コラム

2022.06.08(水) コラム

ダイバーシティに不可欠なインクルーシブ・リーダーシップとは

 ダイバーシティ(多様性)が企業経営の中核テーマとなった近年、「インクルーシブ・リーダーシップ」というキーワードが企業の間で急浮上しています。

多様性推進、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)、さらにはダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の重要性や定義については、「なぜダイバーシティだけでは不十分なのか」をご覧ください。

 ここでは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)時代におけるリーダーシップのあり方について説明いたします。

インクルーシブ・リーダーシップの本質

 多様性は企業の競争力強化や持続可能性のために最も重要な要素のひとつであるとの認識が広まっています。ただし、多様な人材がいるだけでは不十分であり、その人材が事業や組織の運営に参画していなければなりません。つまり、多様な人材を包摂する(include)ことが必要ということです。それを行うのは、組織や職場のリーダーであり、インクルーシブ・リーダーシップが求められる所以です。

 インクルーシブな職場は、次の4つの特徴を有しています。

  1. 尊重:メンバーは、自分らしさを大切にでき、周囲から尊重されていると感じている
  2. つながり:メンバーは、同僚とのつながりを感じ、組織への帰属意識を持っている
  3. 貢献:メンバーは、自分の才能と活力が組織の目標達成に役立っていると感じている
  4. 機会:メンバーは、組織内にキャリアアップや成長の機会があると感じている

出所:Diversity Council Australiaのモデルを基にPFCが作成

 インクルーシブ・リーダーは、こうした職場づくりを目指さなければなりませんが、そのためには何らかの指標とそれに基づく現状把握が必要です。特に、各メンバーの本音やメンバー同士の関わり合いについては、リーダーの盲点となっている可能性があります。したがって、パルスサーベイ(注)のような定期的なアンケート調査を実施し、状況を把握することが推奨されます。(PFCでは、インクルージョンのアンケート調査サービスを提供しています。)

注)パルスサーベイ:社員の満足度や心の健康度を把握するための調査。 脈拍(Pulse)測定のように、定期的に短時間で回答できるアンケート調査を行うことで、組織の状況を即時に把握したり、変化の様子を捉えたりすることができる。

リーダーシップ・スタイルの変遷

 一般的に、インクルーシブ・リーダーシップは、指示型リーダーシップやトップダウン型リーダーシップとの比較において説明されることが多いようです。ただ、過去20年以上に渡って、コーチングの概念とスキルが広く浸透する中で、指示型リーダーシップの限界や難点についてはすでに語り尽くされた感があります。そこで、PFCでは、指示型との対比のみならず、コーチ型リーダーシップの発展型として、インクルーシブ・リーダーシップを捉えています。そして、それは「ファシリテーター型リーダーシップ」と同類と考えています。

 コーチ型もインクルーシブ・リーダーシップも、指示型の対極にあるのは同じですが、コーチ型は、リーダーがメンバー一人ひとりに注目し、自発性や潜在的能力を引き出すことが主眼とされているのに対し、インクルーシブ・リーダーシップは、それに加えて、メンバー同士の関わり合いや集団的能力にも注目します。なぜなら、多様な人材が共同作業することを通じて、意思決定力の向上やイノベーションの促進が期待できるからです。

 ざっくりと括ってしまえば、指示型は昭和のスタイル、コーチ型は平成のスタイル、インクルーシブ・リーダーシップは令和のスタイルと言えるかもしれません。もっとも、令和の時代においても、リーダーが全く指示を出さないということはありえませんし、インクルーシブ・リーダーが自分で決断しなくてはいけない場面も数多くあります。どんなときはファシリテーションをしてメンバーによる意思決定を支援したほうがよいか、どんなときはリーダーが自ら意思決定すべきかなどを見極め、状況に適した意思決定手法を駆使するのが、インクルーシブ・リーダーに求められます。

インクルーシブ・リーダーに求められるファシリテーションスキル

 多様性の時代において、指示やコーチングに加えて、間違いなく重要性が増すのがファシリテーションスキルです。これからの職場は、多様な人材が、互いに意見をぶつけ合うことが当たり前になりますが、議論や対話を通して最終的には組織としての結論にまとめていかなければなりません。ですから、リーダーは、ファシリテーターとしての役割が求められるのです。

 時々、「日頃から自分は職場の会議でメンバーたちに意見を出させており、ファシリテーションをやっている」と主張するリーダーがいますが、各メンバーがリーダーに向かって意見を言っているだけでは、ファシリテーションになっていません。ファシリテーターとは触媒役という意味であり、メンバー同士の議論を誘発することが必要なのです。

 さらに、インクルーシブ・リーダーが行うファシリテーションは、少数派(minority group)や過小評価グループ(under-represented group)の人たちが、安心して積極的に参加できるよう配慮しなければなりません。そうしたグループの人たちは、周囲の無意識バイアスなどによって、不利な立場に置かれがちですし、新しい視点やアイデアは、”辺境”や”よそ者”から生まれる可能性が高いからです。

 たとえば、ある職場において、若手社員が少数派であったとして、その若手社員が他の人たちとは異なる意見を表明したときどうなるでしょう。「彼・彼女は、経験が浅いから、あんなことを言ってしまうのだな」とその意見を軽視したり、遮ってしまったりしていないでしょうか。インクルーシブ・リーダーであれば、「若さ」や「経験の浅さ」は多様性の要素だと認識し、そこから生まれる異なる意見を歓迎するべきです。

 そのためには、何よりも、リーダー自身が、年齢、性別、国籍、職歴などにおいて自分とは異なる属性を持つ相手に対し、バイアスを持たないようにしなければなりません。インクルーシブ・リーダーが無意識バイアスのトレーニングを受けておくことは必須です。

 人的資本の情報開示や中核人材の多様性が要求される今日において、管理職をインクルーシブ・リーダーにしていくことは急務といえましょう。

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