コラム
2019.07.01(月) コラム
サッカーから学ぶ組織開発・人材開発 84:ビジョナリーサッカークラブのつくり方
【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第84回:ビジョナリーサッカークラブのつくり方 ~「日本に“インテル”をつくろう」という日本初の試みに挑戦する鎌倉インターナショナルFC~
先日、友人の四方健太郎さんにお誘いをいただき、「鎌倉インターナショナルFC」のキックオフ・ミーティングに参加してきた。 2年前に四方さんがオーナーとなって立ち上げたばかりのサッカークラブだが、クラブのビジョンと志と試みに、本当に多くの仲間が集まっている姿を目の当たりにして、こんなにもワクワク・ドキドキした時間を過ごしたのは久しぶりで、とても刺激を受けた。
そもそもまずは四方さんという人を紹介しておこう。彼はサッカー界ではとても名の知れた人だ。 2008年に経営コンサルティング会社のアクセンチュアから独立し、その後の1年間で、2010年W杯南アフリカ大会に出場する32か国すべてを回る「世界一蹴の旅」を行い、同名の書籍を上梓した人だ。 サッカー好きと、人材開発会社を経営する共通点から、7~8年前に知り合い、PFCが開催した「サッカーから学ぶ組織開発・人材開発」のイベントにも、ゲストスピーカーで来てもらったこともある。 彼は、4年前からシンガポールに居を移し、「アジアサッカー研究所」を創設し、Jリーグクラブのアジア戦略を支援する活動を行っている。
例えば、ホームタウンの学生が、東南アジアにインターンシップをする手助けをすることで、Jクラブと東南アジアの企業にパイプを作るといった活動だ。Jクラブは、国際教育や国際ビジネスを推進できるというわけだ。
キックオフ・ミーティングでは、彼がこのクラブを立ち上げた経緯から話が始まった。 Jリーグが明確に「アジア戦略」を打ち出しているにも関わらず、なかなか「アジアサッカー研究所」の取り組みは進まなかったという。 目の前の仕事に追われるスタッフが大半で、ビジョンにまで目が向かないのが、ほとんどのJクラブの実情だ。各クラブに出向いても、「試合が続いて忙しい」「集客が厳しくてそれどころではない」と言われ続けたという。
シンガポールの居酒屋で、やりきれない思いでタイガービールを飲みながら、現地で知り合った日本人に、「Jクラブがなかなか動いてくれない」という愚痴を聞いてもらっていたときに、次のように言われたと言う。 「いっそ、自分でやっちゃえばいいんじゃないですか?自分でクラブを立ち上げて、自分で国際化事業をやる。」 その言葉を聞いて、すっと視野が開けた気がしたと四方さんは語る。 どうせ何をやったって大変で苦労するなら、「人が動いてくれない」「環境が変わらない」ということで大変で苦労するより、自分が始めたことで大変で苦労した方がよっぽどよい。それが彼の信条だったので、その場で、すっきりとした気持ちでクラブ設立に立ち上がることができたという。
このサッカークラブのコンセプトは、「日本に“インテル”をつくろう!」というものだ。徹頭徹尾、国際化を意識したサッカークラブということだ。 イタリアには、「インテル・ミラノ(Internazionale Miano)」というクラブがある。かつて、日本代表の長友選手が長く在籍して活躍したチームだ。ブラジルにも、「SCインテルナシオナル(Sport Club Internacional)」という古豪クラブがある。 国際を謳ったこうしたクラブは、他のクラブが地域に根ざし、地域貢献を中心に据え、地域出身の選手をファンはとりわけ大切にするのとは、一線を画している。例えば、インテル・ミラノは、外国人選手の加入問題をめぐってもめた際ACミランから独立してできたクラブで、「国籍を問わず世界中の選手に門戸を開く」を基本理念としている。
ブラジルのインテルナシオナルも、設立の主体となったのは別の町から来た3人だ。サッカーをしたかったのに、町のどのクラブもよそ者という理由で受け入れてくれなかったので、その3人に動かされた40人の若者により設立されたという。設立の覚書には、「人種、宗教や経済的な差別は受け入れない」とある。 徹頭徹尾国際化を意識するからこそ、ホームタウンは古都鎌倉に決めたと四方さんはいう。
鎌倉インターナショナルFCの考え方で、さらに、普通のサッカーのクラブと根本的に違っていて、私がとりわけ面白いと思ったのは、クラブの存在意義を、「サッカークラブを通じて、日本や日本人を国際化する」ということに定めていることだ。つまり、勝つことより大切なことがある、と言っているのだ。世界中に存在するほとんどすべてのクラブは、勝つことを至上命題にしているので、これはもはや、サッカークラブを超えた存在ともいえるのではないか。
四方さんと、鎌倉インターナショナルFCの挑戦は、まだ始まったばかりだ。 2年前に立ち上がったチームの記念すべき最初の練習は、なんと選手1人しか集まらなかったらしい。翌週は2人。「倍増したね」と冗談めかしていたが、その翌週は4人。増えたのは、女子マネジャーと小学生の男の子だった。笑えなくなってきたという。
それから2年。昨年はJリーグにつながっている神奈川県リーグ3部リーグに加入し、99チームの中で昇格トーナメントを勝ち上がり、見事昇格を決めた。今年は、神奈川県2部リーグで戦っている。ゼロから始めたチームが、毎年昇格を続ければ、J1まで7年でたどり着く。 鎌倉市長も、鎌倉インターナショナルFCのためのスタジアム建設を約束してくれた旨を、先日ホームページで発表したという。
目指す先は遠く、高いけれど、でも、誰かが一歩を踏み出さなければ何も始まらない。四方さんの話を聞いて、そして、四方さんのビジョンに共感して集まった鎌倉インターナショナルFCを支える多くの仲間に接して、既に本当にとても大きな一歩を踏み出しているのだと感じて、私もとても刺激を受けた。
参考)「ビジョナリーサッカークラブのつくり方」鎌倉インターナショナルFC著 参考)https://kamakura-inter.com/
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