コラム

2019.05.31(金) コラム

サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 83:本田圭祐選手が代表監督を務めるカンボジア

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第83回:本田圭祐選手が代表監督を務めるカンボジア ~GIAリーダープログラムで訪れる“カンボジア”に思いを寄せて~

皆さんご存知のように、弊社が主催するGIAリーダープログラムでは、各社の次世代のリーダー達を連れて例年「スリランカ」に行っていたが、先月コロンボで起きた大きなテロの影響で、今年は、残念ながら渡航を断念することに決めた。 スリランカを訪れるのは私自身7年振りで、非常に楽しみにしていたので、何とか行けないものかと、スリランカのパートナーと何度も連絡を取り合い、現地の安全面をぎりぎりまで確認した。しかし、いくら私が行きたいと思っても、現在外務省の渡航安全性ガイドラインで「レベル2」(不要不急の渡航はやめる)なので、社員の派遣を許すことはできない企業は少なくなく、致し方ない決断ではあった。

スリランカに行くことは取り止めたが、代わりの渡航先は「カンボジア」にすることにした。 渡航先として急遽いくつかの候補国を検討したが、当然のことながら、GIAリーダープログラムの目的を果たすことができる国であることが絶対条件だった。 即ち、本業を通じて社会課題を解くことを考えるレッスンの場として機能する国のサイズであること、新興国の躍動を感じることのできる経済発展著しい都会もあれば、電気や水道やガスなども通っておらずBOP(Base of Pylamid)と呼ばれる農村にもアクセスできること、日本にいては体験できないような価値観を揺さぶられる体験もできて、それでいて安全面が確保されていること、何より、信頼できる現地パートナーがいること、などが条件だった。 検討を進めるにつれて、カンボジアであればこれらの諸条件を満たせることが分かってきた。スリランカに代わって十分に、次世代リーダーの皆さんに、グローバルリーダーとして大いに成長できる機会を提供できることが期待でき、私自身、逆に今は楽しみで仕方なくなっている。

これも皆さんご存知のように(?)、カンボジアと言えば、本田圭祐選手が昨年、代表監督兼GM(ゼネラルマネージャー=組織への決定権を持つ)になった国でもある。現役のサッカー選手でありながら代表監督になるという前代未聞の出来事に、昨年発表された当時、多くのサッカーファンは度肝を抜かれた。 この稿では、これから訪れるカンボジアを知るためにも、まずは、本田圭祐選手の監督就任の経緯から確認しておきたいと思う。

就任の経緯を確認し、私が最も驚いたのは、代表監督になったこともさることながら、カンボジアからオファーされて受け入れたのではなく(そりゃそうだ。現役選手にオファーするのは失礼だ)、本田選手から志願したということだ。そして、「本気なら」ということで受諾されたということだ。 つまりは、前例のないことを本田選手自ら考え、実際に行動に移し、受け入れられたというわけだ。欧州のクラブチームのオーナーになったり、俳優のウイル・スミスとアメリカでファンドを立ち上げたり、誰も成し遂げたことのない新たな挑戦をすることが身上の本田圭祐だが、これこそ、彼の真骨頂なのだろう。

それにしても、彼はなぜこんな挑戦をするのだろうか? もちろん、それは彼にしか分からないことだが、彼の言葉を紐解くと、少しは理解できるような気がした。 2018年8月12日に開いた監督就任会見で、彼は2つのミッションを表明している。 1つは、カンボジアサッカー連盟、各チーム、育成年代のすべてが同じサッカースタイルをつくること。 2つめは、サッカー以外のカンボジアの素晴らしさを世界に伝えていくこと。
(出所:https://goo.gl/Vt8qRJ )

就任会見の彼の言葉から推測するに、次の3つの可能性を感じてチャレンジしたということではないかと思う。
1.監督としての可能性:
彼は、代表選手からの引退も既に発表している。近い将来、選手としての区切りを迎えることもどこかで考えているはずだ。次のキャリアを考える中で、サッカーの世界に身を置くならば、監督として何ができるかを、選手であるうちにつかみ取っておきたいと考えているのだろう。
2.カンボジアサッカーの可能性:
代表監督になりたいと考えたとして、どこの国でもいいわけではないはずだ。今はまだ150位から200位を行き来する、サッカー未開の地とはいえ、自ら手を挙げてカンボジアに交渉に行ったということだから、よほどカンボジアサッカーに魅かれる点があったのだろう。 少なくとも、「サッカーのスタイルを確立」すれば(そしてそれができると考えてもいる)、もっともっと強くなれる国だと考えたことは、間違いないようだ。
3.カンボジアの可能性:
そして、最後に、カンボジアという国の可能性に大いに魅力を感じているようだ。彼は自身が掲げた監督としてのミッションの2つ目に、「(サッカー以外の)カンボジアの素晴らしさを世界に伝えていくこと」と明言している。 彼が言う“カンボジアの素晴らしさ”を、まだ私は全く理解できていない。しかし、彼がミッションに掲げるくらいなので、今回のGIAリーダーの旅を通じて、大いに感じ、掴み取り、十分に理解したいと思う。本当に楽しみだ。

ちなみに、本田圭祐選手は、カンボジアでは、代表監督兼GMのみならず、2016年には経営権を取得してクラブチームの経営にも乗り出している。(シェムリアップ・アンコールFCを買収し、チーム名を改称し、現在は「ソルティーロ・アンコールFC」となっている。) このチームの経営に乗り出すにあたって、彼が次のように語っている記事を見つけた。 「夢を持つことが当たり前のように考えていたが、海外に出て初めて、それが当たり前ではないということに気付いた。シェムリアップの学校を訪問した際、『夢は何ですか』と(子供たちに)聞いたら、先生とドクターからしか答えが出てこなかった。世界のどの子供にも道が開けているということを伝えるプロジェクトになる」と明かした。
(出所:日刊スポーツ 2016年12月26日号)

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