クライアント事例

株式会社野村総合研究所様

2021年の春「共感力を活用したコミュニケーション研修」をオンラインで実施
リモートワーク中心となった新しい働き方において、部下やチームメンバーとのコミュニケーション、うまく行っていますか?野村総合研究所(以下NRI)では、2021年の春に主任に昇格した皆さんを対象に、「共感力を活用したコミュニケーション研修」をオンラインで実施しました。昇格にあたってこれからの時代に求められる「協働するための」コミュニケーション・スキルを知り、身につけること。既に身につけている方にもさらなるスキルアップに向けて自身を振り返る機会として設けられたコースです。

この記事では、本プログラムの詳細について、このプログラムの導入を決めた人材開発部の池上英次様と三谷千恵様のお話も交えながらご紹介します。
左から)三谷千恵、池上英次様

「共感力」の3つの側面

「主任になると、後輩の指導はもちろんのこと、プロジェクトを率いるリーダーの役割を担う方が増えます。プロジェクトの主力メンバーとして、顧客やチームメンバーとの共創がより求められるようにもなります。そのためには、相手の立場や置かれている状況、考えの背景となる経験や価値観をくみ取ってコミュニケーションすることが必要です。」(池上様)

そのような「共感力を活用したコミュニケーション・スキル」はどのように強化できるのでしょうか。EQリーダーシップ提唱者のダニエル・ゴールマン氏は、共感を3つに分類しています。

①認知的共感:他者の視点を理解する力
②情動的共感:他者の感情をくみ取る力
③共感的関心:相手が自分に何を求めているか察知する力

本研修は、これらの3つの側面を強化するプログラムです。

池上様、三谷様から事前のヒアリングをする中で、NRIでは①の「他者の論点を掴む能力」は極めて高い方が多い一方で、②や③、そしてそれらを表現して相手に伝えるコミュニケーション・スキルにはまだ開発の余地があると考えました。伝わる情報力が少なくなりがちなリモートワーク下のオンライン・コミュニケーションでも、このスキルを積極的に駆使し、相手に共感を伝え、相手を動かせるようにならなければなりません。

役者のデモンストレーションで「共感」を目で確認

画面を通すと相手のノンバーバル(言語以外)の情報が少なくなり、共感や感情を伝えることは難しいとされがちです。そこで今回は、プロの役者のデモンストレーションを生で行い、共感を伝えるコツを肌で感じ実践練習する、オンラインならではの工夫を盛り込んだプログラムを開発しました。受講者の方から頂いたコメントは
  • 「相槌や表情を見せる等「傾聴している」ことを相手に伝えることの大切さがわかった」
  • 「普段、好印象を抱く仕事相手の方がなぜ感じが良いのかが理論立てて理解できた」
  • 「普段、相手に共感しているつもりで、きちんと向き合えていなかったことに気づいた。相手の思いや話題をすりかえて話してしまっていることが多々ありそうだと反省した」
  • 「共感モードでの傾聴、捉え方を広げる質問の仕方など、普段意識したことがなかったため、難しかったが改めて意識するきっかけとなった」
等、ふだん無意識に行っているコミュニケーションを見直し、意識して効果的に行うきっかけとなったという感想が多く寄せられました。

共感のプロセスを理論的に学ぶ

研修の冒頭では、「共感力」について理論的に学ぶセッションもありました。共感力は心理学やマネジメント・コミュニケーションの分野では、「他者の感情を共有できる能力」として、リーダーに必要な能力、チームや組織づくりの要素として重視されています。「共感力のある・ない」は生まれ持った感性・感覚のように思われがちですが、系統立てて学ぶことで、多くの人が共感力を発揮できるようになります。
研修の基盤となる概念図を見てみましょう。

私たちは仕事の場では、図の右側にある、起きている事象の事実、データ、プロセス、アクションプランに着目しがちです。しかし、コミュニケーションや問題解決の過程で、左側の人の感情や想い、状況や背景、考え方や価値観が右側に大きな影響を及ぼします。私たちはこの左と右を行ったり来たりしています。この図の左側「人の感情や思い、その背景の考え方、価値観」に注目し、共感力を発揮することで、よりよいコミュニケーションや課題解決が可能になります。

役者によるデモンストレーションの様子

前述したように、この研修の特徴のひとつは、プロの役者によるデモンストレーションが数多く取り入られた点です。

たとえば、
自分のポジティブ感情、ネガティブ感情の最近の体験を振り返って、一つずつ、仲間に紹介します。まずは個人作業でワークシートに書きだし、3分で発表します。


という演習では、発表する前に、役者によるデモンストレーションを見て、自分の感情を素直かつ信頼獲得のための自己開示として適した表現方法で表現し、伝えることにフォーカスが当てられました。

