コラム

2015.06.01(月) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 44:汚職や不正をなくすという国際「援助」のしかた

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第44回 汚職や不正をなくすという国際「援助」のしかた~汚職事件で揺れるFIFA(国際サッカー連盟)を見て思うこと~

サッカーの世界が、巨額の汚職で揺れている。
このほど、FIFA(国際サッカー連盟)から現職の副会長2人を含む9人の逮捕者が出た。さらに、マーケティング・メディア企業の5人の容疑者も、FIFA側に賄賂を支払う見返りに、サッカーの国際大会に絡む権利獲得の便宜を図ったと見られ起訴された。24年間に渡って総額1億5千万ドル(185億円)以上というから、そんじょそこらの政界の汚職が可愛らしく見えてくるぐらいの規模の話だ。

ただ、今回の逮捕劇は、あくまでもアメリカのFBIによる、アメリカ大陸で巨額マネーを握る企業グループのマネーロンダリングなど金融絡みの犯罪を徹底糾弾するという性格のもののようだ。多くの人が誤解しているようだが、「ワールドカップを巡る不正」にメスが入ったわけでも、「FIFA組織内部の浄化」が否が応にも求められる状況というわけでもないのだ。組織の健全化の道のりはまだまだ遠いようだ。

というのも、「ワールドカップを巡る不正」にメスを入れるなら、初のアフリカ大陸での開催となった2010年の南アフリカW杯招致や、2022年のカタールW杯招致など、アフリカや中東の関係者から逮捕者が出てしかるべきだ。

しかし、起訴されたのは、いずれも南北中アメリカ大陸のサッカー連盟関係者で、国別に見れば、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラ、コスタリカ、ニカラグア、トリニダード・トバゴそしてケイマン諸島となる。

特にFBIが狙い撃ちにしたのは、ケイマン諸島サッカー協会会長のジェフリー・ウェブだ。彼は、現在FIFAの副会長であり、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)会長も務めている。ケイマン諸島など、W杯には一度も出たことのないサッカーの弱小国にすぎないが、タックス・ヘブンとして有名で、マネーロンダリングなどの犯罪ではお馴染みの場所である。

また、「FIFA組織内部の浄化」が求められる状況にあれば、この汚職逮捕劇の最中に、会長選挙を堂々と強行するわけがない。FIFAは批判に聞く耳を持たず、予定通り会長選を行い、この度79歳のブラッター会長が5選を果たした。

これだけ多くの逮捕者を出しておいて、自分は再選され、「副会長や理事の不正はコントロールできない」と発言している。仮に自身が完全に潔白だったとしても、会長なのだから、「コントロールできていない」ことの責任は問われるべきだ。

しかし、責任が問われるどころか、今回のことで、FIFAの会長は何ともおいしい立場にあり、FIFAの組織運営もいかに不透明であるかが、世間一般の人にも広く知られることとなった。会長職には定年や多選を禁じる規定を設けず、高額な年収は一切公開せず、そして何より、わずか24人の理事がW杯の開催地を決める権利を持っているというのだ。汚職の温床になりやすい仕組みがそのまま維持されている。

かつて、IOC(国際オリンピック委員会)は、五輪招致をめぐっての贈収賄事件を契機として、自己改革をしている。会長の在任期間は最長12年としたし、定年を80歳から70歳に下げた。そして何より、オリンピック選手などを委員に加え、1000人を超える委員の投票で開催地を決めるという仕組みに変えている。1000人を超える人間の買収工作はそう簡単ではないので、正々堂々と戦うしかなくなるのだ。FIFAも大いに見習い、組織の内部の浄化も不正の撲滅もはかってもらいたいというのは、世界中のサッカーファンの願うところだろう。

ところで、自身の責任追及の仕方、あるいは汚職や不正といった問題は置いておいても、ブラッター会長のビジネスの根本的な考え方に関して、個人的に思うことがある。

彼は、1998年に会長に就任すると、テレビ放映権を衛星放送などに高く販売するようになった。それまでの会長は、世界中で試合を見てもらうために、公共放送に安価で販売していたので、一気に金額の桁が変わった。そして放映権料は大会を追うごとに高くなった。2014年W杯ブラジル大会では放映権と商標権だけで40億ドル(約5千億円)の収入を得られるほどにまで育てたという。FIFAの財源をふくらませたサッカー界の大功労者であることは間違いないだろう。

この収入で財政的に余裕が出来て、ゴールプログラムという各国協会への財政支援を始めた。実際、アフリカやアジアの発展途上国からは支援を求める声が大きかったようだ。練習場もなければ、サッカー協会の事務局もない。職員やコーチを雇うお金すらなかった協会もある。財政支援プログラムでは各国の協会に対し、100万ドルを拠出した。

その成果で、例えば、世界の209の協会すべてに電話、パソコン、協会のメールアドレスなどが完備したという。ブラッター会長がいなければ、FIFAから貧しい国に資金が回ってくることは決してなかっただろう、と話す関係者もいるくらいだ。

ただ、このやり方、つまり、簡単に言えば、儲けられるところからはふんだんにとって(「搾取」して)、貧しいところへは「援助」するという考え方は、いずれ破たんをきたすのではないかと私は思ってきた。世界最大の祭典であるW杯を先進国でもテレビで見れない人が数多く出てくることへの懸念が一つの理由だが、それよりも何より、貧困国の依存体質をより大きく育ててしまうことになると考えるからだ。

やはり、儲けるだけ儲けて別のところへ配分する、という考え方は持続可能ではないので健全でないと思うのだ。あくまでも、自力で資金を捻出できなかった地域や領域が発展し自立していくという方向に舵を切らなければ続かないと思うのだ。

貧困地域の多くでは、まだまだ不正や汚職が多く、それによって社会が正常に機能しないことが貧困から抜け出せない大きな原因になっていると聞く。

ある調査によると、貧困に苦しむ人々は一貫して、そのほとんどが腐敗や汚職によって苦しんでいる、というのだ。(参考:トランスパレンシー・インターナショナル)

世界107か国で114,000人以上を対象に行われた「世界腐敗バロメーター2013」という調査がある。

この調査によれば、何と4人に1人が、最も基本的なサービスを受けるために賄賂を支払ったことがあると答え、最貧困の国々においては、2人に1人となっている。腐敗によって支払われる賄賂は、違法であるだけでなく、人々がより良い生活を手に入れるための基本的な人権を侵害しているのだ。

腐敗・汚職が多い国では、国がどれほど豊かか貧しいかには関係なく、例えば、妊娠・出産に伴う女性の死亡者数や、教育を受けていない子供の数が多い。

逆に、法が尊重され、きちんと責任の果たされている腐敗の少ない国々では、教育、医療、水、衛生設備へのアクセスなどが、国の豊かさに関わらずより良いものとなっている。

こうした事実を認識すると、ならば、サッカーを通じて不正や汚職を無くしていく姿を見せることこそが、実は大いなる「援助」になるのではないかとさえ思う。今回の事件で、ブラッターがそうしたことに思いを馳せる機会が少しでもないものかと願う。

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