コラム

2017.05.08(月) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 62:「奇跡のレッスン」が伝える自主性の育て方

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第62回 「奇跡のレッスン」が伝える自主性の育て方
~フットサル日本代表のミゲル監督による小学生のやる気と能力を引き出す“いいね”~

ゴールデンウィーク中、NHKBSで数年前に放送された『奇跡のレッスン「世界の最強コーチと子どもたち」-フットサル日本代表監督との1週間』の再放送があったので見た。
あるクライアントから、「人材開発に関わる人必見の、永久保存版の“神”回ですよ」と勧められていた番組だった。
実際、大変に面白かった。スペイン出身のフットサル日本代表監督(当時)のミゲル・ロドリゴ氏が、普通の日本の小学生のチームにたった1週間だけ指導するという内容だが、1日1日の指導内容はもちろんのこと、一挙手一投足に至るまで、参考になることが目白押しだった。指導者が違えばチームはこんなにも違ってくるものなのかと驚いた。子どもたちのやる気と自信をぐいぐいと自然に引っ張り出していた。それは、チームの子どもたちの親がびっくりするほどの変化だった。

初めてチームに接した初日。いつも行っている練習を見て、チームの課題を把握することから始めた彼が、まずもって指摘したことは、ひたすら教えられた「型」を繰り返すだけで、子供たちが「考えて」プレイしていないことだった。
コーチが教えることには、限界がある。ありとあらゆることを教えることは不可能だ。従って、いかに子供達が自分の頭で考えることができるようになるかが、指導や育成の目的となっていなければならない。
ミゲル氏が行ったことは、あるプレイで失敗した子供に対し、「この局面では他にどのような選択肢があったか」を考えさせることだった。そして、もう一度同じ場面に遭遇した場合にどの選択肢を選択するかを問うた。「どうすべきだった」とは一切言わない。ミゲル氏は言う。「自分で考え、自分で見つけた答えは、一生忘れない。それだけが自分のものになっていく。」
さらにミゲル氏は、次のように続けていた。「日本の指導者の多くが、ある局面で『そこはシュートではなくて、パスだろう!』と言い、別の局面では『なぜそこでシュートを打たないんだ!』と言う。子供達は、こうした大人の言葉に混乱し、どうしてよいか分からなくなっていく。そして、コーチの言う通りのことだけをフォローするようになる。自主性を失い、どんどん受け身になっていくのだ。」

ミゲル氏が母親達から相談に乗るシーンも、とても印象深かった。
例えば、チームのエースの子の母親からの相談は、「苛立ってくると、強引な個人プレイが目立つようになり、指摘すると不貞腐れる。チームのことを一番に考え、支柱にならなければならない存在なのに。どうしたら心が成長するか。」というものだった。ミゲル氏はどのようにアドバイスするのかと、私は興味津々で出てくる言葉を待った。ミゲル氏のアドバイスは意表をついたものだった。「私だったら、放っておく。」そして、「次の機会に少しでも冷静さを保てて、チームのことを考えるプレイができたときに、思いっきり“褒める”。」と言うのだ。
その子がゴールできたときには、そのプレイを褒めるとともに、仲間との絆の大切さを教えるため、「○○がボールをくれたんだよ!!」と教え、アシストした子とハイタッチさせていた。「自分の才能を周りの人のために使う“喜び”を知っていてもいい。」とミゲル氏は語っていた。
最後の試合の前には、「今日、一番頑張りたいことは何?」と聞かれ、即座にその子は、「チームワーク」と答えるようになっていた。

ミゲル氏の指導で、たった1週間で大きな変化を遂げた男の子がいた。最初は、とてもおとなしく、チャレンジを畏れる様子がクローズアップされていた。しかし、みるみる積極的に変わっていった。いつもは、「危険な状況を作るからこういうプレイをしてはいけない」と言われていた。だが、ミゲル氏からは、決して「こうするな」とは言われない。「こうプレイしたらチャンスにつながる」と声をかけられる。そしてうまくいったら一緒に大喜びする。
その日、その子の日記には、「ミゲルさんにほめられた!!」と、大きな字で記されていた。彼は、楽しみにしていた家族旅行を取りやめてまで、サッカーの練習に一人残ることを決断していた。よほど褒められて嬉しかったのだろう。「ミスを指摘するのは簡単だが、それはしない」とミゲル氏は言い、いいところを見つけて子どもたちの自信を満たしていくのだ。

しかし、このアプローチは、日本語的には決して「ほめる」と表現しない方が理解しやすいのではないだろうか。ミゲル氏の指導の様子を見ていてつくづくそう思った。
ピンポイントで、「今のプレイのそこがよかった!」それで終わり。態度はシンプルで、でも内容は極めて具体的なのだ。
「ほめる」ではなくて、「よく観察していいところを具体的に指摘する」ととらえた方が、日本語的にはぴったりくると思う。「ほめる」じゃなくて「いいね!」だ。彼が見つけた「いいね!」を、逃さずに本人に知らせるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
具体的な指摘だからこそ、技術向上にもつながっていくのだろう。そして何よりその小さなプラスの指摘の集積が、チームの子どもたちの自信につながっていた。

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