コラム

2022.02.26(土) コラム

■ 「ジョブ型」で問われる管理職のパフォーマンス・マネジメント・スキル

ジョブ型で求められるメンタリティとは?

 日立製作所が、2022 年 7 月にも「ジョブ型雇用」を管理職のみならず全社員に広げると発表しました。その他にも多くの企業が、専門性の高い人材を広く募り、年功序列を脱して変化への適応力を高めようと、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へのシフトを加速させています。

 詳細な定義や両者の違いに関する論議は様々ありますが、ジョブ型とメンバーシップ型の意味するところは、おおよそ上記のように整理できます。

 ジョブ型への移行には、人事制度や採用の仕組みなど様々な制度改革を伴いますが、箱だけ変えても魂が変わらなければ本質的には変わらないということは、人事のご担当者であれば、痛いほどにわかっていることと推察します。魂を変える、すなわち、制度を使う当事者たちのメンタリティが変わらなくてはいけないのですが、具体的にはどのようなメンタリティが求められるのでしょうか?

 ジョブ制とメンバーシップ制のメンタリティの違いが端的にわかる実話をご紹介します。

 東京のある組織で働き始めたJさん。上司から、「この仕事やっておいて」と言われて、「なぜ、この仕事を私がやるのですか?」と聞きました。隣にいた先輩が慌てて、「こういうときは、『はい、わかりました』と言うのよ!」とJさんを注意しました。
「上司から仕事を頼まれたら、普通、やるでしょ!」と驚いた先輩は典型的なメンバーシップ型のメンタリティを持っています。他方、「自分の任務とどう関係するのか教えてもらいたかっただけなのに!」と注意されて驚いた J 君は、ジョブ型に基づくメンタリティを持っています。

 あなたは先輩と J さん、どちらに共感したでしょうか。

 そして、あなたの会社の管理職は、どちらの社員を好ましく思い、評価するでしょうか。

 これは、弊社(PFC)のアメリカ人コンサルタントが 20 年ほど前に、初めて日本の組織で働いたときの実話です。20 年前の日本企業ですから、メンバーシップ型の職場風土であって当然ですが、これが組織の美徳として今日まで脈々と引き継がれているとしたら、ジョブ型の制度を持ち込んでも形骸化してしまうでしょう。新人事制度の説明会だけでは足りず、社員の意識改革と行動変容に取り組む必要があります。

 ジョブ型では、現在の職務(ジョブ)や将来就きたい職務について、社員と管理職の間で多くの「双方向」のコミュニケーションが発生します。職務や目標の確認、その意義や組織へのインパクトに関する目線合わせ、時には交渉が生じることもあるでしょう。メンバーシップ型の風土では、それらは暗黙の了解であったり、あるいは問うこと自体を社員の側が遠慮するかもしれません。

 ジョブ型を機能させるには、管理職に意識改革の心構えと的確なコミュニケーションスキルが不可欠なのです。

ジョブ型で問われる管理職の目標管理「運用力」

 一口に「ジョブ型」といっても、その制度は組織によって様々に異なっています。しかし、ジョブ型に共通する大きな方向性は、人事部から職場への人材マネジメントの権限移譲です。つまり、職務の定義、目標設定、育成、評価、報酬決定、キャリア開発支援、といった一連の人材マネジメントにおいて、管理職の果たす役割と裁量が大きくなります。

 そこで問われるのが管理職の目標管理(またはパフォーマンス・マネジメント)の「運用力」です。ジョブ型導入に際する意識と行動変容のために、目標管理をいま一度活性化し、管理職が部下一人一人に対して「目標管理を運用」できるよう、スキルアップの機会を提供することをお勧めしています。

 実際に、ジョブ型が元々からある外資系企業では、管理職を対象に「パフォーマンス・マネジメント・スキル研修」を頻繁に実施しています。研修でどのように、運用力を強化できるのでしょうか。弊社(PFC)の研修で使う演習例を一つご紹介しましょう。

演習:
リモートワークが広がる中、この機を捉えた商材がアメリカで見つかった。アメリカの業者から送られてきた商品説明資料を基に、急いで、日本市場にあった日本語版を作成せねばならない。英語が得意らしいAさんに頼もうか。でも、Aさんの役割(職務記述書)にはそんな職務は含まれていない。Aさんにお願いする場合、目標管理の3要素を駆使して、どのようなアプローチがとりうるか?

 昨今は研修もオンライン実施が主流なので、参加者にはチャットに回答を書き込んでいただきます。当然ながら、「Aさん、これ、やっておいて」ではダメなわけで、そんな回答をチャットに書きこむ方はさすがにいませんが、類似回答に、「A さんに熱くビジョンを語って引き受けてもらう」というものがあります。

 因みに、参加者から寄せられたチャット回答を見て、オブザーブで参加されていた人事の方が「アタマで理解しても、制度運用ができていない!」と危機意識に火が付いていました。

 さて、模範解答例は次のようになります。

  • 一時的な業務であれば、(自社のコンピテンシー等に照らして)行動で評価する。あるいは、Aさんが目指しているキャリアに役立つことを示す
  • 一時的だがかなりの作業量であるなら、目標に加えて、きっちりやり遂げたら、年度末には成果として評価する
  • 恒常的でかなりの作業量であるときは、Aさんの役割(職務記述書)に追加する。ただし、給与を上げることが必要となるかもしれない

 また、こうした演習の他には、1on1 面談スキルのような実践的なスキルトレーニングも行います。なんといってもリモートワーク導入後は、部下との 1on1 もオンライン実施が主流になりました。目標設定の 1on1 面談、期中のフォローや育成を目的とした 1on1 面談、期末の評価の 1on1 面談を、オンラインでロールプレイ練習することは一石二鳥で、たいへん理にかなっています。


PFCでは次のサービスを提供しています

★管理職向け:

評価者(パフォーマンス・マネジメント)研修
コーチング・スキル研修 
・SLIIⓇ

★一般社員向け:

被評価者向け研修:フォスター電機事例(オンラインコンテンツ事例) 
セルフ・リーダーシップ研修

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