コラム

2017.08.01(火) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 65:本田圭祐選手に見るアドラー心理学

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発(松村卓朗)】
第65回 本田圭祐選手に見るアドラー心理学~メキシコで新たな挑戦を始める本田圭佑選手が実践してきた“嫌われる勇気”~

この度、本田圭佑選手が、イタリアのリーグからメキシコのリーグに移籍した。新天地を開拓し、また新たな挑戦を始める。
かねてより、本田圭祐選手の言動を見聞きしていて、「アドラー心理学」の実践者のように感じていた。組織開発や人材開発に携わる皆さんであればもちろん御存知だろうが、ユング、フロイトと並ぶ、心理学の巨匠アドラーが唱えた心理学は、少し前に大変なブームになった。アドラー心理学を紐解いた本「嫌われる勇気」は、100万部を超える大ヒットになったという。本田圭祐選手がアドラー心理学にどの程度精通しているか知る由もないが、私なりの理解で、アドラー心理学に照らして、彼のような一流選手の態度を確認し、この機会に我々も学んでおきたいと考えた。

”嫌われる勇気”などと聞くと、周りのことを気にせず思うがままに生きるという意味にとられがちだが、それはただの傍若無人というものだ。”嫌われる勇気”とは、本当に実現したいことがあるのならば、周囲の人間関係を解放し、自分自身の心がかけるブレーキを外す覚悟を持つ必要があるということだ。言い換えれば、”自分を貫く勇気”だ。
アドラー心理学はいくつかの考え方の柱で成り立っているが、ここではそのうち3つに触れたい。
1)原因論ではなく目的論
2)課題の分離(相手の課題ではなく自分の課題)
3)競争意識からの解放(健全な劣等感)

1)原因論ではなく目的論
「足が遅いからサッカー選手になれない」「高校でトップチームに上がれなかったからプロになるのは無理だ」「日本人はフィジカルが弱いから世界で勝てない」
アドラーは、こういった「AだからBができない」という態度を劣等コンプレックスと呼んでいる。自らの劣等感を言い訳にして、目の前の課題から逃れようとする態度だ。言い訳がある限り、その選手はうまくいかないことを正当化できる。
かつてフロイトの心理学では、コンプレックスの”原因”に着目した。うまくいかないことの原因を、過去や置かれた環境に見つけることで安心はできたかもしれない。しかし、アドラーは、その人が隠し持っている“目的”を考える。どんなに正当化しても、理由を述べても、目の前の課題から逃れることが実は本人の目的だというのが、アドラー心理学の基本的な考え方だ。
本田圭祐選手は、足が遅かった。高校ではトップチームに上がれず、所属チームから放出された。日本人では、世界のトップリーグで戦うのは難しいと言われ続けてきた。
しかし、本田圭佑選手がハンデを口にすることを見たことがない。過去に何があろうが、どのような環境に置かれていようが、自分が「これからどう生きるか」には一切関係がない、という態度を貫いてきている。未来へ向かうために大切なのは、「何が与えられているかではなく、与えられたものをどう使うか」だと、アドラーは言っている。

2)課題の分離(相手の課題ではなく自分の課題)
アドラーは、「すべての悩みは、対人関係の悩みだ」とまで言う。そして、対人関係の悩みから解放されるために、承認欲求を否定すればよいという。
「われわれは、他者の期待を満たすために生きているのではない。他者からの承認を求め、他者からの評価ばかりを気にしていると、最終的には他者の人生を生きることになる。」と語っている。
他者からの評価などは、自分ではコントロールできない“相手の課題”なのだからきちんと切り離して考え、自分は、自分がコントロールできる“自分の課題”に集中するのみだということだ。
本田圭祐選手が、イタリアの名門ACミランに移籍したときのインタビューを見直してみた。
「がっかりされるしかないんですよね。がっかりされるのはわかっているんですよ。期待されているわけですから。「ああ、その程度か」と思われる、その可能性は高いですよね。僕のクオリティはそのレベルやから、まだ。自分は、世界でいちばん課題多いと思います。課題の多さは、世界に誇れるくらいだと思っています。その伸び代に可能性を感じているんです。まだまだ伸びるって。なぜなら俺、体力ないから。小さい頃から体力なかったんですよ。コンプレックスだったんですよ。それを克服したとき自分の成長だけが満足なんで自分のコンプレックスを人に言うのが全然恥ずかしくない。それがスタートなんです。」(「プロフェッショナル~仕事の流儀」2014年6月2日放送(NHK))
自分がコントロールできる自分の課題だけに集中し、努力していこうという姿勢に満ちあふれた言葉だと感じた。

3) 競争意識からの解放(健全な劣等感)
アドラーによると、誰もが劣等感を抱えて生きている。劣等感は否定すべきものではない。なぜなら、人は劣等感を抱くからこそ向上心を抱き、努力するからだ。
しかし、抱く劣等感が“健全”なものかどうかが、重要な問題だとアドラーは言う。健全な劣等感とは、あくまでも“理想の自分”に対して抱くもので、他者との比較から生じるものではない。
やはり、本田圭祐選手のインタビューから言葉を拾ってみる。
「極端に言うと、僕の場合、無理をして先に人格を作っちゃうんですよね。ヒーローとしての人格を作って、普段からそう振る舞うようにする。それを続けでいたら、自分の本物と重なるんですよ。作った人格が、本当の人格になるんです。そうしたらほんまにカッコイイ本田圭祐ができあがるんですよ。だから、一日一日が本当に大切になってくるんです。
僕にとっての強さの定義っていうのは「自分に打ち克てるかどうか」だと思います。人生生きてて本当に自分と向き合ってますし、自分に問いかけてることが多いんで、自分と向き合って自分に打ち克つこと。そこに尽きます。」
(「プロフェッショナル~仕事の流儀」2014年6月2日放送(NHK))

本田圭祐選手の新天地での活躍を心から応援したい。

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