コラム
2017.02.01(水) コラム
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 60:「みんなちがって、みんないい」ユニファイドサッカー
【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第60回: 健常者と障がい者が一緒にプレーする“ユニファイド”サッカー
~「みんなちがって、みんないい」第1回ユニファイドサッカー大会が開催された~
昨年末、ユニファイドサッカーの第1回大会が開かれたというニュースを耳にした。
あらゆるサッカーの情報に目を光らせているつもりの私でさえ、“ユニファイド”サッカーを知らなかった。
サッカーの世界には、フルコート(11人制)、フットサル(5人制)、ソサイチ(7人制)など、たくさんの種類のサッカーが存在していて、私自身も週末には様々なカテゴリーの形態のサッカーを楽しんでいる。障がい者サッカーにも、既に、たくさんのカテゴリーが存在する。ブラインド(視覚障碍者5人制)サッカー、アンプティ(上肢下肢切断障がい者)サッカー、電動車椅子サッカー、脳性麻痺7人制サッカー、など。
しかし、この、“ユニファイド”サッカーというのは、初耳だった。ユニファイドというのは「一つになる」という意味で、健常者と知的障がい者が一緒にプレーし、喜びや悔しさを分かち合うというものだ。チームのユニフォームは全員が同じものを着用し、健常者が障がい者に対して遠慮するプレーはなく、障がいの有無を意識させられるような場面もない。参加者は16歳から60歳まで多岐にわたっていたということで、トップアスリートの技術が見られたわけではないが、それでもチーム一丸となって勝利を目指し戦うチームの姿は、多くの観客を魅了したという報道を耳にした。
日本では、“ユニファイド”スポーツの単独の全国大会はサッカーが初めてだったという。新たな世界観の地平をサッカーから切り拓こうとしていることを聞いて胸が躍った。
“ユニファイド”を「新たな世界観」と表現したのは、これまでのサッカーにはたくさんのカテゴリーがあっても、あくまでも、障がい者と健常者は“分離”するアプローチをとることが前提だったからだ。あるいは、ごく稀に一緒にプレーするスポーツがあっても、健常者は障がい者をサポートする役割だったり、健常者と障がい者を明確にルールで区別していたりしたものだ。
しかし、“ユニファイド”の考え方では、障がい者と健常者を、ダイバーシティの用語でいわゆる“統合”するアプローチをとっている。全く区別しないというのは、革命的だ。障がい者と健常者とで全く区別しないと、そこに存在するようになるのは、「ひとりひとり」だ。障がいの有無ではなくて、ひとりひとりに意識がいくようになると、障がいのある人もない人もみんな同じだということに気づいていけるはずだ。
大会の参加者のコメントを、新聞記事で見つけた。(日経新聞 2017年1月12日)
「いつもは健常者は支援をする側、障がい者は支援をされる側になりがちだった。しかし、一緒にチームを作って一つの目標に向かってスポーツをすることで、ともに感動を共有できることを改めて認識した」という。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックが目指す理念の一つが、多様性と調和だ。あらゆる個性を受け容れ、互いを認め合うという世界観をベースにしている。スポーツが、サッカーが、そんな将来の社会の実現に貢献するために、先行してモデルを示そうとしている。
翻って、我々が多くのクライアントから聞く話や受ける相談からすると、現状は、こうした考え方とは程遠いところにあるようだ。
先日も、ある人事担当者が嘆いているのを聞いた。個人的な付き合いの友人の話だから率直な本音だろうと言っていた。日本を代表するような企業の管理職の地位にある、普段は立派にリーダーシップを発揮して成果を出している人から、「困ってるんだ。自分のチームで障がい者を受け容れなければならなくなった。皆がサポートに回らなければいけなくなるから、チームの生産性もがた落ちだ。面倒なことになった。」と、まだ本人と会ってもいないうちから、とにかく障がいを持った人がチームに入るということだけで、随分とブルーになっているということだった。
この人事担当者は、「自分の企業でも、これから障がい者雇用を促進していこうとしているが、リーダー達の認識は、おそらく同じような感じだろう。」と話していた。
ちなみに、真のダイバーシティを進めようという信念を持っているこの人事担当者は、先ほどの友人には、次のように言って活を入れたと言う。「何を言っているんだ。障がい者の法定雇用率は現在2.0%だが、すぐに3.0%に引き上げになる。このリソースをどう有効に活用するかは、次世代リーダーたる者の必須アジェンダだぞ。21世紀に入って、新興国市場に出て行くときも、次世代リーダーには、その市場をどのように事業化できるかを必死こいて考え抜けることが求められた。同じように、障がい者達のリソースを活用して、どのような事業が運営できるかを必死こいて考え抜け!次世代リーダー達皆に、答えを探求することが今後必ずや求められるこうした問いに、先んじて取り組めるのはとても恵まれたことだと思え!」
“ユニファイド”サッカーが目指そうとしている世界観には、次世代リーダーが実現を目指すべき将来の社会の姿が詰まっていることを考えさせられた。
私自身、まずはサッカーで、その世界観を体感したいので、プレーできる場を探してみようと思う。関心がある方は、一緒にプレーしませんか?
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 59:故平尾誠二が語った「イメージメント」
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 61:50歳代初のプロサッカー選手であるカズ(三浦知良)選手が示す未来の社会