コラム
2017.04.03(月) コラム
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 61:50歳代初のプロサッカー選手であるカズ(三浦知良)選手が示す未来の社会
【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第61回: 50歳代初のプロサッカー選手であるカズ(三浦知良)選手が示す未来の社会~還暦で現役を目指すことは今は特別でも、30年後の社会では珍しくないかも?~
春に始まったJリーグでは、カズ(三浦知良)選手が50歳の大台の誕生日を迎え、Jリーグ初の50歳代のプロサッカー選手となった。
しかも、先日の試合ではゴールまで決め、「選手として50歳を迎えられたことは本当に幸せです。たくさんの観客に囲まれて、スタジアムに入ったら、試合前だったけれど泣きそうだった。あらためて60歳、“還暦”まで戦いたいと思いました。」と明言している。
自分と比較するのは申し訳ないが、40歳代後半でも草サッカーですら相当きついし、倍ほど年の離れた選手達はとてもじゃないが相手にならないので、プロの舞台の第一線で活躍を続けるというのは、とても我々の想像を超えた日々の自己管理の賜物なのだろう。
カズ選手がここまで続けて来て、さらに還暦を目指そうとすらできる要因は多々あるだろうが、1つだけ挙げるとすると、成長への貪欲な姿勢ということではないかと思う。実際、数年前のインタビューで「18歳の選手にどのようなことを教えたいか」という質問をされたときに、「ライバルなので、教えるより、学びたい」といった返答をしていて、驚いたことがある。このコメントで、ある企業のトップが、「うちの会社では、“出る杭”をすぐに指導・教育係にしてしまうから、そこで出る杭の成長が止まってしまう」と嘆いていたのを思い出したものだ。
そして、成長への貪欲な姿勢は、フィードバックを求め続ける姿に日々表れている。練習後にコーチをつかまえては「今日の俺、どうだった?」と意見を求めて確認するのは恒例のことだと言う。そのときのカズ選手はいつも楽しげだとも聞く。「素人に何か言われても関係ない、と思えばそれまで。何か有益になるかもと耳を傾ければ、学べるものがあるものだよ」と言っていたのを聞いたこともある。
マンネリや停滞とは対極にあるメンタリティーからは、我々も学ぶことは大きい。
カズ選手の不断の努力はとても真似できるものではないが、唯一無二ということではなく、これから選手生命の長い選手は次々に出てくるように思う。
実際に、中山ゴン選手も49歳で現役復帰を決めたし、53歳のシジマール(GKコーチ)も、選手の負傷が原因だが選手登録をしたというニュースを耳にした。
そう言えば、あるクライアント企業のワークショップで、“60歳”に関する大変興味深い議論に出くわした。
その企業の「将来」を幹部が集まって考えるというワークショップだった。
将来、誰にどのようなサービスを提供していくのかを考える前に、これまで誰にどのようなサービスを提供してきたのかを考え、そもそも対象となる顧客はどのように変遷し、今後どのように変わっていくのかのエッセンスを想像し、討議した。
この手の議論では、とかく単なる未来予測になりがちなので、将来を想像する前に過去を振り返ること、30年くらいの単位での変化を大きく捉えること、“顧客”と一括りにするのではなく年代別に分けて検討すること、といったルールを用いて討議を進めた。
60歳代にはこの企業では現在のところサービスを提供していないので、20歳代や30歳代を検討するチームよりも、盛り上がりに欠けるのではないかと思っていた。しかし、結果としては、大きく盛り上がった。60歳代が他の年代と比しても最も大きな変遷を遂げているということが分かり、そして今後大きな可能性を秘めているという共通認識が生まれた。
議論の一部を紹介すると、例えば、次のようなものだった。60年前では、60歳と言えば本当に「おじいさん」で、もういつ死んでもおかしくないようなイメージだ。30年前は、平均寿命は延びたが、定年を迎えてもう後は余生という感じだ。しかし、今の60歳はずっと若く元気で、まだ人生3分の1が残っていて、働いたり遊んだりする意欲は十分にある。そして、30年後の60歳は、今の40歳代くらいの感覚で接する必要があるかもしれないという興味深い示唆が生まれ、今後新たなサービスの提供を真剣に考えようという機運を生むきっかけとなった。
ところで、この50歳のプロサッカー選手誕生のニュースは世界中に打電された。かつてカズ選手がプレイしたイタリアでは、「おじいさん」プロサッカー選手として紹介されていた。イタリア語でどのようなニュアンスか分からないが、50歳で「おじいさん」と表現されていたことに、とても違和感を抱いた。30年後は、60歳で「おじいさん」と表現されても、違和感を抱くことになるのだろう。
カズ選手が、本当に60歳、還暦のプロサッカー選手としてピッチに立つ姿を見てみたいとも思うし、カズ選手には、何歳になってもサッカーを続けたいと願う多くの草サッカープレイヤー達の心の支えでい続けてほしい。
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 60:「みんなちがって、みんないい」ユニファイドサッカー
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 62:「奇跡のレッスン」が伝える自主性の育て方