コラム

2019.10.31(木) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 88:ラグビーに足りないのはサステイナビリティ(持続可能性)

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第88回:ラグビーに足りないのはサステイナビリティ(持続可能性) ~あなたはラグビーW杯の優勝賞金額をご存じですか?~

アジアで初めて日本で開催されたラグビーのW杯は、大成功で幕を閉じそうだ。 日本代表の大躍進によるところが大きいと思うが、世間の話題をさらい、各地の試合会場やパブリックビューイングには、多くの人が訪れた。
明後日の11月2日に、決勝のイングランド対南アフリカ戦をまだ残してはいるが(注:この原稿を書いているのは10月31日)、この決勝の舞台も満員の観客で埋め尽くされ、(もちろん私も見る予定だが)テレビの視聴率も高い数字を叩き出すだろう。

ところで、唐突な質問で恐縮だが、ラグビーW杯の優勝賞金額をご存じだろうか? ちなみに、サッカーのW杯優勝国への賞金は、昨年行われたロシア大会を例にとると、43億円だった。優勝国への賞金のみならず、順位に応じて支給される賞金総額は、4億ドル(約430憶円)にも上ったと聞く。
ならば、ラグビーW杯は? 答えは、驚くことなかれ(いや、私は非常に驚いてしまった)、なんと“0円”だ。

優勝チームに与えられるのは、「ウェブ・エリス・カップ」という優勝トロフィーのみ。ラグビーはアマチュア精神を貫いていると言えば、聞こえはいいのかもしれない。また、選手達も、お金のために試合をしているのでは決してないだろう。事実、日本代表選手の日当はわずか1万円だ。日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフ氏も、日当の額にも言及して、「日本代表は報酬のために闘っていない」 と語っていた。
4年前のラグビーW杯の日本代表の日当は、選手1人あたり3000円だったということなので、それでも3倍にはなったということのようだ。しかし、命を落とす危険さえあるラグビー選手が得る日当としては、あまりにも安すぎないか。会見では、多くの選手が、あらゆることを“犠牲にした”という表現を使って、長期強化合宿の大変さを伝えていたが、それだけの練習をこなしたことは驚愕だ。試合でも、体の大きな外国人選手にもひるむことなくぶつかり続け、体もボロボロの状態だろう。私達を熱狂と興奮に導いてくれ、そして、感動の渦に包んでくれた桜の戦士達へは、感謝と尊敬の気持ちを抱いている。しかし、これでは「サステイナブルではない」、と思うのは私だけではないだろう。どこかに無理が生じてしまっている。日本代表に憧れてラグビーを始めた子供たちが増えても、保ち続けることが難しい。

誤解を恐れずに言えば、ラグビーは「趣味」の世界なのだ。

そう言えば先日、CSRとCSVの違いについて議論していたとき、CSRは「趣味」で、CSVは「本業」で取り組むことだと言ったら、妙に納得してもらった。 (注:CSRは、Corporate Social Responsibility の略称で、「企業の社会的責任」と訳される。一方、CSVは、Creating Shared Valueの略称で「共有価値の創造」と訳されるものだ。 CSRは企業の「事業とは全く関係ない」活動に対しても当てはまるのに対し、CSVは企業の「事業領域における」活動である。CSRは本業とは関係のない取り組みで、いわば「コスト」であった。それに対してCSVは、その活動自体を「本業」に据えている。CSV活動自体が競争の源泉であり、利益追求の対象である。そのために企業全体が動く。CSRは一つの部署が担当するのに対し、CSVは企業全体の目的になる。)

多くの企業が今、社会貢献に取り組んでいるけれども、CSRの取り組みをいくら行っても、あくまでも「趣味」でしかない。趣味だから、儲からなくなったり、本業が忙しくなったら、辞めてしまうこともある。要するにサステイナブルでないのだ。
一方、CSVは、「本業」を通じて社会課題を解決することだ。本業なので、事業活動で当然儲けなければならない。逆に言えば、社会課題を解決するからこそ、大いに儲かるはずだ。 CSVの本質は、「社会価値と経済価値の両立」にある。なんとなく「いいことやっています」では終わらないのだ。

W杯の優勝賞金に話を戻すが、調べてみると実はサッカーも、優勝賞金が設定されたのは最近で、日韓W杯(2002年)からだ。この大会から、成績に応じた賞金が支給されるようになったわけだが、それまでも、出場国に賞金が支給されていた。この制度も始まったのは1982年のスペインW杯からで、スペイン大会では、出場各国に約1億2000万円ずつが支給されたという。
現在(ロシア大会)では、出場全32カ国に大会準備費として150万ドルが分配され、グループステージ敗退国には800万ドルが支払われたので、出場国は最低でも950万ドル(約11億円)の分配金が保証されていた。
「クラブ・ベネフィット・プログラム」と呼ばれる、大会参加選手が所属するクラブへ支払われるものも用意されている。2億900万ドル(約238億円)が、各国連盟を通して選手を派遣するクラブへ分配される。  
「クラブ・プロテクション・プログラム」というものもある。大会期間中に選手が負傷した場合、このプログラムを通じて損失の補填金がクラブに支払われるものだ。1億3400万ドル(約152億円)が割り当てられている。

ラグビーをサステイナブルな存在にするために、是非とも世界のラグビー連盟や、日本のラグビー協会などが、リーダーシップを発揮してもらいたいものだと思う。
それにしても、あれだけスタジアムを満員にし、世界のラグビー連盟も巨額の入場料やスポンサーフィー、あるいは放映権料を得たはずだが、それらのお金は一体どこに行ってしまうのだろうか。

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