コラム

2014.06.01(日) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 34:勝利のチーム・マネジメント 勝利のチームマネジメント

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第34回 勝利のチームマネジメント ~本を書いた成果と意味~

この度、このブログが本になることは前回述べたが、本日(6月2日)いよいよ発売だ。
タイトルは、『勝利のチームマネジメント~サッカー日本代表監督から学ぶ組織開発・人材開発』に決まった。

「絶対にW杯の前には出す」という版元の強い意向で、スケジュール的には大変な思いをしたが、W杯に間に合って本当によかった。(これで心置きなく、W杯に集中できる。)

執筆自体は慣れない仕事なので大変ではあったが、その過程では様々な出会いがあり、私自身にとってはそうした出会いを得られたことも重要な成果で、そのおかげでとてもエキサイティングな日々を過ごすことができた。

まず、岡田武史元日本代表監督とお会いすることができた。ずっと尊敬してきた人に会って話ができたというだけで私は嬉しかったが、興味深い話をご本人から色々と伺えたことは本当に有意義だった。最近関心を持たれている領域(資本主義のあり方など)についてざっくばらんに意見交換ができたことも、とても刺激になった。

ザッケローニ監督の通訳の矢野大輔君とも知り合うことができた。彼が日本に来たときには一緒にサッカーをするようになったが、次に来たときには(つまりW杯後)「日本のW杯での活躍の祝杯をあげさせてほしい」と予め約束させてもらった。

先日ザッケローニ監督のメンバー発表があった直後には、スポーツ新聞の社会部の方から電話があり、「サッカーの組織論の専門家として、ザッケローニ監督の人選をどう思うか」とコメントが求められた。新聞に載ったコメントは大したことを言っていないので気恥ずかしかったが、これからサッカーと組織について見解が求められることがあれば、いつでも示唆を提供できるよう、常に視点を研ぎ澄ましておかねばという気持ちを強くした。

こうしたたくさんの新たな出会いや副産物も、本を書くことで生まれた重要な成果だと思っているが、より大切なのは、本を書いた「意味」だ。なぜ、サッカー日本代表チームと組織開発を結びつけて発信しているのかということを、あらためて確認しておきたい。

もちろん、組織開発という言葉自体に馴染みがない人が多いので、多くの人が興味を持つ(そして私自身が大変に興味を持っている)、底辺の広いサッカーを題材に語っていけば、組織開発を分かり易く伝えることができると思ったのがきっかけで始めた。

そして何より、日本代表チームは、自分が所属している職場のチームと同じだと思ってほしいという一心で書いた。日本代表チームが強くなるために行われたこと/行われていることは、何ら、自分達のチームがより強くなるために行うことと変わりないのだ。

日本代表チームもたった23人+スタッフのチームにすぎず、また、日本サッカー協会を含めても数百人の人間の集まりの組織にすぎない。その組織がより強固に健全になっていくことしか、日本代表をチームとして強くしていく方法はないのだ。たまたま日本代表チームは世間から注目を集める存在だから特別に見えるかもしれないが、こうしたチームの積み重ねで企業は成り立ち、そうした組織の集まりで日本社会は成り立っている。社会をより強くしていくには、我々が所属する1つ1つのチームを強固に健全にしていくしかないのだ、ということを伝えたかった。
今回のブログでは、本の「おわりに」に書いたこと(の一部)を紹介しよう。

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こうして書いてきたものを振り返ってみると、日本代表チームが強くなった過程には、チームの組織開発の発展の歴史があるのだとつくづく思う。
「組織開発」という言葉は、聞き慣れないだろう。少し解説する。
組織〝改革〟と比較して語られる言葉だ。組織〝改革〟は、目に見えるものを対象とした、部外者を通じて行う、「変える」という行為だ。改革プロジェクトやコンサルタントを通じて、組織の体制を変え、制度や仕組みを作りあげていくものだ。
一方、組織〝開発〟は、目に見えないものを対象として、内発的な力を働かせながら、「変わる」という日々のプロセスだ。
具体的には、チームビルディング、ビジョンの描写、価値観の共有、異文化との融合、コミュニケーションの徹底、リーダーシップの発揮、といったことを積み重ねることだ。それによって、一人ひとりに意識や行動、そして組織の文化や雰囲気が変わっていくことを目的とするものだ。
この本では、サッカーの歴代日本代表監督のチームマネジメントについて論じてきた。
ドラッカーの処女作『経済人の終わり』には、なぜドラッカーがマネジメントを発明したかが書かれてある。
彼は、〝世の中を幸せにするために〟マネジメントを発明したのだ。
ドラッカーによれば、社会は世の中を幸せにする仕組みとして、「イズム」を追求してきた。当初世の中を幸せにする仕組みとして資本主義(キャピタリズム)が席巻したが、資本家と労働者階級の対立など、不完全な仕組みであることが露呈した。従って続いて、社会主義(ソーシャリズム)が台頭した。そうしてやがて、イズムの追求は、「ファシズム」に行き着く。
この延長でいくら考えても、世の中を幸せにする仕組みには行き着かないとドラッカーは考えた。彼は、社会全体を幸せにする仕組みなどない、社会を成立させているのは、結局のところ、10人20人という単位の集合体であって、この単位それぞれを幸せにできてはじめて社会を幸せにできるのだと考えたのだ。このドラッカーの慧眼が、イズムの延長にはない、マネジメントという考え方を発明した。
マネジメントとは、自分の身の回りの10人20人の(数百人~数万人に至ることもあるが)「組織」や「チーム」が、より効率的に生産的に動き、より効果的に仕事を行うことができ、属するひとりひとりが大いにやりがいを感じながら日々働く、ということができるようにすることだ。どの組織の単位もがこうした運営ができれば、属する人々は幸せになっていく。逆に、これ以外の方法では人々を幸せにはできないと考えたのだ。
私が多くの会社でお手伝いしている組織開発というのは、まさに、一つひとつの組織を幸せにしていくことだと考えている。一つひとつの組織の組織開発を積み重ねていくことが、世の中全体を幸せにしていくことに通じると信じている。
だから、世の中の多くの人が注目するサッカー日本代表チームから、歴代の監督を通じて行われてきた組織開発を見出すことは、大いなる社会貢献に通ずると考えてきた。
そのことを最後に伝えて、ペンをおきたい。

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 33:勝利のチーム・マネジメント サッ カー監督から学ぶ企業が伸びる組織開発
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 35:ブラジルW杯での日本代表の敗戦経験を振り返る