コラム

2010.12.01(水) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 2:「チームとして力を発揮する」とは

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第2回「チームとして力を発揮する」とは

2010年のW杯の日本代表は、なかなか結果が出ず、本番直前までチーム作りに苦労していた。実際に、本番直前にも関わらず、レギュラーを入れ替え、ポジションの組み換えをし、模索と試行錯誤を繰り返していた。

そのような状況であったにも関わらず、W杯本番が始まると、一気にチームとしてまとまりを見せ、グループリーグを突破しベスト16入りするという結果も出した。日本に戻ってきた選手たちのコメントを聞いていると、「チームとしての完成度は高い」「このチームでもっとやりたかった」「あそこまで皆がチームのためにやれるチームはない」といった声が多かった。チームとして力を発揮できた充実感と、かつてないほどのレベルのチームワークのよさを選手たちが感じていることが伺い知れた。チームとしてまとまり、力を十分に出せた要因は多岐に渡ると思うが、彼らが経験したことの中で、チームとして力を発揮するということに関して、とりわけ示唆深いと思う点があった。今回のW杯の日本代表チームは、日本サッカー史上において革命的なことを行っていた。
それは即ち、「チーム(組織)か個か」という、これまでのサッカー界で繰り広げられてきた議論に終止符を打ったということだ。個を強くしないとチーム(組織)は強くならないので、どちらも追求する。個を強くしてチーム(組織)も強くする。こうした考えに立った。この考えは、日本サッカーの代表チーム史上、未体験の領域なのだ。これまでは、長い歴史の中で終始一貫して、個では勝てないからチーム(組織)で何とかしようとしてきた。

今回のW杯準備中に、岡田監督がある大学の先生に「日本は個では世界に勝てないから組織力を強めて何とかしたい」と相談したところ、「なぜ個では勝てないのか」と問われたらしい。最初はカチンときたと言う。そんなのサッカー界の常識だと。しかし、ちょっと待てよ、確かになぜ個では勝てないと最初から諦めているのかと、あらためて考え直すきっかけになったという。目から鱗の視点だったらしい。
組織力の強化だけに力を注ぐのではない、組織の強化に目もくれず個だけを強くしようとするのでもない、「個も強くしてチーム(組織)も強くする」ための、様々なプログラムに取り組んだ。日本代表チームが行ったことの中に、興味を引いたことがある。「チームのために」という言葉の使い方だ。日本代表の中でよく使われたらしいが、チームのためにという言葉は、一見、自分を殺して他のメンバーのために、という意味で捉えられがちだ。しかし、岡田監督が徹底して発信し選手に意識させたのは、誰かのためになんて思うな、「俺のチーム」と思え、というメッセージだ。
岡田監督は、チームが力を発揮するためのポイントは「いかに俺の(私の)チーム」という意識を持たせられるかだ、と言っている。そのことを分からせるために、代表選手たちに以下の話を好んでしたという。
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村の祭り酒という話を、選手によくします。収穫を祈念して、夏祭りをする村があった。祭りでは、お酒が入った大きな樽を、みんなでパーンと割って始める風習があった。ところがある年、貧乏でお酒が買えなくて、みんな集まって「どうしよう、これじゃ祭り開けねえな」と悩んでいた。するとある人が、「みんなが家からちょっとずつお酒を持ってきて、樽に入れたらどうだ?」と提案した。「それはいいアイデアだ」ということで、みんなが持ち寄って樽がいっぱいになった。「これで夏祭りを迎えられる。良かった」ということで当日にパーンとみんなで割って「乾杯」と言って飲んだら、水だったという話です。みんな、「俺1人ぐらい水を入れても分かんないだろう」と思っていたんです。
(出所:早稲田大学講演)
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チームのために、というのは、このチームを俺のチームと思うことから始まる。自分以外の誰かのために、から始まるという順番ではないのだ。For the teamではだめで、For my teamという意識でなければならないのだ。
岡田監督が気づいたのは、個でも強くならないとチームは強くならないということだ。
このことは重要で、結局チームの力というのは、1人1人がぎりぎりまでやって初めて見えてくるもの、ということなのだ。逆に言うと、1人1人の持てる力を十分に発揮しないうちに、“チーム力”なるものが存在することはないのだ。
我々PFCでも、チーム力、すなわちチームの相乗効果というのは、「一人ひとりが持てる力」の総和の外側にあるもの、と考えている。チームの相乗効果というのを、各人が(一人のときに普通に)出す(出したであろう)力の総和とは区別して定義している。チームの相乗効果とは、まずは、「1.引き出された各人のポテンシャル」を最初の要素としている。岡田ジャパンが考えたように、各人の力が伸び、そして十分に引き出されてはじめて、そこからチーム(組織)としての力の上積みの世界に入るのだ。ちなみに、それに加えて、さらに、「2.各人間での連動する動き」、および、「3.チームとしての(このチームだからこそ生み出された)創造的な成果」、の3要素から成ると考えている。
皆さんは自らの組織で、これまで、チーム作りにおいて、間違ったメッセージを発してきていないだろうか。「チーム(自分以外の誰か)のために頑張れ。」W杯直前で、調子を崩していった主力たちは、自分がチーム(組織)を何とかしなければという重圧を抱え込み、さらに「チーム(組織)のために自分を殺さなければ」という間違った方向で捉えてしまった、と語っている。一人ひとりが自分の力を蓄え、自分を徹底的に活かすことによって、チームの力が上がるように、アラインするのがマネジメントの仕事だ。そして、「誰かのためにではなく自分のために、自分を徹底的に活かして、そして大いに自分のチームに貢献してくれ。」というメッセージを発信しなければならないのだ。
我々も、個かチーム(組織)か、の議論が組織の中にあるのであれば、終止符を打たなければいけない。

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 1:美意識がないと問題は見えない
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 3:グローバルに活躍する人材を育てる(上)