コラム

2016.04.01(金) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 52:サッカーはNPOも国家権力も越えて、もっと世界の社会問題解決に貢献できる

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第52回 サッカーはNPOも国家権力も越えて、もっと世界の社会問題解決に貢献できる ~FIFAコンサルタント・杉原氏とFIFA紛争解決室仲裁人・山崎氏とのセッション(予告編)~

昨年末から今年にかけて、2人の“グローバルなサッカー人”との出会いがあった。2人とも現在FIFA(国際サッカー連盟)に携わっている人で、世界のサッカーの環境づくりをリードしている人と言っても過言ではないだろう。
1人は杉原海太さん。現在東京の下町に住みながら、世界に10人しかいないFIFAコンサルタントとして世界を舞台に活躍している。元日本代表キャプテンの宮本恒靖さんが留学したことで有名になったFIFAマスター(スイスにある大学院)を、10年前に卒業した。その後マレーシアに本部のあるアジアサッカー連盟での職を経て、現在は、スイスのFIFAに所属している。本部から依頼の電話がかかって来ては、世界中の各国のサッカー協会に出向き、その国のマーケティング戦略の立案や、オペレーションプロセスの効率化などの案件を引き受けているという。
ご本人によれば、33歳でFIFAマスターに留学するまで日本から一歩も出たことがなく、英語も話せなかったらしいので、典型的な日本人が目指すべきグローバルリーダーの姿としても、モデルとして大変に参考になる興味深い経歴をお持ちの方だ。

もう1人は山崎卓也さん。スポーツ関係の弁護士として活躍しており、サッカーのみならず、例えばプロ野球にも深く携わっている。日本プロ野球選手会の顧問弁護士として、元プロ野球選手の古田敦也さんや12球団の選手会長らと共に活動し、選手のサポートに奔走している。サッカーでは、現在FIFAの紛争解決室仲裁人として、世界中のサッカー選手達の権利を守り、国際的な活躍の促進を支えている。
こちらも日本で育ち日本の教育しか受けていないながら、グローバルな舞台で活躍されていることにも興味がそそられた。ご自身の経験からしても、日本人はグローバルリーダーとして大いに活躍できるという可能性を肌で感じているということだが、実際に、もっともっと日本人が特にアジアに出て行かないと、他国にいいようにルールメイクされてしまうことを憂いている。

世界のサッカーの環境づくりをリードしている人達のうちの2人と言ったが、従って、彼らの考え方がどのようであるかは、将来のサッカーの世界のあり方に大きな影響を持つはずだ。そこで、せっかく知り合ったので、彼らの問題意識や考えについて、色々と伺い意見交換する機会を持たせてもらった。その結果、大変触発されたし、意気投合もした。
このお二方の問題意識や考えを簡単にまとめると次のようになる。まずはざっと紹介したい。
・スポーツ(あるいはサッカー、以下同じ)は、本来、社会的課題解決プロデューサーとしての役割を持ち、NGOや国家権力をも超えるインパクトをもたらすことができるはず。
・スポーツの国際的価値が棄損したら売り物としてのスポーツの価値が下がるので、スポーツと社会課題とはいっそう密接になる方向にある。(例えば、サポーターが人種差別的な横断幕を掲げたチームは、無観客試合という制裁を強いられた。あるいは、オリンピックのスポンサーになった会社には、「スポンサーになって多額の貢献ができるくらいなら、買収したばかりの子会社がインドで起こした事故の賠償を先にすべき」という世論が巻き起こった、など。)
・従って、スポーツは、健康を促進するとか楽しみを人々に提供するとか、スポーツ自体で世の中に「いいことをしている」というだけでは足りなくなっているのだ。もちろん、「悪いことをしていない」という消極的な社会との関わりだけでもだめだ。「積極的に、スポーツを通じた社会問題解決で貢献をする」という姿勢が求められるようになっている。
・一方で、各スポーツ団体は資金面など団体の持続可能性といった課題にも常に直面している。「儲けなければならない」のだ。
・これまでは、ちゃんと儲けることのできるスポーツは、野球やサッカーなど、市場の大きい一部のスポーツに限られていた。他のほとんどのスポーツは、今でも「補助金に頼る」しかなく、“ビジネス”になり得ていない。
・また、野球やサッカーであっても、そのビジネスはサステイナブル(持続可能)なモデルになり得ていない。つまり、一部のエリートであるプロで稼ぐ➡お金を普及育成に回す➡次世代のスター(エリート)を生む、といった構造の循環を繰り返しているにすぎない。まだまだスポーツ界に閉じているのだ。
・しかし、スポーツはもっと社会とつながれるし、社会に貢献できるし、そのことでもっと儲けることができる可能性を大いに秘めている。スポーツ界とビジネス界によるコラボレーションによって、スポーツ団体も、地球社会も、そして企業も持続可能性を強化できるはずだ。

こうした対話を重ねていると、この議論にとても可能性を感じて、ワクワクしている。
そこで、次回の「GEI(グローバル・エンゲージメント・イニシアティブ)有志会」のゲストとして2人をお呼びし、『サッカー(スポーツ)はNPOも国家権力も越えて、もっと世界の社会問題解決に貢献できる』というテーマでセッションを持つことにした。
関心がある方は、是非GEI有志会に参加していただきたい。FIFAをはじめスポーツの世界の第一線で活躍されるお二人なので、スポーツにおける裏話も大いに期待できるはずだ。
http://www.globalcsr-pfc.com/events/

「GEI」有志会とは、地球規模の社会課題を“我がコト”化して考える有志が集まり、対話しようという試みだ。冒頭で、2人のことを“サッカー人”と称したが、正しくない。2人とも、サッカーそのものは競技としては全く未経験のようだ。あくまで、サッカーを通じて、スポーツを通じて、世界をよりよくしていこうと考えている人達だ。こうした人達とこういったテーマで意気投合できることもまた、サッカーの大きな魅力だ。

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