コラム

2014.05.01(木) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 33:勝利のチーム・マネジメント サッ カー監督から学ぶ企業が伸びる組織開発

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第33回 勝利のチーム・マネジメント サッ カー監督から学ぶ企業が伸びる組織開発

この度、このブログが本になることになった。

正確には、このブログを元に新たに書き下ろしたものだ。タイトルは、「勝利のチーム・マネジメント サッカー監督から学ぶ企業が伸びる組織開発」。

今月中には出版の予定なので、来月次回号のブログで詳細を触れたいと思うが、内容は、サッカー歴代日本代表監督のチーム・マネジメントを、「オフト監督」から「ザッケローニ監督」および、なでしこの「佐々木監督」まで振り返って論じたものだ。

この20年は、日本企業と日本経済にとっては「失われた20年」と言われる。しかし、日本サッカーと日本代表にとっては、「劇的に強くなり、世界に飛躍した20年」だった。

まだ世界のトップにまでは上り詰めてはいないが、長足の成長だけを見れば世界一だという人も多いし、これだけ短期間で強くなったのは、各国のサッカーの代表を見渡しても史上類を見ないのではないかと言う外国の評論家なども少なくないようだ。

ならば、多くの日本企業が「失われた20年」を過ごす中で、世界で類を見ないほど「劇的に強くなった20年」を過ごしたチームを題材に学ばないのはあまりにももったいない。その一心でこの本を書いた。

サッカー〝の〟組織論や人材論の話をする人は多いが、サッカー〝で〟組織論や人材論を真剣に語って伝える人が1人くらいいてもいいと思ったのだ。

この本では特に、歴代のサッカー日本代表監督に焦点を当て、彼らのチーム作り、チーム運営から学んできたことについて綴った。

どのようにして日本代表はこんなにも強くなったのか。さまざまな理由があろうが、私は、「監督のチームマネジメント」がその答えの1つではないかと思っている。監督によってスタイルややり方は違えども、効果的なチーム作りをした。それぞれの監督が、その時代にあったチーム作りを行った。そして、紆余曲折はあれども、20年を一連で見れば、劇的に強くさせる方向に、バトンをつないでチーム作りも進化させてきた。

そのチーム作りの流れと、各監督からどのようなことを学べるか、ざっと概観してみる。

「オフト監督」(1992~1993)は、「チーム作り」を行った。目標を掲げ、役割分担を徹底し、人間関係を強固にした。逆に言うと、オフト以前のそれまでの日本代表は、チームではなく、日本で一番うまい人達を集めた単なる“グループ”だったように感じてしまう。チーム作りの功績があるからか、オフト監督以降、サッカーの監督業が企業の“リーダー”論に対する例え話として頻繁に用いられるようになったように感じる。

「加茂監督」(1994~1997)は、「組織」で戦う論理を導入した。“ゾーンプレス”という組織で個に対抗する戦術だ。組織サッカーを標榜した功績か、以降、一人ひとりが自立的に動き判断を重ねながらも、全体が機動的に連動する、“サッカー型”の組織が組織論に登場するようになる。しかし、皮肉なことに、組織の論理に翻弄されたという見方もできる監督だったように思う。

「岡田監督(第1次)」(1997~1998)は、自身の徹底した「思考」を武器に、チームを率いた。チームの監督経験が一度もない中で若くして監督になり、考え抜くしか方法がなかったのだろう。経験がない中でも、自分自身の頭で考え抜くという姿勢は、リーダーにとって大いに参考になるのではないか。しかし、また、リーダーの思考の力量で決まるチーム作りの限界も示した。メンバーの「指示待ち」を生んでしまうのだ。

「トルシエ監督」(1998~2002)は、「異文化」を持ち込んだ。彼は、単にサッカーをうまくなることを目指すのではなく、「日本(人)を強くする」ことを志した。日本を強くするには“タフ”さが必要で、そのためには異文化との接触が不可欠と考えた。チーム作りにおいては、徹底した“規律”を持ち込み、組織が“オートマティック”に連動することを目指した。しかし、サッカーの本質は自由にあり、世界に伍するためには以後一皮むけることが求められた。

「ジーコ監督」(2002~2006)は、「自由」にこだわった。サッカーの本質は“遊び”であり、また、世界に伍するためには、自由な中での自主性と主体性がどうしても必要と考えたようだ。しかし、指示待ちに慣れている日本人にはジーコのやり方はなかなか理解されなかった。日本代表選手たちも、大人扱いされて応えられるほど、成熟していなかったようだ。しかし、彼は、進化の方向性を与え、日本が世界のトップを目指すにはいつか到達しなければならない頂きを示したように思う。

「オシム監督」(2006~2007)は、「哲学」を導入した。哲学は、自身の人生から生まれるものであり、自分自身を見つめ直すことで磨くものだ。また、「日本サッカーを“日本化”する」と言い、海外の模倣をやめ、らしさを追求することが世界に伍することだと説いた。選手たち自身が、自分の頭で考えることを促すチーム作りを行った。

「岡田監督(第2次)」(2007~2010)は、「チーム力の最大化」を図った。一人ひとりが最大限力を発揮してこそ、チーム力は上がると考えた。そのために、チームの目標を一人ひとりに浸透させる、代表から自チームに戻ってからも変わらない意識を持ち続けさせる、チームの価値観を掲げる、等様々なチーム作りの工夫を施している。監督の指示で動くのではなく、一人ひとりがピッチで輝くチームを目指し、そして実現した。

「ザッケローニ監督」(2010~)は、「コミュニケーション」を極めている。観察し、そして対話することを重視している。シチュエーショナル(状況に応じた)・リーダーシップを発揮し、ベテランと若手とで効果的な方法を選択しコミュニケーションの仕方をかえている。そして、現代サッカー選手とはドラッカーが言うところの「知識労働者(ナレッジ・ワーカー)」なので、選手たちの緻密な思考の整理整頓を助けている。

なでしこの「佐々木監督」(2007~)は、一人ひとりを輝かせる「リーダーシップ」を発揮している。自身は一歩ひいて、一人ひとりをリーダーにするチーム作りを行っている。チームにはなでしこビジョンとなでしこらしさが掲げられ、心のあり様を導いている。

まさに我々が大いに参考にすべき、チーム作りを極めた姿が、日本サッカーを世界一にまで導いた。

サッカー日本代表チームは、日本一有名で、日本一プレッシャーのかかる、そして日本一誇り高い〝チーム〟だ。言うまでもなく日本中の(いや世界からも)注目と関心を集め、その活躍と結果が期待されている。歴代の代表監督たちが、このチームをどのように率いてきたのか、どのようにしてチームを作ってきたのか、どのようにして運営してきたのか。彼らがチームに関して、考えたこと、感じたこと、見出したことなどは、私たちビジネスパーソンが日々直面している組織運営の課題に大いに刺激と視点と知見を与えてくれるはずだ。私たちは、その成果を参考にしなければ、あまりにももったいない。そのために、組織・人材開発コンサルタントの私ができることは多いはずだと考えた。その成果となる情報は、世の中に溢れている。だから、参考になると思われる各監督の重要な考え方と思われるものやエピソードを抜き出して考察したのだ。

この本を皆さんにお届けできる日が来るのを、私も楽しみにしている。

そして、何より、もうすぐ来るW杯本番でも、日本代表チームが躍動するのを本当に楽しみにしている。

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 32:ザッケローニ監督の勝つためのコミュニケーション
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 34:勝利のチーム・マネジメント 勝利のチームマネジメント