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2025.11.27(木) お知らせ

■【記事】なぜ組織はエンゲージメント調査で変われないのか? 人事の悩みをほどく後編3ポイント

エンゲージメントを測るだけで終わっていませんか

写真はイメージです

前編「エンゲージメント調査を経営の武器に変える——健康診断レポートを机に放置していませんか?」
1)非財務の経営指標として役員会で議題に上がっているか?
2)事業部トップのオーナーシップ:責任の所在は明確ですか?
3)HRBPの戦略的役割:信頼されるビジネスパートナーになっていますか?
の3つのポイントについてご紹介しました。

とはいえ、実際の現場ではこんなお悩みも多いのではないでしょうか。
「調査をしても、結果の共有や展開の仕方が難しくて止まってしまう」
「管理職が結果を正面から受け止められず、人事だけがモヤモヤを抱える」
「トップダウンで施策を投げても、現場の自発的な動きが続かない」

後編では、こうした“人事のリアルな悩み”に応える形で、
エンゲージメント調査結果を現場の行動につなげていくためのポイント4〜6をご紹介します。

今回は
4)透明性の確保:調査結果は速やかに全社に開示されていますか?
5)管理職のマネジメントスキル:改善活動の要となる能力は十分にありますか?
6)組織の自己再生能力を高める:社員が自発的に改善活動に参画する機会がありますか?
についてまとめました。

エンゲージメント調査結果活用のポイント4)
透明性の確保:調査結果は速やかに全社に開示されていますか?

4つ目のポイントは、調査結果が速やかに全社員に開示されていることです。エンゲージメント調査は、よく組織の健康診断に例えられます。もし、健康診断の結果を本人が知ることなく、どこかに秘匿されているとしたら、それは極めて不健全な状況です。自らの状況を自らが知ることこそ、体質改善の第一歩です。

組織においても同様の原則が当てはまります。エンゲージメント調査の結果を経営層や人事部門だけが把握し、一般社員には開示しないという姿勢は、組織の透明性を損ない、社員の信頼を失う行為ととられかねません。回答した社員には、結果を知る権利があり、また改善活動に参画する機会が与えられるべきです。

さらに重要なのは、開示のスピードです。エンゲージメント調査結果は鮮度が命。調査から開示までに時間がかかりすぎると、回答時から組織体制やビジネス状況が変化し、調査結果が現状と離れていきます。社員が調査結果に真剣に向き合わなくなり、改善活動への参画意欲も低下してしまうことでしょう。

調査結果を効果的に活用している企業では、調査終了後、わかりやすいシンプルな分析とともに、結果を全社員に速やかに開示しています。職場単位での結果の解釈や改善の方向性については、HRBPの出番です。まずは速やかな結果開示を通じて、自社が透明性を重視し、真剣に改善に取り組む姿勢を持っていることを社員に実感してもらいましょう。これによって、回答率が向上し、改善活動への参画意欲が高まる好循環を目指しましょう。
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エンゲージメント調査結果の活用ポイント5)
管理職のマネジメントスキル:改善活動の要となる能力は十分にありますか?

5つ目のポイントは、管理職が改善に取り組むための十分なマネジメントスキルを有していることです。健康診断の結果を受けて生活習慣の改善に取り組んだ経験がある人は、体質改善は早期に開始し、根気よく継続することが成功の鍵であることを知っていることでしょう。エンゲージメント向上も全く同じプロセスをたどります。

組織のエンゲージメントの要は、何といっても部下育成やチーム統括の責任を担っている管理職です。調査結果を受けて速やかに継続的な改善活動に取り組めるかどうかは、職場の管理職のマネジメントスキルに大きく依存しています。しかし、管理職に対する体系的なマネジメントトレーニングが不足しているという認識を持っている企業が多いのが現状です。
マネジメントトレーニングを十分に受けていない管理職は、自身のマネジメント行動に自信を持つことができません。その結果、エンゲージメント調査で厳しい結果が出ても、それを正面から受け止めることができず、目をそらしたり、調査項目の意義を軽視したり、結果を都合よく解釈したりする傾向があります。これでは改善活動は始まりません。

エンゲージメント調査を効果的に活用している企業では、管理職が自信を持って改善活動に取り組めるよう、十分なトレーニング機会を提供しています。具体的には、コーチング、フィードバック、チームビルディング、心理的安全性の構築など、いま、マネジメントに求められるスキルを体系的に学ぶプログラムが用意されています。また、エンゲージメント調査結果の読み解き方や、改善計画の立案方法についても実践的なトレーニング機会が設けられています。

管理職のマネジメント能力向上は、エンゲージメント向上だけでなく、生産性向上、離職率低下、イノベーション創出など、多方面にわたる効果をもたらします。管理職層は、人的資本経営の戦略的投資対象であり続けるべきでしょう。
なぜ管理職はエンゲージメント調査を受け止められないのか?~調査結果を職場風土の向上に生かすには | PFC

エンゲージメント調査結果活用のポイント6)
組織の自己再生能力を高める:社員が自発的に改善活動に参画する機会がありますか?

