コラム

2019.01.07(月) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 79:“凡事徹底” “働き方改革”の大津高校 平岡監督

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第79回:“凡事徹底”“働き方改革”の大津高校 平岡監督~大晦日に高校サッカーを見に行ったが、対戦相手の大津高校 平岡監督の指導法に目を奪われた~

昨年の大晦日、横浜の三ツ沢競技場まで高校サッカーの全国大会を見に出かけた。
人に話すと、「よくそんな暮れの慌ただしい日にサッカーなど見に行くなんて」と呆れられたが、よほどのことがない限り、私も大晦日に高校サッカーなど見に行かない。大晦日に見に出かけたのは、実に20年ぶりだ。20年前にも同じ横浜の三ツ沢競技場に行ったことを覚えているが、そのとき見たかった選手は、岩手・大船渡高校の小笠原満男選手だ。昨年末に鹿島アントラーズを引退したが、鹿島20冠のうち17冠に関わった、他に比類なきレジェンドだ。当時、岩手の無名の高校から、U-17日本代表に選ばれた選手がいると聞いて、どうしても自分の目で見ておきたかったので、足を運んだ。後に日本代表としてW杯でもプレイした名選手は、一人次元の違うプレイを披露して点を取ったが、その時の衝撃は今でも瞼に焼き付いている。高校時代の小笠原満男選手のプレイを見たことは、その後語り草にした。

今回の大晦日、私の足を競技場まで運ばせたのは、神奈川県代表の桐光学園高校の西川潤選手だ。20年ぶりに、私をして、どうしても自分の目で見ておきたいと思わせた選手が現れたのだ。
中学時代は、プロの下部組織である横浜マリノスのジュニアユースチームに所属し、そのままエースとしてユースチームに上がれる状況だったにも関わらず、「自分に足りないものを磨く」ために高校サッカーでプレイすることを選択したという。U-16日本代表に選ばれ、アジア選手権で優勝し、MVPも獲得している。そして、最近は、まだ高校2年生だというのにU-19日本代表に、飛び級で選ばれたという。バルセロナから戻ってきた久保建英選手と二人だけが飛び級で選ばれたと聞いて、ますます興味が沸いた。
さすがに大晦日に高校サッカーを見に行く人は少ないだろうと思っていたので、横浜駅に着いて、ものすごい数の同志がいたことに驚いた。
随分余裕を持って来たつもりだったが、横浜駅でサッカー場行きのバスは地下まで続く長蛇の列で、これではとても試合に間に合いそうにない。タクシーに切り替えようとしたが同様に長蛇の列で、買い物を終えて家に帰ろうとしているものの乗れずに困っている初老の女性から、「今日はいったい何事なのか」と話しかけられる始末だった。「もの凄く注目された選手を擁した、地元の神奈川県代表の高校が、サッカーの全国大会に出るんです。」と私は答えた。
結局、競技場の最寄り駅まで地下鉄で行って、15分ほど歩くことにした。

競技場は満員だった。地元ということもあったが、西川潤選手のプレイ見たさに多くの人が駆け付けたようだった。
そして、試合が始まって終わったが、桐光学園高校は0-5で大敗した。残念ながら、西川潤選手の活躍を拝むことはできなかった。しかし、彼にはまだ来年が残されている。もちろん、東京オリンピックでも活躍が期待される選手の一人なので、これから大いに応援したいと思った。

それにしても、西川潤選手を完全に抑え、桐光学園を完封して大勝した大津高校というのは一体どんな高校なんだと、大変興味が沸いてしまった。
熊本県の公立高校で、なんと大津町はたかだか人口3万人しかいない町だが、これまでにJリーガーを40人以上も生んでいるという。
調べてみると、25年前は無名だった熊本県立大津高校サッカー部を全国大会常連に変えたのは、現在もサッカー部総監督である平岡和徳先生ということだ。この名前には聞き覚えがあった。Jリーグが始まる前、高校サッカーだけがサッカー人気を支えていた頃、帝京高校3年生の時に主将でエースとして活躍し、国立競技場に6万人が詰めかけた伝説の決勝戦で清水東高校に勝利し、高校選手権を制した人だ。

平岡監督の指導方針を調べてみて、とても驚いたことがある。それは、「100分練習」、つまり大津高校の大きな特徴は練習時間が100分と決められている事である。居残り練習も20分までだという。これは強豪校のイメージを大きく崩すものだった。
平岡監督は「終わりを決めないと途中を頑張らない」と言う。ダラダラと200分よりも全力の100分という事である。実際の試合だってタイムアップがあり、終わりが決められている事で、その中で全力を尽くす事ができるのだという。
また、終わりを決めてメリハリをつける事で100分でどうすれば上手くなれるのかを自分で真剣に考えるようになる。「やらされている」環境が、「自分からやる」という環境に変わっていくそうだ。(参考:「世界一受けたい授業」2018年9月29日放送回)
これはまさに、「働き方改革」や「生産性向上」が求められている、我々ビジネスパーソン達にも大いに参考になる話ではないか、と思った。実際働き方改革を進めるある企業の幹部がこう言っていた。「スポーツで言えば、今後は、45分ハーフの試合が、30分ハーフにルールが変わったようなものと考える必要がある。」

さらに、平岡監督には選手育成にあたり監督就任以来変わらない5つのテーマがあると知った。言葉を読んでみると、極めて当たり前のことが書いてあるように思うのだが、これらは実は、恩師である古沼貞雄氏(元帝京高校監督)や小嶺忠敏氏(元国見、現長崎総科大付総監督)、松澤隆司氏(元鹿児島実監督)など全国の名将から教わった重要な事をまとめたものだという。

1: 諦めない才能を育てるのがスポーツの最大の財産である。
2: 技術には人間性がストレートに現れる。
3: 強いチームは良い挨拶が出来る。
4: 感動する心と感謝の気持ちを常に持とう。
5: 苦しいときは前進している。

平岡監督は「凡事徹底」という言葉を使い、当たり前の事を当たり前にできる事で人間性の成長を促しているのだという。
たまに高校サッカーを見に行くのもいいな、と思った昨年の大晦日だった。

(参考:「凡事徹底―九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由」 井芹 貴志著)

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