「それぞれのブレイクアウトルームで、役者の方が様々なアドバイスを下さっていました。ゆっくり話す、とか、ここで目を見て、など講師がやるより役者の方が専門的な見地からコメントしてくださったことが良いと思いました。終了後、役者の人に質問をしたいといって残った受講者もいたので、受講者にも響いていたのだと思います。」(池上様)

2種類の傾聴を使い分ける

また、積極的傾聴に関する演習では、ペアとなってまず話し手のAさんがイライラしていること、ストレスに感じていることを話します。聞き手は、
  • 1回目は、事実・データ・プロセス・アクションプランに着目した「問題解決の積極的傾聴」
  • 2回目は、人の感情や想い・状況や背景・考え方や価値観に着目した「共感的な積極的傾聴」
を行い、共感的な傾聴についてより深く学んでいきました。

これも役者のデモンストレーションを事前に視聴することで、より効果的に相手の話を引き出すことができたというコメントがありました。
  • 「共感をどう表現するかはやってみると難しい。共感していることを示してくれると話している側は安心して話すことができることがわかった」
  • 「感情面に共感するという部分は、普段あまりできていないと感じた。理性的にはできているが、あまり突っ込んでいない部分があると感じた」
  • 「共感モードでの傾聴、捉え方を広げる質問の仕方は普段意識したことがなかったため、改めて意識すると難しかった」
  • 「共感力を使ったコミュニケーションにより、意見をより引き出し、議論を活発にできると感じた」

ストーリーテリングで聞き手を動かす

最後の「ストーリーテリング(Storytelling)」のパートでは、自分自身について、そしてビジネスや組織について、紋切り型や借り物の言葉ではなく、生き生きした自分の言葉で表現することを目指しました。

ここでも役者がNGOのリーダーの役を演じ、ストーリーテリングの手法を活用して聴き手の行動変容を訴えました。受講者は、環境サミットに出席した経営者になってその話を聞いてもらいました。

役者のスピーチの終了後の「自分はどこに共感し、感情移入したか?」の問いには多くの人が、

「自分の想いや気持ちを素直に表現する」

「自分の弱みをさらけ出す(「自分にもわからない」と率直にいう)」

「データと共に、身につまされるエピソードや実体験を語る」

「聴き手に語りかけ、問いかける」

といった、ビジネスの場で重要とされるストーリーテリングの要素に気づきました。

「講師の方から“相手の共感や感情移入を呼び起こす伝え方とは?”という問いかけがあり、役者さんによるデモをしていただきました。役者さんならではの感情の表現が参考になったようです。」(三谷様)

豊かな表情、声の強弱や間のとりかた、ジェスチャーから呼吸のひとつひとつまで、役者さんならではの表現に講師も画面越しに圧倒されていたそうです。

その後、簡潔に伝える枠組みとしてPREP法も学んだあと、いよいよストーリーテリングを実践していただきました。

話し手は本番の練習として話す、そして、聞き手は話し手が想定する相手になって聞く「リアルプレイ」での形で行われフィードバックをしあいました。ブレイクアウトルームだったこともあり役者の方が全員にしっかりアドバイスする時間がなかったことが残念ですが、受講者の皆さんはそれぞれに共感力を発揮するための方法を身に着けていただくことができました。

ビジネスの場ではロジカルに淡々と説明しがちですが、これからは「思いをもって伝えること」「オンラインだからこそ感情をはっきりと見せること」などが大切になっていきます。

最後に、この研修全体を振り返っての、池上様と三谷様の感想を紹介させていただきたいと思います。

池上様

当社は現在、DXを推進しながら顧客・業界の変革に加え、社会の変革に挑戦しています。そこでは、今までにないデジタルサービスの確立や、様々なパートナーとの共創を通じた社会課題解決を目指しています。多様なステークホルダーとともに新しい変革を推進するには、論理力に加えてまさにここで学ぶ「共感的コミュニケーション」を使って共創していくことが不可欠です。受講者はこの研修でその共感的コミュニケーションの考え方や、演習を通した有効性をよく理解していたように思います。

三谷様

受講者のアンケートの中に「理論はシンプルでも実践は難しい」「プロジェクトメンバーとの信頼関係構築に役立ちそう」「ロジカルに話すだけではなく共感を持って進めないと理解はできても人は動かないということがよく理解できました。」といった意見が多くあり、業務でスキルを磨いていくイメージが持てたようでした。
理論と演習を効果的に組み合わせていただき、講師の方からは「共感力を活用したコミュニケーション・スキルは筋トレのように強化が可能です!」と感覚論ではないことを論理的に説明いただき、進行されていたのも印象的でした。