ポイントの6つ目は、社員が自発的に改善活動に参画する機会が設けられていることです。組織を人間の身体に例えるなら、経営陣は頭脳、管理職は運動機能に相当するかもしれません。しかし、頭脳や運動機能だけが発達していても、健康な生活を送ることはできません。人間の身体は、心臓をはじめとする臓器、血流や血圧、腸の活動や腸内細菌、自律神経のネットワーク、そして心の健康など、各所が連携し、コミュニケーションし、補い合って機能しています。企業組織も同様です。各部署、各人が連携し、コミュニケーションし、補い合って事業活動を行っています。

自律神経や自己再生能力さながらに、社員の自発的な改善行動がある組織は、強くて健全です。トップダウンの指示だけで動く組織は、環境変化への適応力が低く、イノベーションも生まれにくい。他方、社員一人ひとりが組織をより良くしたいという意識を持ち、自発的に行動する組織は、変化に柔軟に対応し、持続的な成長を実現できます。

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エンゲージメント調査を効果的に活用している企業では、職場をより良くしたいと思う社員が改善活動に参画する機会が豊富に用意されています。例えば、部門横断のプロジェクトチーム、改善提案制度、社内コミュニティ活動など、様々な形で社員の声を吸い上げ、実際の改善につなげる仕組みがあります。

このような機会があることで、社員は自分たちの声が組織に届き、実際の変化につながる実感を持つことができます。この実感こそが、さらなる参画意欲を生み、組織全体の改善サイクルを加速させます。また、改善活動への参画は、本人のエンゲージメントそのものを高める効果もあります。自分が組織の一員として価値を提供できているという実感が、仕事への意欲や組織への帰属意識を高めていきます。

組織開発のアプローチ:有機的システムとしての組織

ここまで何回か、身体の健康状態の比喩を用いてきました。組織を身体のように、有機的なシステムと捉えることが組織開発のアプローチです。機械的なシステムとは異なり、有機的システムは各要素が相互に影響し合い、全体として一つの生命体のように機能します。エンゲージメント向上が単一の施策で達成できるものではなく、組織全体の健康状態を総合的に改善することだとおわかりいただけたと思います。

経営層のコミットメント、事業部トップのオーナーシップ、HRBPの戦略的支援、透明性の確保、管理職のスキル開発、そして社員の自発的参画。6つの要素は、それぞれが独立して機能するのではなく、相互に関連し合いながら組織全体のエンゲージメント向上を支えています。一つの要素が欠けても、全体としての効果は損なわれてしまいます。

例えば、経営層がエンゲージメントを重視していても、管理職にスキルがなければ現場での改善は進みません。逆に、管理職が優れたスキルを持っていても、経営層のコミットメントがなければ、改善活動に必要なリソースが確保できません。また、トップダウンの取り組みだけでは限界があり、社員の自発的な参画があって初めて、持続的な改善が可能になります。

エンゲージメント向上は組織全体を巻き込んだ総合的な取り組みです。そして、その成功の鍵は、組織を有機的なシステムとして捉え、各要素のバランスと連携を重視する、組織開発のアプローチにあります。

エンゲージメント調査を組織変革の触媒に

エンゲージメント調査は、単なる社員満足度調査とは異なります。組織の健康状態を多角的に診断し、改善の方向性を示す戦略的ツールです。調査結果を経営の意思決定に活用し、事業部門が主体的に改善に取り組み、人事部門が戦略的に支援し、透明性を確保し、管理職のスキルを高め、社員の参画を促す。これら全てを行うことで、エンゲージメント調査は組織変革の強力な触媒となります。

人的資本経営の時代において、エンゲージメントは企業の競争力を左右する重要な要素であることにもはや異論のある人はいないでしょう。優秀な人材を惹きつけ、育成し、定着させるためには、高いエンゲージメントが不可欠です。また、イノベーションを生み出し、変化に適応し、持続的に成長するためにも、社員のエンゲージメントが鍵となります。

2回にわたってご紹介した6つのチェックポイントは、エンゲージメント調査を効果的に活用するための指針です。自社の現状をこれらのポイントと照らし合わせ、不足している要素があれば強化することをお勧めします。エンゲージメント向上は一朝一夕には実現しませんが、組織開発アプローチをもって継続的に取り組み、手ごたえとやりがいを感じる取り組みに仕立て上げていく、人事の手腕が問われています。

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