスに関するアンケートに回答します。
- 職場長がファシリテーターとなり、約1時間の職場セッションを行います。まず職場長が、目指す職場像をメンバーと共有します。
- アンケート結果をもとに職場の課題を特定し、具体的な発言例やその影響、要因を話し合います。最後に、「フィードバックし合うための約束事」を決めます。
アンケートで集めた職場の実例をもとに話し合うので、一般論ではなく「自分たちの職場のこと」として向き合えます。研修モニターでは、研修の成否が職場長の力量に左右されるという課題も見えました。そこで、ファシリテーション・マニュアルを改良し、具体的な対処策を加えています。専門家でなくても、職場長が進行できる設計です。必要に応じて、管理職向けの心構えの研修やインクルーシブ・リーダーシップ研修と組み合わせることも有効です。
対面・オンラインのどちらにも対応し、村田機械の事例のように、参加者の構成や進行役など、御社の状況に合わせたカスタマイズも可能です。
▼ 研修について
▼ 事例
【事例紹介】DEIを堅実に推進するとはどういうことか?~村田機械株式会社・繊維機械事業部様
▼ 対話の前に、まず基礎を押さえたい方へ
多様性を活かす職場風土のためのアンコンシャス・バイアス講座(講師:PFC取締役 山田奈緒子)
前編(32分):注目される理由、バイアスの科学、バイアス・エクササイズ
後編(9分):職場の多様性とバイアス、多様性が活きる職場になるために
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