コラム

2022.06.01(水) コラム

キャリア自律のためにあなたは何をする?

 人生100年時代の到来、企業がジョブ型シフトを加速させるいま、これからのビジネスパーソンには「キャリア自律」が不可欠である、と言われて反論する人はもはやいないでしょう。しかし、あなた自身はキャリア自律のために何をしますか?と問われると、うーんと考え込む人が多いのではないでしょうか。

 キャリア自律とは、一般的に「キャリア形成を企業に委ねるのではなく、社員自身が主体的にキャリア選択や能力開発を行うこと」とされています。日本企業においては、「キャリアに関する意思決定」は、年次による昇格や異動命令、慣習的なジョブローテーション、といった企業側の意図が強く働いていました。これを、社員自身が自分で考えて自分で決める自己決定権の方にシフトしていこうというのが、我が国のキャリア自律の問題の所在です。この考え方に基づいて、社員それぞれは何をすべきか、管理者はどうしたらよいかを見ていきましょう。

キャリア自立とキャリア自律は何が違う?

 社員による自己決定を強化するならば、「キャリア自立」と呼ぶ方がふさわしいでしょう。諸外国では、働く個人が主体となって自身の専門領域や就職先を決める、入社の時期もまちまちならば、在職期間や次のポストへの異動も本人の考え次第というキャリア自立モデルが一般的でした。日本でも、外資系を渡り歩いてきたビジネスパーソンには、「自分のキャリアは会社と交渉して切り開くものだ」と考える方も多いことでしょう。

 一方で、「キャリア自立」が青い鳥症候群を引き起こすリスクもあります。「キャリア自立」で心配になるのが、特に若手社員の離職です。実際、21年度の総務省の労働力調査によると、25~34歳の転職希望者は他の年齢層に比べて最も高く、コロナ禍の影響で増加傾向が加速、5人に一人が転職希望者という結果となっています。各人の自立に任せていると、能力開発が不十分なまま転職を希望する人材で溢れかえってしまうのでは?といった危惧も生まれることでしょう。働く個人の意志に加えて、組織に照らして自分を律していく視点を盛り込んだ、「キャリア自律」が重要であるわけです。

キャリア自律のモデル

 キャリア自律は何も、「石の上にも三年」とか「若い時分は忍耐や我慢が必要だ」といった精神論ではありません。自身のキャリアビジョンを持った上で、その舞台となる組織や事業環境の動向を把握し、主体的にプランニングしていくことを意味しています。

キャリア自律モデルによって充実したキャリアを歩むために、キャリア研究者らは「デザイン&ドリフト(考える時期と流される時期の両方を持つ)」や、「プランド・ハプンスタンス(計画された偶然性:偶然から学習する)」といった概念を提唱しています。

キャリア自律を育む「ジョブ型」組織

 目指すべきキャリアにどうやってたどり着くかを自律的に考えるために、何が必要でしょうか?キャリアを旅に例えるならば、地図があると計画が立てやすいでしょう。いま多くの企業がジョブ型シフトのために、組織内のジョブの整備を急いでいます。ジョブが社内に共有されれば、社員は自身がめざすキャリアや成長において、他の事業部も含めて自社にはどのような機会があるのか、「地図」を得られます。そのジョブを得るにはどのような能力開発が必要か、そのために今後どのような学習や経験を積んでいこうか、計画づくりや行動の指針を企業は提供するべきです。

管理職に必要なマインドシフトとコーチングスキル

キャリア開発が組織都合から個々人の自己決定重視へのシフトということに立ち戻ると、管理職は部下育成において、年次による役割期待というこれまでの固定観念を脱却し、DEI(多様性、公正さ、包摂性)の視点へのマインドシフトが必要です。言い換えるならば、部下一人一人のキャリアビジョンや持ち味に応じた、個別にカスタマイズされた成長支援を提供できなくてはなりません。

リモートワークの浸透により、多くの企業が、定期的かつより頻繁な上司部下の1on1を推奨しています。現業でパフォーマンスを出すための日々の1on1に加えて、各人のキャリアビジョンに応じた中長期的な成長支援のための1on1を定期的に行うことが必要になります。その際は、管理職が自分の意見を相手に押し付けるのではなく、本人の希望ややりがいを引き出して、本人が主体的に考えるように導くべきです。「上長に自分は社長になりたいと言ったら、『それは無理』と即座に否定され、モチベーションが下がった」という人がいました。このような指導法はご法度ですね。また、「部下に将来のキャリアについて聞いてみても、大した答えが返ってこない」と悩む管理職も少なくありません。いずれの場合でも、管理職には、高いコーチングスキルが求められます。

キャリア自律のための一人一人の自己理解強化

 キャリア研修を実施し、各自が目標管理シートにキャリアプランを記載するプラクティスが定着しつつあります。一人一人のキャリア自律をさらに促進するために、本稿では最後に、自己理解の促進を挙げておきます。自分ならではの自律型のキャリアビジョンやキャリア計画策定に不可欠でありながら、それほど単純ではないのがこの自己理解です。

 「自己認識にギャップがある」「フィードバックをなかなか受け止めてくれない」。部下についてこんな悩みをもつ管理職は数多くいらっしゃいます。できるだけ客観的に、受け入れやすい情報提供を行うために、分析ツールを活用する方法があります。職務コンピテンシーに基づく診断、好みやコミュニケーションの取り方といった特性分析、動機づけや価値観も含めた性格タイプなど、様々な基準による診断ツールがありますから、ニーズや成長課題に即したツールを選択することが可能です。職場や事業部のワークショップ形式で実施することで、多様性および他者理解を促すこともできます。


ピープルフォーカス・コンサルティングでは次のサービスを提供しています。


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