コラム

2017.06.01(木) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 63:Bリーグ(バスケットボール)を見て、あらためて感じとったサッカーの本質

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第63回 Bリーグ(バスケットボール)を見て、あらためて感じとったサッカーの本質~バスケットにはなくて、サッカーにあるものとは~

先日、Bリーグのチャンピオンシップが行われていて、私も準決勝から決勝のカードをテレビ観戦した。Bリーグとは、今年から始まった、国内のバスケットボールのリーグだ。これまでバスケットを観戦することはほとんどなかったが、バスケットならではの、息もつかせないようなスピーディな展開や、200㎝を超える選手たちのダイナミックなプレイ、ものすごく遠くからスポッとスリーポイントゴールを決める正確無比なシュートなど、魅きつけられるシーンの連続で、見ていて本当に楽しかった。
また、会場を包んだ熱気と空気は、まさに日本版のNBAと言ってよい世界観だった。ファイナルの観客はあの小さな体育館を埋め尽くし1万人を超えていたというし、シーズンを通じてBリーグ元年の観客動員は225万人を突破したという。
優勝した栃木ブレックスの主将で、日本人初のNBAプレイヤーでレジェンドとも言われる田臥勇太選手が、優勝した直後の会見で、「代々木体育館にホームのような雰囲気を作ってくれた栃木の皆さんがいなければ、優勝はなかった」と語っていたのが印象的だった。

ほんの少し前までNBLとbjリーグという複数のリーグが存在し組織がいがみ合っていて、国際制裁で五輪の予選にも出られない状況を招いていたのに、Jリーグを作った川淵さんの尽力でこうして1つのリーグにまとまった姿を見届けられたことも感慨ひとしおだった。サッカーが25年前にJリーグを始めたように、日本国内の各地が「ホームタウン」となって、“おらが町”のチームを地域が一体となって健全に応援し盛り上がり、ブースター(バスケットでは、サポーターと呼ばずにこう呼ぶ)達がチームが勝ったら一喜して泣き、負けたら一憂して泣く様子を見ていると、25年前を思いだすようだった。
ちなみに、JリーグやBリーグは、「ホームタウン」制を敷いているが、野球が敷いている「フランチャイズ」制とは似てかなり異なるものだ。フランチャイズは試合の開催などの興行活動を独占的に行うことのできる営業権、興行権の意味合いが強い。これに対してホームタウンには興行権の意味は含まれない。ホームタウンとは、直訳すれば「故郷、育った町」という意味であり、クラブチームがその地域社会と密着して活動しているという意味合いが強いものだ。Jリーグでは、ホームタウンを「クラブと地域社会が一体となって実現する、スポーツが生活に溶け込み、人々が心身の健康と生活の楽しみを享受することができる町」と定義している。
サッカーをはじめとしたスポーツのホームタウンが根付いているヨーロッパでは、「住む家や恋人は変えることが出来るが、応援するチームは変えることができない」というようなことが言われると聞いたことがある。

ところで、バスケットボールを見ていて、サッカーとはものすごく異なるとあらためて思った点が3つある。
1つ目は、時間のルールだ。
バスケットでは、プレイが止まる度に、いちいち時計も止まる。
サッカーはバスケットとは違いアウトオブプレーの時も時間は流れる。これは、アウトオブプレーで止まっているのはボールであり人は止まっていないからという理由からと聞いている。
スポーツが誕生した時期や技術も関係しているようだ。そもそも、サッカーは、ストップウオッチなど存在していないときに、「自然発生的」に生まれたものだ。一方バスケットは、ストップウオッチを前提にできる時代に、1人の創案者によって作られた「人工的」なスポーツであると言われる。
とにかく、時間に関する曖昧さを排除したのがバスケットボールだ。

2つ目は、選手交代だ。
サッカーでは選手交代は3人のみで、一度交代した選手はもう出場できない。バスケットにはそういう制限はなく、疲れた選手はベンチで休ませて、再び良いコンディションでプレイを続けることができる。
サッカーでは3人交代した後に怪我人や退場者が出ても、人数が少ないままで戦わなければならない。バスケットでは交代要員を入れることができる。バスケットには、一人減ることで一方が圧倒的に不利になっては、ゲームとしての面白味がなくなる、そういう考えが根底にあるように思う。
実はこのバスケットの仕組みは、若手育成などには適していると感じた。少しずつ経験を積ませることができる。サッカーでは若手選手に回ってくるチャンスはわずかで、そこで結果を出せるかどうか、という厳しさはより強い。

そして、3つ目は、1点の重みだ。
サッカーでは、こんなにゴールは生まれない。だから、サッカーは「なかなか点が入らないからつまらない」と言う人も少なくない。
サッカーはゴールを入れることが目的のスポーツだと思っている人は多いが、それは違う。サッカーは、ひたすらゴールを目指すスポーツと言っても過言ではない。サッカーは、なかなか点が入らないからこそ面白い。ゴールまでの過程こそがサッカーの醍醐味で、ゴールはめったにやって来ない。だからサッカーでは、点が入った時にはもう、溢れんばかりの歓喜が襲うわけだ。
ゴールが少ないということは、裏返すと試合中ミスばかりしているとも言える。サッカーはミスのスポーツと言われるゆえんだ。当然だが、バスケはボールを手で扱うスポーツだ。従って、サッカーと比べて圧倒的にミスが起きにくいと感じた。

こうして、バスケット観戦を通じてあらためてサッカーというスポーツを捉えなおすと、「リアルな世の中に、ものすごく近いなあ」と感じずにはいられなかった。
バスケットになくてサッカーで起きることは、頻繁なシュートミス、時間稼ぎ、主審の裁量(つまりミスジャッジ)、相手の体制が整う前に隙をつくリスタートプレイ、退場で人数が少ない絶対的に不利な状況、若手選手に回ってくる少ないチャンス、等等。
実際世の中は、人間がやることだからミスに溢れていて、運不運で一杯だし、決して平等ではなくて、いつも正しい評価が下されるとは限らない。しかし、何より、ゴールが目的というよりもゴールを目指すこと自体に価値があり、そして、だからこそたまにしか訪れないゴールには喜びを爆発させる点は、人生そのものと言っても過言ではないと思うのは私だけだろうか。

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